第7話 ひと段落。

救急隊員に連れられ…

茫然とした様子の三人がトイレから自力で歩きながら連れ出されていく…


―――おかしい…


加賀が救急隊員に連れられ、その場を後にする三人を怪訝な表情で見送る…


―――確かあの三人は

   “金雀枝(えにしだ)さんの後にレストランを出たハズ”なのに――


『私がトイレに入った時には既にこの三人が此処で倒れてて――』


―――ひょっとして金雀枝さんは極度の方向音痴で――

   トイレ行くのに迷っていたとか…?

   (広尾さんに教えられたとおりに行けばまず迷いそうもないのだが…)

   そしてあの三人が金雀枝さんを狙っているという

   俺の見立ては完全に勘違いで――

   あの三人は金雀枝さんがトイレ行くのに迷っている間に

   さっさとトイレに向かい――三人揃(そろ)って気絶したと…



   そんな事が…



加賀は自分の隣でやはり救急隊員に連れられていく三人を

特に何の感情も籠(こも)っていない瞳で見つめ続ける金雀枝に向け

微(かす)かな疑念が潜む瞳で見つめた…



その後現場は一時騒然となったが――

“三人に特に目立った外傷が無かった事”と

“三人がトイレで何が起こったのかを一切覚えていなかった”為に

事件性は薄いと判断され

三人は念のため検査の為に救急車で病院へと運ばれていき

騒ぎの現場となったトイレもガス漏れか何かがないかを念入りに調べられたが

特に異常は無く…

この騒動はものの30分で幕は閉じた…


その後昼食会は招待客三人が救急車で運ばれるというハプニングはあったものの

滞(とどこお)りなく行われ、午後2時過ぎには昼食会も終わりを告げ――


「いや~…今回の昼食会は散々でしたね。広尾さん…」

「全くですよ…まさか招待客の内三人が救急車で運ばれるなんて…

 今まで昼食会は何度も行ってきましたが、今回のような事は初めてですよ…」


ハァ~…と、広尾が盛大な溜息を突きながら

会場となった店内をスタッフ達が綺麗に手際よく片付けていく様を横目で見る


「でもココの料理は概(おおむ)ね評判でしたし

 広尾さんの機転を利かせた対応と洒落のきいたトーク力のお陰で

 招待客の皆様は昼食会に大分満足して頂けたみたいですけどね。」


何故か乾(いぬい)が落ち込む広尾をフォローし

広尾はそんな乾の言葉に俯(うつむ)いていた顔を上げ

乾の手を両手で握り締める


「乾さん…貴方本当に良い秘書さんですね…

 ウチに欲しいくらいだ…」

「あげますよ。タダで。なんなら熨斗(のし)付けて。」

「…おい紫(ゆかり)。」


乾が広尾に手を握られたまま、ジットリとした目で金雀枝を見つめる


「…やだ…紫だなんて翔(かける)さん…

 私達そういう仲でしたっけ?」

「…この後特に予定は無かったのですが――

 一度社に戻り、二人っきりでじっくりとお話しでもしましょうか。紫さん。」

「…遠慮しておきます。ごめなんさい。私がわるーございました。」

「…分かればよろしい。」

「はは…お二人は本当に仲がよろしいようで…」


いい歳した男二人のやり取りを広尾が微笑ましく見つめ

4人は昼食会の終わったレストランの片隅で暫く談笑をしていたが

それも広尾の秘書が広尾を迎えに来た事によってお開きとなった…

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