31.本心はあの時に
訳が分からない。
その一言に尽きる。
下水道の先は、会館の外側だ。
一人で流されていけば確実に脱出できたというのに、ミミックはわざわざ戻ってきたのだ。
それも自分の半身と言っても過言ではない箱を取り戻すためではなく、マッピーに告げ口したテンタクルを連れていくために!
混乱する思考が、手を止めかける。
だが、咄嗟に我を取り戻し、下ろしそうになった剣を再び構え直す。
意見が噛み合わない以上、行動不能にさせる予定に変わりはないのだ。
再び刃が閃く。
だが、今度のミミックはしぶとかった。
全ての能力をひび割れに染み込んだ身体を引っ張ることと復元に集中させているらしく、二の腕を切られても、背中から切りつけられても、呻き声すらあげず瞬時に身体をくっつけてしまうのだ。
「どうしてそこまで……!」
「だって、『あなた』じゃなくて『わたし』って言ったんだ。
『わたし達』って言ったんだ」
鍛えたものの、影そのものを切り離すほどの剣聖には至っておらず。
切っても切ってもまるでダメージのない身体にマッピーが疲弊を隠せなくなってきた頃、壁を引っ張り続けるミミックの口が、誰に向けるでもなく言葉を紡ぐ。
「あれ、絶対ぼくにじゃなくて自分に向けて言ってたよ。
顔は見てないけど、 わかるもん」
『身の程をわきまえなさい。
自由なんてないわたし達は、どこにもいけずに死ぬのよ』
不自然に震えた振動が、納得なんてしていないと叫んでいた。
いまだに諦めきれぬ心を、正論と現実を振りかざし、自分で引き潰して凪にしようとしていた。
矛盾した気持ちが揺さぶりとなって触手ごしに伝わったのを、ミミックは確かに受け取ったのだ。
「友達の心が死んでいくのを黙って見てるくらいなら、ぼくはバカでいい!」
大声が反響して、壁の一部が崩れて落ちる。
向こう側からより強い光が漏れてきた。
まばゆさに目がくらみながらも粘液に汚れるタイルの色が見えた。
「なに、……なんの話?」
ミミックがとうとう脱走の動機を話した。
が、事の発端になった会話を聞いていないマッピーにはまるで分からない状態が継続している。
『人質』としての役目を違えたからと言って悪と断定するほどマッピーは職員としての心を固めていない。
どこまでの中途半端な気持ちでは足場が悪すぎて、剣先は安定せずに地面を向いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます