チート大魔導士、魔導学院の劣等生になる~勇者達と一緒に魔王を倒したのに何故か元の世界に帰れません。恥のかき捨てで厨二全開だったので、仕方がないので過去を捨ててこれからは地味に生きて行きます~

まんじ

第1話 帰還……できず

――魔王城。


そこは魔王を主とする、魔族達の本拠地だ。

そこに今、勇者達が乗り込み魔王と熾烈な戦いを繰り広げていた。


最後の大魔法ファイナルインパクト!」


異世界より召喚されし大魔導士——ウィズダム・アポカリプス最強の魔法が放たれる。

それは全てを滅ぼす破滅の閃光。


詠唱の長さから発動までに時間がかかるという大きな欠点を抱えてはいるが、そのパワーは桁違いの物となっている。


「おのれえええぇぇぇぇぇぇ!」


仲間の助けを借りて完成されたその究極の魔法は、正面から受けた魔王を原始の塵へと変え、跡形もなく消滅させてしまう。

強靭な肉体を持ち、無敵に近い魔法への抵抗を持っていたにもかかわらずだ。

それ程までに、その魔法は強烈な物であった。


「やった!勝った!俺達の勝ちだ!」


勇者ブレイブが勝鬨かちどきを上げ、周囲の面々が歓喜の雄叫びを上げる。

そんな中、大魔導士ウィスダム・アポカリプスはニヒルに笑う。

長く激しい戦いの中、常にクールに立ち振る舞い続けた男は、魔王討伐後も決してそのスタンスを崩す事はなかった。


「アイラ。テレシー。ファング。そしてブレイブ。お別れだ」


「ウィズダム……」


「なんだよ!魔王を倒したばっかじゃねぇか!もう帰っちまうってのかよ!!」


ウィズダムはこの世界の未来を脅かす魔王を倒すため、神によって召喚された人物――異世界からの召喚者だ。

その使命が終わった事で、彼は元居た世界へと帰還する。


そう、彼は日本へと帰るのだ。

山田太郎としての生活へと戻る為に。


「天に瞬く星が違えども、俺達の魂は常に共にある」


そう言ってウィズダムは拳を前に突き出す。

その拳に、他の4人が拳を合わせた。


「ふ……そうだな。俺達は常に一緒だ」


「ああ」


「そうね」


「絶対忘れねぇからな。お前も俺たちの事、忘れんなよ」


戦友ともよ。いずれまた」


ウィズダムは転移魔法を唱え、別れを惜しむ仲間達を王都へと転移させる。

彼以外いなくなった魔王城の玉座の間は静謐に包まれ、そんな中、彼は両手を広げて神に呼び掛けた。


「さあ神よ!契約は果たされた!我をあるべき世界へ!」


……

…………

………………

………………………


「あれ?」


身に纏っていた黒衣のローブのフード部分を脱ぎ、ウィズダム――いや、山田太郎は首を捻る。

魔王討伐後に神に語り掛ければ元の世界に返して貰えると言う話だったのだが、反応が返ってこない事を訝しんだのだ。


「あー、えっと……神様!魔王を倒し終わったんで元の世界に返してください!!」


彼は再び叫ぶが、やはり反応は返ってこない。

場所が悪いのかと考えた彼は、転移魔法で魔王城の西にある山の頂上へと飛び、再び天へと語り掛けた。

だがそれでもやはり、何ら反応は返ってこなかった。


「えぇ……まじか……嘘だろ?」


山田太郎にとって、大魔導士の力が与えられるのは魅力的であった。

だが、元居た生活を完全に捨てる程では流石に無い。

その為、彼は元の世界に帰れる事を条件に、異世界転移に同意してこの世界へとやって来ていた。


――だが、神からの返事は来ない。


ここに来て彼は気づく。

自分が神に騙され、いい様に利用された事に。


「いやいやいやいや!シャレになんねぇよ!ゲームもネットもない世界で一生を終えるとか!!ちょっとーーーーーー!神様ーーーーーー!早く返してくださーーーーい!!」


何度も場所を変え叫び続ける。

その行為は数時間に及んだが、最終的に彼は諦め、その場で大の字に寝ころんだ。


「嘘だろ……勘弁してくれよ。折角かえって久しぶりに寿司(周る奴)でも喰いに行こうって思ってたのによぉ……」


その時、彼のお腹の虫が鳴る。

魔王城に乗り込んでから半日近く何も口にしていないのだ、それも仕方のない事だろう。


「腹減った。皆の所に戻るかな……いや、駄目だ!そんなの格好悪すぎる!」


あれだけ格好つけて分かれておきながら、帰れませんでしたでは余りにも体裁が悪い。

そのため、彼はその選択肢を即座に捨てる。


「くっそう。こんな事なら厨二病ごっこなんてしなけりゃ良かったぜ」


魔王討伐の旅の最中、彼は厨二病全開だった。

旅の恥はかき捨て理論によるものだ。

あくまでも短い付き合いだからこそのはっちゃけ。


だが仲間達の元に戻れば、厨二病を続けなければならない。

そして彼がそれを長期的に続けるのは難しい事だ。

やがてボロが出て、それが演技であった事がバレるのは目に見えていた。


「それは嫌だ!恥ずかしい!」


そこで彼は決意する。

ウィスダム・アポカリプスの名を捨てて――元々勝手に名乗った名ではあるが――新しい名をなのり、その上で転生魔法の使用を封じて地味に生きて行くと。


魔法を封じるのは転生魔法が強力すぎて、使うと目立ってしまうからだ。

下手に目立てば、かつての仲間との遭遇率エンカウントも跳ね上がってしまうだろう。

ウィズダムにとって、それは絶対避けなければならない事態である。


「よし!俺は一般人として生きて行くぞ!」


今ここに始まる。

神に騙された大魔導士えいゆうの、一般人としての再スタートが。

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