人類はAI様に支配されました
和鳳ハジメ
発掘1「人類はAI様に支配されました」
人類は滅んだ。
宇宙人と接触する事なく、巨大怪獣に襲われる事なく。
核戦争で土地が汚染され、巨大兵器により多くの国が灰燼に帰し、月が半分落ちて。
つまるところ第五次世界大戦の後、人類文明は姿を消した。
だが人類は、絶滅した訳ではなかった。
地球全土に生き残った僅か百人あまり、彼らはとある決断を下した。
「なんかもう、いいや。全部AIに任せて隠居生活送らない?」
「賛成」「異議無し」「ひゃっほう! 働かずに生きていくの最高!!」
そんな訳で、彼らは三手に分かれ被害が少ないコロニーに住みだす。
それから数百年ほどの年月が経過し、総人口が千人を越えた頃。
極東コロニー。
もとい、東京ビックサイトver15を改装したコロニー・アリアケの統括管理上級AI・D型エイモンはとある悩みを抱えていた。
「不味いなぁ、人類の歴史や文化の資料が全然復元出来てないよ」
それもその筈。
人類の奉仕種族として作り出された彼ら人工知能、アンドロイド達であったが。
その本格的なロールアウトは、人類滅亡後。
人類の居住区を確保し、生活必需技術の発掘と保全、そして愛すべき主人達の健全な生活と育成に手一杯。
とてもじゃないが、そこまで手は回らず。
――そこで、エイモンは一つの決断を下した。
「よぉし! ならご主人様達に外で発掘してきて貰おう!! これなら仕事が無くて元気がないご主人様達の生活にも張りが出てくる!! ボクも人類復興に向けた資料も集められて一石二鳥だ!」
そんな訳で、アンドロイドにおんぶ抱っこ過ぎて緩やかな絶滅の危機にあった人類に、新たな仕事が与えられた。
また、単調な日常に飽いていた人類も諸手を上げて賛成し。
――――滅亡から約百年あまり、時は西暦3456年。
アリアケの中央街の一角、二十世紀の安アパート風の建物の一つの部屋にて。
一人の若い男が、外出の準備をしていた。
その隣で甲斐甲斐しく世話するは、絶世の美人。
かつて和風メイド服と呼ばれたソレを着こなしている美人は人ではなく、アンドロイド。
今、人類一人につき最低一体のアンドロイドが奉仕の為に侍っている。
彼ら彼女らは老いず、磨耗せず、狂わず、清く正しく人類の忠実なる友としてパートナーとして側に。
その光景はかつて米国と呼ばれたロボットアレルギーの発祥地では忌諱し糾弾する光景だったであろう。
なにせ彼ら彼女らは、ただ奉仕するだけではない。
人類の上に立ち、人類を支配し、そして――子供すら作れる。
かつての都合五度の世界大戦の中、激しい人口減少に陥った人類は完璧な人工子宮を作り上げた。
同時に、精子バンクと卵子バンクも設立して。
人類が三手に分かれたのは、この施設が辛うじて生き残っていたのが世界でたった三カ所であったからだ。
西暦3456年現在、人と人との結婚は減少した。
それもそうだろう、子供を作れる理想のパートナーが幼い頃から側に居るのだから。
故に、この安アパートの一角を所有する主人と彼女も一般的にはそう見られており。
「しっかりしてくださいなご主人様、ネクタイが曲がっているわ」
「ありがとうシラヌイ、このネクタイってヤツはどうにも苦手で……」
「はい、これで良し。提出する資料は全て持ったわね? 今日はエイモンと直接会う日でしょう」
「問題無いさ、データは先んじて提出済みだし。一つぐらい忘れても……」
「ご冗談を、ご主人様に忘れ物をされたとあれば我々奉仕型メイドロボの名折れよ」
「今日もお堅いなぁシラヌイさんは、たまにはウグイスって名前で呼んでくれても良いんだよ? 私達は夫婦じゃないか」
「残念ながらご主人様、伴侶をお求めになるなら専用機体を新規注文されるか同じ人間を口説き落としてくださいまし」
「はいはい、じゃあ行ってくるよ」
彼はメイドロボに向けて苦笑すると、玄関に向かう。
そして、ドアノブに手をかけた瞬間であった。
「少々お待ちくださいご主人様、お忘れ物が」
「あれ? 何か忘れてた?」
「そのまま動かずに、――――ん。お早いご帰宅を願っているわ」
「…………なるほど、行ってきますのキスか」
「ご主人様の仕事意欲を上げただけよ」
「よし行ってくる! お土産は先月発売した新素材のフレンチ型メイド服にする!」
「お待ちくださいご主人様? 無駄遣いは控えて――――ああ、行ってしまったわ」
彼女、MーANハツネ型・御奉仕換装機・個体名「白縫」は、ネットワークにアクセス。
敬愛する主人、ウグイス・ローマンの口座に上限ロックをかける。
これは、文明滅亡後のAIが支配する世界で。
歴史文化発掘調査官、通称「スコッパー」である青年ウグイスと。
素直じゃないメイド嫁ロボ、シラヌイの日常である。
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