神は俺を裏切るけど、俺は俺を裏切らない
園田智
プロローグ
この世には避けることのできないものがある。
どこの家庭の子として生まれるのか。自分が男女のどちらか一方になるのか。それらは自分たちのような人間に決めることはできない。
自分が生まれる時。どんな性別で、どんな性格なのか。安産で生まれるのか、難産で生まれてしまうのか。そんなことを自分の意思で決められることはない。
ゆえに、それらの事象は“神のみぞ知る”などと言われることがある。
他にも、神によって全てが決められるという考え方もあれば、良いことをしていれば神が自分の行いを見ており、自ずとこれからの人生が良くなるという考え方もある。逆に、悪いことをしていれば、神によって罰が当たえられるなんて話も聞く。
そして、俺たちの住んでいるこの世界アーリハクトには、神によって選ばれる大切なものが一つあった。
俺たちには取捨選択することができないことはもちろん。否応なく受け入れなければいけないものであった。
“奇跡”
人が生を受けてから十年の月日が訪れた時、天の祝福と言われる儀式がある。
その儀式によって、人々はそれぞれに一つだけ能力が開花する。
それを人々は奇跡と呼んだ。
奇跡と言われる所以を辿れば今から何千年も前の話になるだろうが、一番言われているものがある。それは、人としての力を逸脱している力だということ。すなわち、そんな力は奇跡以外にありえないということである。
ある者は何もないところから炎を発現させ、またある者は昨日まで何もしてこなかったにも関わらず、奇跡を授かったことによって世界にその名を轟かす剣士になった。
奇跡の力はそれだけに限らず、奇跡の力によって人の生死を自由に操るものもいれば、自然の摂理さえ、たった一人の人間の意志で変えられる。それほどの力が奇跡であった。
誰しもがそんなすごい奇跡を得ることを望み、憧れながらその日を迎える。
とはいえ、それほどの奇跡を持って生まれる者はまさに奇跡に等しい確率である。
今日まで続いてきた天の祝福によって誕生した奇跡の記録の数々によって、誕生する奇跡に一つだけ法則性があることがわかっていた。
その法則性というのは、奇跡の能力は血の遺伝が大きく関係していることである。
例えば、父が火を発現させるような奇跡を持ち、母も火に関係する奇跡を持っていれば、その間に生まれた子供の奇跡は高い確率で火に関連する奇跡になる。他にも、父が火を発現させ、母が水を発現させるような夫婦の間に生まれる子供はどちらか一方の奇跡を引き継ぐ確率が高かったのだ。
このように、両親の奇跡に類似したもの。もしくはどちらか一方に近しい奇跡を得ることが近年ではわかっていた。
しかし、世の中には例外は存在する。
両親のどちらにも該当しない奇跡を持って生まれる子供が多い時で一年に数名。少ない時で数年に一人の割合で生まれていた。
そうやって生まれた奇跡の多くは他とは異質な力を持った奇跡であった。
他とは比べ物にならないほどの力。奇跡。それらを区別するための言葉があった。
それらは大きく分けて四つ。
人の領域を逸脱した力。それはまさに神の奇跡のことを“神の才”と言った。
人の頂点に立てるほどの力。生まれながらにして人の上に立つべき奇跡のことを“天賦の才”と言った。
人として生活する上で、その生活を支えになる力。自らの生活を助け、人生を豊かにする奇跡のことを“人の才”と言った。
人として生まれたことを呪うほどの力。生きているだけで自分はもちろん、他人を不幸にしてしまう奇跡のことを“死の才”と言った。
これら四つの区分があり、天の祝福で奇跡を授かった時。過去に誕生した奇跡の数々が記されていると言われる奇跡の書をもとに区別される。
そして、この区分に分けられるというのはある種の宣言であった。
人の才が一番多くの人が言い渡される区分であり、それ以上となると今後の人生はバラ色になると確約されたようなものである。事実、天賦の才以上の人間はすべからずその名が世界に轟いている。神の才と区分された奇跡の持ち主に限っては、その名を知らない人はいない。それほどの存在なのだ。
逆に、もしも“死の才”と言い渡された時。それはまさに、死の宣告そのものであったのだ。
七年前のあの日。
町の神父によって、死の才と言い渡された少年がいた。
これは神を恨み、人を恨み、そして、自らの血、奇跡を恨んだ少年の物語である。
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