登録
「すみません、旅人登録したいのですが。」
「いらっしゃいませ、ご登録ですね。では、心力値の確認を行いますのでこちらのカードを両手でお持ちください。」
クレジットカード大のおそらく金属製であろうカードが手渡された。
「持つだけでいいのですか?」
「はい、そのまま30秒ほどお待ちいただきまして、もし登録資格の基準を超える心力がある場合にはお名前が表示されます。また、同時に固有の心力パターンもカードに登録されますので、そのまま身分証としてもお使いいただけるようになります。」
軽い説明を聞いている内に名前が浮かび上がってきた。「アルフィル」と表示されているのでプレイヤーネームがこちらでの本名として出るのだろう。
プレイヤーとして参加している以上、ここで資格がありませんとはならないだろうが何となく安心してしまう。
「表示されました。」
「僕も出ました。」
エルも問題ないようだ。
「ではこれで登録は完了となります。実際に依頼を受ける際もそちらのカードで全て管理しますので、無くさないようお気を付けください。ちなみにお二人はパーティを組むご予定ですか?」
「そうです。もしかして何か制限などが?」
「いえ、当人同士の同意があれば特に問題はありません。ただ、本日登録した方は皆様お一人で依頼を受けておりましたので。」
まぁ今日が初日で、しかも基本的に知り合いはいないだろうしソロでやるしかないよなぁ。
「むしろ、パーティを組んでいた方が安全面での余裕が取れるので推奨しております。特に護衛の依頼ですと、肉体の再生が必要となったときに現場とは別の場所で再生されてしまうため依頼の失敗に直結してしまいます。しかしそれが二人、三人で組んでいた場合は危なくなったら仲間のカバーが期待できる、最悪の場合死んでしまったとしてもまだ残っている人がいるならばトラベラーに依頼することですぐに合流も可能となります。」
合理的かつシステマチックな理由だった。これまでプレイしてきたゲームでもそのあたりのシステムは大体一緒なので特に問題はない。
「わかりました。それで、どのようにすれば組めるのでしょうか?」
「右手の人差し指と中指でカードを挟み、縦に振ってください。」
言われた通りの動作をすると、半透明のメニューらしきものが表示された。ざっと眺めると、装備やステータスなどもここで確認できるようだ。
「上から3番目にパーティとありますのでそれを選択し、結成を触ってください。」
ここからは何となくわかる。結成した後に目の前のエルに申請を送ればいいんだろう。
「お、申請来たよ。これ承認すればそれだけでいいのかな。」
「はい、それで結成完了です。パーティを組むと仲間のHPやMP残量なども見えるようになりますので連携にご活用ください。」
HPとかMPか。正直ここまでリアルな世界でその単語が出ると違和感が凄いな。特に高性能AIが積まれてるのにこういうゲームの要素ってのは消しきれないんだなと、少しだけ冷めるところではあるが同時に仕方がないのかとも思う。
「あ、依頼の受け方はこれ見たらわかったので大丈夫です。」
「承知しました。ではこれで説明を終わりにします。もしご質問がございましたらいつでも受け付けておりますので、カウンターまでお越しください。」
「ありがとうございました。」
エルとお礼を言いカウンターを後にし、手近にあった席へ座る。
「とりあえずこれでゲームの前提は全部終わったと思うけど、これからどうしようか。」
「んー、どうしよ。このゲームってプレイヤーが完全に横並びだからどうすれば良いのか難しいよね。」
攻略サイトも無ければ情報交換のためのSNSもない状態で、1から完全に手探りで進めなければならない。けど、
「けど、それが楽しいじゃないか。ネクストジェネレーションの物語はまだ誰も知らない。ってことは、プレイヤーたちが必死に頑張って切り開いていくわけだろ?どうせスタートラインから誰もが同時なんだったら、トップ突っ走りたくないか?」
今の俺は、多分かなり楽しそうな顔してると思う。
過去様々なゲームをやったが、トップ"勢"にはなれても"トップ"になったことは一度もなかった。社会人をやっているとゲームばかりやっているわけにも行かないため仕方がないと言えば仕方がないが、後追いで誰かの足跡をなぞっているのは楽だが心の底から楽しいとは思えなかった。確かに効率を求めるのなら上層が出揃うのを待ち最適な道を選んでいけばいい。それだって楽しみ方の一つだ。
「まだ誰も何も知らないんだから、足跡を残す側になろうぜ。」
「それも良いね。じゃあまずは"この世界の仲間"を作るところから始めようか。」
俺たちはゲーム的にはこの世界の住人でも、この世界からすれば外から来た存在だ。この世界のことはこの世界の人に聞くのが一番で、引き込むなら組合に所属している方が効率が良いだろう。
しかし、NPCをパーティに入れられるのかと言うのは不明だ。と言うのも、リアルタイムで戦局が変わる戦闘などをこなせるようなAIは軍用くらいしか存在しないからだ。ただ、ラフツを見る限り出来るのではないかとも思えてしまう。
「NPCに申請できるのか確認するところだな。とは言え流石に手当たり次第に送るわけにも行かないし、どうするか。」
一番簡単なのはカウンターで聞くことだが、ここを一つの世界と考えたときにプレイヤーとNPCを分ける言葉がわからないため安易にその手は取れない。ラフツの説明を聞いていた時、この世界の常識を知らないために最悪敵認定されてしまう可能性も出てきた。
「それは簡単だよ。NPCとの共闘がある依頼を受ければいいんだ。その流れで申請を飛ばしてみればわかるでしょ?」
「そういった発想がすぐ出てくるのは凄いよな。それじゃ、その方向で探してみるか。」
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