発掘8「第六天魔王」
西暦3456年において、日本の戦国時代の資料は多く残っているとは口が裂けても言えない。
ご存じの通り、世界大戦で散逸してしまったのだ。
「今日は歴史編纂課からの依頼でね、織田信長という人物について書かなきゃいけないんだ」
「それは分かったけれど、ご主人様に依頼ですか? あの時代はスコッパー004の担当だったと記憶していますが?」
「その004からの依頼さ、彼は今ボンバーマンなる人物の実在証明に忙しくてね。それに私の方が織田信長の資料が多いからだって」
「戦国時代は15世紀末から16世紀ですわね、ご主人様の方が資料が多いとは?」
「織田信長も謎が多い人物だからね。まだシラヌイさん達には閲覧出来ない情報だったか」
「歴史については、ある程度の確定情報が無いと乗れられませんからね」
「じゃあ説明しよう」
ウグイスはホロ・ウインドウに書き掛けのファイルと資料を映し出した。
その資料には、多種多様な織田信長の絵姿やゲーム、アニメ、マンガ等があり。
「織田信長は戦国時代において、日本統一まで後一歩まで行った人物とされている。ここまで大丈夫だねね?」
「はい。では。謎が多いとはどのような点でしょう」
「良い質問だ。まずこの人物は昔の人には人気だったらしくてね。多くの伝記や物語の主人公として描かれていた」
「資料が多すぎて、正誤が判明しづらいと?」
「端的に言えばそうだね、織田信長の経歴、行動や性格については大部分が一致すると見て良い。その事は良いんだ……」
「何が問題なのですか?」
難しい顔をするウグイスに、シラヌイはお茶を差し出す。
彼はそれをズズズと啜りながら、ホロ・ウインドウの資料を幾つか大きく提示した。
「これを見て欲しい、違いが分かるかい?」
「…………この資料は間違っていませんか? 織田信長が男としても女としても描かれてます」
「そう、それが問題なんだよ。織田信長は男か女か・例えば、第一級資料「FGO」の火星編解読班は女だと主張しているけど。戦国自衛隊を発掘したスコッパー012は男だって言ってる」
「それは難儀な……」
「この手の問題は人気の偉人に多くてね、ブリテンのアーサー王、第二次世界大戦の英雄・長門五十六や、第三次世界大戦で活躍したエースパイロット・アムロレイもそうだと男か女か、そもそも実在の人物かどうかもはっきりしていないんだ」
「織田信長も実在しているか不明だと?」
「その可能性も否定できない、だがこれだけ多くの資料がある以上。実在の可能性が高いと判断されているのさ」
「成程、では少し見てみますわ」
シラヌイは資料の幾つかを解凍し閲覧、乙女ゲーと呼ばれるゲームを三本、ライトノベルと呼ばれていた小説を五本、アクションゲームを二本。
その全てを、ものの数秒かからずに解析を終える。
「読んでみた? 織田信長はどっちだと思う?」
「シラヌイの見解と致しましては、非実在人物かと」
「ほほう? 理由は何だい?」
「第六天魔王、その記述が気になりました。この単語は仏教において神を示す単語だと」
「えっ!? 宗教用語だったのそれっ!?」
「逆に何だと思っていたのです?」
「いや、30世紀頃には超能力者が大勢いたって言うじゃない? 魔王を自称する権力者も大勢居たから。てっきり戦国時代の超能力者の長の称号だと」
「ああ、ご主人様達まで情報は降りていないのですね」
「というと?」
「つい先週マッパー045が調査中にとある建造物で休憩した所、発見に至ったのですが。30世紀の超能力者は戦闘用ナノマシンの使用者の蔑称である証拠が見つかったと」
「ええっ!? それじゃあ人間に超能力者は居ないのかいっ!?」
「はい、それより過去においても超能力者と定義される物理法則を超越した人物は存在しないと」
「そうか、困ったなぁ。それなら資料の大半が役に立たない……。というか、それが発表されたら情報部の歴史調査統括班が大忙しになるんじゃ……」
「もう大騒ぎで再検証のデスマーチに入ってるらしいですよ?」
同僚達に同情しつつ、ウグイスは唸った。
超能力者の非実在は確かに大変な事案だが、それにより参考する資料も絞られてくるというものだ。
「……シラヌイ、織田信長について超能力者扱いしている資料を除外」
「加えて、織田信長の性別で分けておきます」
「お願い、それから……だれか戦国時代の言語解析出来る人を知ってる? あの時代の同人誌だって『信長公記』っていうアーカイブを貰ったんだけど、手書きで読めないんだ、流石に時代が離れすぎてて手持ちの翻訳ソフトが軒並み役に立たなくて」
「ご主人様で無理なら、他の者でも無理な気がしますが……いえ、探してみます」
結局の所、織田信長は歴史年表に乗せられる事は無かった。
そして、ウグイスの所持していたデータ「信長公記」に関しては。
解読されるまで、二百年の月日と要したという。
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