第24話 風のサウスリバー

 いや、勝負って……。


 勝手に賭けられたアリシアと顔を見合わせると、アリシアは深々とため息を吐いた。


「ロザリィ。悪いけど、ミナリーと友達を辞めるつもりはないわ」


「わたくしは善意で忠告して差し上げていましてよ、アリシアさん。平民との馴れ合いは王国七大貴族家の品位を貶めますわ。それに、そこのミナリー・ロードランドはあなたに良からぬ影響を与えている様子。違いますの?」


「……否定は、できないわね」


「いや否定してよっ!」


 そりゃ、わたしのせいでアリシアを遅刻させちゃったけどもっ! ……うん、十分に良からぬ影響を与えちゃってるね!


「でも、それでもミナリーはあたしの友達よ。誰が何と言おうと、そこだけは譲れない。家がどうとか、貴族がどうとか、関係ないわ」


「聞き分けがない。まるでお子様ですわね。アリス様がお聞きになったらどう思われるかしら」


「姉さまなら、あたしの肩を持ってくれるわよ。何があってもね」


 アリシアはそれが当然だとばかりに言い切った。


 確かに、アリス先輩ならアリシアのすることなすこと全て肯定してしまいそうだ。それくらい、妹のことを大切に思っている。


 それを、アリシアはちゃんと理解しているんだ。そのうえで、対抗心を燃やしている。


 なんだ。アリシアもお姉さんのこと好きなんじゃん。


「話になりませんわね。アリシアさんはそれでよくても、ミナリー・ロードランドはどうなんですのよ。あなた、アリシアさんに迷惑をかけているのをわかっていまして? 友達としてアリシアさんを想っているのなら、自ら身を引くことが正しい友達ではないのかしら?」


「まあ、そうかもしれないけどね。でも、アリシアと約束したから」


 実感はないけれど、見えない部分でわたしがアリシアに迷惑をかけているのだとしたら、ロザリィの言うように身を引いたほうが良いとは思う。


 けど、気にしないって決めたのだ。アリシアがそう望んでいるのだから。


 だから、そろそろハッキリさせよう。


「仕方がない。勝負しようよ、ロザリィ」


「ちょっ、ミナリー⁉」


 そう言いだしたわたしに、アリシアが驚いた顔をする。


「ようやく決心しましたのね。叩き潰して差し上げますわ」


「お手柔らかにね。わたしが負けたら、アリシアとはこれからずっと関わらないよ。でも、わたしが勝ったらわたしとアリシアの関係に口出しはしないこと。これが、勝負を受ける条件だよ」


「構いませんわ。万に一つも、わたくしが負ける可能性などありませんもの」


 おーっほっほ! とロザリィは手の甲を頬に当てて高笑いをする。初めて見たなぁ、そんな笑い方をする人。


「ちょっと、ミナリー! あんた本当に大丈夫なの⁉ ロザリィはサウスリバー家の直系よ! 屠龍王の時代から続く王国七大貴族『風のサウスリバー』なのよ⁉」


「えっ、ロザリィも王国七大貴族なの⁉」


 道理で、王国七大貴族の品位がどうこうってうるさいわけだ。


 それに、風のサウスリバーって……。


「サウスリバー家の風の魔術は、王国屈指の力を誇るわ。ロザリィはまだその領域までは至ってないと思うけど……」


「もしかしてロザリィってめちゃくちゃ強い?」


「こと、魔術の撃ち合いならあたしよりは格段に強いわ。レースなら負けないけど」


「ど、どうしようアリシア⁉」


「知らないわよっ! あんたが勝手に勝負を受けちゃったんでしょ⁉」


「何をしていますの? 早くこっちへいらっしゃいな」


 ロザリィは既に広々としたスペースに陣取っている。クラスメイトたちもシフア先生も見物する気満々で、即席のリングが出来上がっていた。


「こうなったら腹をくくるしかないわよ、ミナリー。負けたら一生恨むんだからね」


「じゃあ、勝ったら?」


「その時は、死ぬまでずっと親友よ」


「そっか。じゃあ、負けるわけにはいかないね」


 アリシアに背中を押されて、ロザリィの前に立つ。


 使える魔術は日常生活程度。魔力シールドは使ったことすらない。


 我ながら、とんでもない無鉄砲だなぁと思う。


 でも、勝負することになっちゃったのだから仕方がない。アリシアと一緒に居るためだ。何とかかんとかしてみせる。


「ハンデを差し上げますわ、ミナリー・ロードランド。あなたの気が済むまで、先に攻撃して構いませんわよ。そこでわたくしの魔力シールドを破ることができればあなたの勝ちですわ」


「うーん……。逆でいいよ、ロザリィ」


「なんですって?」


「わたし、日常生活レベルの魔術しか使えないから」


 どれだけ魔術を放ったところで、わたしの魔術じゃロザリィの魔力シールドを破ることはできない。攻撃するだけ魔力を無駄にしてしまう。


 それならいっそ、魔力をシールドに全て使ったほうが勝ち目はありそうだ。


「舐められたものですわね……! 良いですわ! ならばお望み通り、全力で叩き潰して差し上げますわよっ‼」


 ロザリィの瞳が緑色に輝き、周囲の空間が大きく歪んだ。軋みよりも遥かに大きい、目に見えた魔力の奔流。昨日のアリシアよりも、さっきのシフア先生よりも、膨大な魔力がロザリィから溢れ出している。


 これ、直撃したらわたし死ぬんじゃ……?

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