第10話

三十年前

「宇宙が崩壊する?」

うな重を頬張りながら日本科学技術

センター職員の天野圭司が向かいで

つまようじを摘んでいる、所長の風巻

茂に言葉を投げ掛けた。

「そう。私の計算によれば三十年後の

七月二十二日、午後八時五十三分、

十五秒に宇宙の1点に欠損ができ、

風船が破裂するように宇宙が崩壊する

はずだ」

「まさか」

天野はすべてを否定するかのように大きく

手を振った。

「学会のお偉いさん方からもさんざん

叩かれたよ」

「論文ですか」

「スーパーのチラシなら何も言われなかった

だろうけどね」

風巻がつまようじを二つに折った

「それでうまく回避する方法はあるんですか」

「あるにはあるんだが」

風巻が困ったような顔がした。

「難しいんですか」

「途轍もなくな」

風巻が肩を竦めた。 



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