クラスの聖女様に「君は神様を信じる?」と聞かれたけど僕は無神論者
久野真一
プロローグ
第1話 クラスの聖女様
「あー!数学の教科書忘れちゃったー!」
朝の教室に、そんな悲鳴が響きわたる。声の主は
「
拝むような感じでお願いをされる。
彼女にはこういう男子に媚びたようなところがある。
そういう所も愛嬌なのかもしれないけど。
「貸してあげたいんだけど、僕も使うわけだし。他のクラスの子に頼むとか?」
正直な答えを返す。妙ちゃんには悪いけど。
それに、数学の時間帯が違う他のクラスなら貸してくれる人がいるだろう。
そう思っての言葉だった。
「もうホームルームまであんまり時間がないんだよー!」
こればかりは自業自得というしかない。そう思っていたのだけど。
「はい、結城さん。教科書」
いつの間にか妙ちゃんの側に来ていた聖女様。
彼女が、至極当然のように、数学の教科書を渡す。
「
パニックになっていた妙ちゃんだけど、冷静になってみると、教科書を借りるという事は、相手が数学の時間に教科書を使えなくなる事に気がついたのだろう。少しバツが悪そうだ。
「私は、予備の教科書を持ってきてるから。大丈夫だよ」
ニッコリ笑顔で、そう告げる聖女こと
「そっか。ありがとー。ほんとに、いっつも助かるよ―」
そう言いながら、風間さんを拝み倒す妙ちゃん。調子のいい子だ。
「これくらいなんでもないよ。気にしないで」
その声は柔らかくて、表情にも一切の陰りは見られない。
本当に、なんでもない、と思ってそうな顔だ。
そして、淡々といつものように自席に戻っていく風間さん。
「さっすが聖女様ー。とても真似できねえよな」
隣の席でグダーっとしていた友人である、
「そんな事を言って、なんだか微妙そうな表情だけど?」
と、同じくひそひそ声で返す。
「ちょっと完璧過ぎるんだよ。怒ったり拗ねたり、はしゃいでたりするのが見えたら、愛嬌もあるんだけどよ」
気だるそうにしながら、そんな事を言う勇斗。
「僕もそれはわかるけどね。ちょっと、とっつきづらいよね」
人から評価されない目立たない仕事も進んでやり、さっきみたいに、困っている人が居れば躊躇なく助けて、そして笑顔を絶やさない彼女。彼女はその人柄に加えて美しい容姿もあって「聖女」とあだ名されていた。
確かに、どこか神々しさを感じさせる微笑みに、ぴしっと伸びた背筋。加えて、胸……とかプロポーションも抜群だ。いや、これは聖女には関係ないか。
ただ、風間さんは、容姿も性格もちょっと出来すぎている。勇斗のように、畏敬しながらもどこか距離を取っているクラスメートも居る。僕もどちらかというとその一人だ。同時に、なんでああまで当然のように誰かを助けられるんだろうという事が気になってもいた。
◇◇◇◇
「やっと、掃除当番終わった……」
秋の夕暮れの教室で、持ち回りの掃除当番を終わらせて、僕は一息つく。学校は「人格修養のため」というけど、学校が掃除の人を雇いたくない、単なる言い訳じゃないだろうか。そんな愚痴も吐きたくなる。そんな僕は
星成高校はカトリック系の進学校で、教師や校長先生がカトリックの信者や神父さんだったりするけど、通っている生徒は大抵が特に信仰もない普通の人だ。僕もそんな一人。
「まあ、いっか。帰ってゲームでもしよ」
最近、毎日のように進めている大作RPGが途中なのだ。もう誰も居なくなった教室を見渡して、日誌に掃除を終えた事を書いた後に下校準備をする。
階段に向かっていると、覚えのある人影が空き教室に見える。聖女様だ。
聖女様こと風間さんは、目を閉じて何やら祈っているように見える。
一体、何をしてるんだろう?
敬虔なクリスチャンらしく、神への祈りを捧げているのだろうか?
「風間さん、何してるの?」
興味が湧いた僕は、教室に入って声をかける。
すると、ゆっくり目を開けて、彼女がこちらを振り向いた。
「あれ。星崎君。どうしたの?」
きょとんとした表情で僕をみやる風間さん。
「帰ろうと思ったんだけど、風間さんが目をつぶってるから気になって」
何か祈りを捧げているようにも見える神々しさもあった。
「ああ、
「そうそう、黙想」
うちの学校では、行事で折に触れて聞く言葉。
目を閉じて静かに内面について考えること、らしい。
でも、いまだにピンと来ない言葉だ。
「別に大した意味はないよ。ちょっと自分を見つめ直してただけ」
僕に向かって静かに微笑む彼女は、本当に綺麗だ。
「聖女」とあだ名されるのもよくわかる。しかし、見つめ直す、ね。
「見つめ直さなければいけない何かがあったの?」
何か失敗でもしたのだろうか。
「うーん……答えてもいいんだけど、その前に一つ聞いていい?」
何やら少し思案した後に出てきたのはそんな言葉。
「僕に答えられることなら、なんでも」
聖女様が聞きたいことというのも興味がある。
「君は神様を信じる?」
聖女様、いや、風間さんはそんな言葉を発したのだった。
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