魔術師と騎士団長の新婚びより

鈴花 里

新妻逃げ旅 編

1話 魔術師の不覚



(な、なんで、こんな、こと、に……?)


 少し距離を置きたいと思っただけだった。

 一種の魅了スキルにも似た、強烈な色気。生まれてこのかた恋愛なんてものは疎かにし、魔法にばかり現を抜かしてきた私が、その殺人的レベルの色気に耐えられるはずもなく。

 つい1ヶ月前に結婚した、私を殺す勢いで色気を放つ夫から逃れるべく、仕事として遠方の村にやって来たのだけど――


(ち、近い……! み、耳に息がかかって……………あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!)


 私の目の前には、家にいるはずの夫がなぜかいて。

 「え? 仕事は?」と問いかける間もなく、なぜか抱き締められていて。



「無事でよかった……」



 腰が抜けかけるほどの、吐息混じりの低い美声で囁かれて。

 トドメとばかりに、頭に軽いキスを落とされたなら――


 ぷっしゅうううぅぅぅ。


 恋愛経験値ゼロの私には耐えられるはずもなく。まさに茹でダコ状態。その場に立つことさえままならず、夫にすがり付くようにして支えられる情けなさ。

 ちなみに夫はといえば、私を抱き締めたまま微動だにせず。


(し、心臓がッ! 私の心臓がッ!!!)


 人知れず心の中で悲鳴を上げながら、私はとにかく意識を飛ばさないよう必死に頑張るのであった。

 ちなみに夫からは、爽やかな、でもほんのり甘いいい香りがした――。




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