第5話 喧嘩を売った相手。

金雀枝(えにしだ)がトイレに辿り着くと、そっとドアを開けて中を確認する


―――…よし。誰も居ないな。


小スペース4に個室が4つ程並ぶ割と広いトイレに誰も居ない事を確認すると

金雀枝はトイレに入り、洗面台の前に立つ


「ふぅ~…」


―――そろそろ来る頃かな。


前下がりセンターパートに整えられた前髪を軽く弄りながら

金雀枝が鏡に映る自分の顔を見つめる…


すると程なくしてトイレのドアが開き――


「お!いたいた。」


洗面台の前に立つ金雀枝の姿を確認するや否や

一人の背の高い男を先頭に三人の男達がニヤけた笑みを浮かべながら

ぞろぞろとトイレの中に入って来て

金雀枝を取り囲むようにして左右と後ろに立ち


金雀枝がそんな三人を鏡越しに蔑むような瞳で一瞥した後

うんざりとした表情を浮かべながら鏡越しの男達に向かって口を開く…


「…何か?」

「いや…アンタから良い匂いがするなぁ~って思って…」

「そうそう…俺達の“食欲”をそそるイイ匂いがさぁ…」

「そんなヤツがさぁ…御誂(おあつら)え向きにトイレに一人って…

 コレもう襲ってくれと言っているようなもんじゃん?なぁ…」


その言葉に、男達はもう笑いを堪(こら)えきれなくなり

醜い顔を歪ませ、舌なめずりをしながらクスクスと:卑下(ひげ)た笑い声を漏らす…


そんな男達を前に金雀枝が洗面台に両手を突いて盛大に溜息を吐きだすと

その綺麗な顔立ちに冷淡な笑みを張りつけながらクルッと男達の方を振り向く…


「…で?“俺”を襲うって…?バッカじゃないの?

 これだから“彼の血が薄い”連中は…」


金雀枝が心底呆れたようの男達に向かって吐き捨て

そんな金雀枝の態度に男達が腹を立て、一斉に殺気立つ


「はあっ?馬鹿はお前だよ。俺達三人相手に敵(かな)うと思ってんの?」

「…まあ落ち着けって。コイツ、俺らの事をただの“人間”だと思ってんだから…」

「そうそう…これから俺達にその身とその“血”を捧げる哀れな“食料”を

 怯えさせちゃ可哀相でしょ?」


男達の顔に再び余裕のある卑下た笑みが浮かび、金雀枝を不快にさせる


「…血はともかくその身ってお前まさか…」

「え?俺は最初っからそのつもりだったけど?

 男はさぁ…血を吸いながら犯すと締まるんだよ…

 後ろの穴がこう…キュウゥゥってさぁ…最高だぜ?」

「…マジかよ…」

「俺もそのつもりだったわ。

 だってさぁお前…アイツの顔見てみろよ…

 あの綺麗で傲慢そうな顔が恐怖と屈辱で歪みながら

 俺達のチンポに屈するんだぜ?堪んねぇ~よな…」

「…言われてみれば確かに…」


その言葉を皮切りに

飢えた男達の視線が一斉に金雀枝に突き刺さる…


「…と言う訳で“お嬢さん”…」

「飢えた俺達の“食欲”と“性欲”を満たす為に

 此処で大人しくその身を捧げてよ…なに…悪い様にしないからさぁ…

 むしろ気持ち良くなっちゃうかも?」


クスクスと笑いながら男達の瞳の色が徐々に血の様に紅く染まり始め

金雀枝の表情が微かに険しくなる


「………」

「…おいコイツ…俺らの変わった目を見て固まってるぞ。」

「あらあら可哀相に…怖くなっちゃったのかな?お嬢さん。」


自分達の事を見つめながら何も言わない金雀枝を

恐怖で固まっていると思い込み、一人の男が笑いながら金雀枝に向けて手を伸ばす


「固まってんのなら丁度いい…このままさっさと――」


男の手が金雀枝の肩に触れようとした次の瞬間


「――だからお前達は馬鹿だって言ってんだよ。」

「あ”?」


金雀枝の碧眼がスゥ…と金色に輝き始め…

それを見た男達が一斉に怯み

金雀枝に手を伸ばしかけていた男が慌ててその手を引っ込めようとするが――


「ぎゃっ、」


金雀枝の手が引っ込もうとする男の手を素早く掴み取り

ギリギリと握り締める…


「い”っ…てぇ…ッ、離し…っ、」

「ダ~メ、離さな~い…」


そう言うと金雀枝に握られている男の手から

ベキベキベキッ、、と鈍い嫌な音が聞こえ…


「ッ!?!?!?ぎゃあぁぁああぁあああぁあっっ!!!」


それと同時に男の絶叫がトイレに響き渡り

その光景に他の男達が恐怖で絶句し、金雀枝から後ずさりし始めるが


「…逃がさねーよ?」


金雀枝がそんな男達を見つめながら握っていた男の手を離すと

その顔に見る者を凍り付かせるには十分すぎる程の

悍(おぞ)ましい笑みを湛(たた)えながら

その形の良い唇をゆっくりと開いた…


「覚えておくといい…

 



 お前達が一体“誰”に喧嘩を売ったのかを…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る