第29話 九字封法


「俺も、歴代の呪受者たちも、お前の呪いのせいで命を狙われてきた。

 守ろうとしてくれた里の者たちも、何の罪もない人間も、お前のせいで死んだんだ。

 今だって、お前の放つ邪悪な妖気で、お前はその烏を殺した。

 それを何もしてない……だなんて————」


「…………違います…………わたくしのせいではない————お前たちが我を封じたのがそもそもの根源よ……我は何もしていない」


りんびょうとうしゃかいじんれつざいぜん————」


 左手に握りしめていた魔封じの矢に、九字封法くじふうほうを唱えると、矢は青く光る。


 手を開くと、矢は掌の上に浮き上がり、光は青い炎に変わった。


「————魔封突貫まふうとっかん 急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!!」



 青い炎の矢は、掌の上から殺生石に貼られていた封印の札を射抜く。


「くっ……おのれ……——人間の分際でよくも——……我を————……!!」


 青い炎が札を包み込み、魔封の矢ごと消えていく。

 いや、正確には、札が飲み込んだというべきだろうか…………


「ギァアアアアアア————…………」


 殺生石から聞こえた断末魔は、先ほどのか細く慈悲を求める声とはまるで違う声に変わっていて、次第になにも聞こえなくなった。



 殺生石が纏っていた玉藻の妖気は、完全に岩の中に封じられ、周りの空気が変わったのがわかる。




「や……やるじゃないの!! さすがは、主様の孫!! 褒めてやるぞ!!」


「ああ、ありがとう」


 蕪妖怪は、両手を上げて俺を褒め称えながら、俺の周りをぐるぐると踊るように跳ねた。


「祝いに勝利の舞だ!! とくと見よ!!」


 そして、どここから出してきたのか、扇子を両手に持って舞い始める。


「ああ、ありがとう。わかった。祝ってくれているのは十分わかった……それより————」


「なんだい? 嬉しくないのかい?」


「————悪いけど……もう限界だ。下に行って、誰かを…………刹那たちを呼んできてくれないか?」


 まただ。

 視界が歪んできた。


「え? おい、孫!! 顔色が悪いぞ!!? しっかりおしよ!!」


(ああ、この体、刹那のなのに…………)



 俺はそのまま地面に膝から崩れ落ちるように倒れた。


( ————ジャージなのが、せめてもの救いだな……)


 ユウヤがいるから、今日の刹那はジャージだった。

 これがいつものように短いスカートだったら、刹那の綺麗な脚が、傷だらけになっているところだ。



「おい、孫!!! しっかりおし!!!」


 蕪妖怪は俺を起こそうと揺する。

 でも、もう起き上がれる気がしない。


 そのまま意識が遠のいた。














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