第8話 恋する乙女と燃える心
姫岡の体はぷるぷる震えていて、頬はほんのり赤かった。
今にも泣きそうな姫岡の姿が思わず守ってしまいたくなるほど、庇護欲をそそられる。
「ほんとにぜ、全然気にしていないので、八朔君も気を遣ったりしなくていいですからね⁈」
「お、おう……」
明らかに気を遣うだろこれは……。
そんなことを思っていたら不意に、太ももと太ももが触れ合ってしまった。
「ひゃうっ!」
「あっ、すまん……」
「い、いえ。全然気にしてないので!」
「いや絶対嘘だよな? ぷるぷるしてるし、視線があっちこっち行っちゃってるぞ⁈」
「こ、これは……そう、普段の私です!」
「普段から挙動不審な奴がいてたまるか!」
「その例外に私がなったんですよ! えぇそうですとも!」
「姫岡はそんなんじゃないだろ? いつも大人しくて、礼儀正しいじゃんか」
俺がそう言うと、姫岡は視線を落として黙り込んでしまった。
俺は何か言ってはいけないことを言ったんだろうか。
わからずに姫岡に視線を向けていると、白髪の髪からちょこんと見える小さな耳が、真っ赤に染まっているのが見えてしまった。
「そ、そんなこと言われたら……気にしてしまいますよ……」
「わ、悪い……」
果たして何が悪かったのか自分ではよくわかっていない。
だけどふと思った。
「姫岡と歩夢、普通に話せてんじゃん」
俺の思ったことを、正弘が代弁する。
氷見はそれに「うんうん」と頷いていた。
「確かに……そうだな」
「そう……ですね。ふふっ、やっぱり気にしていませんでしたね」
「そういうことだな」
二人顔を見合わせて笑う。
姫岡は、俺のあまり多くない友人の一人。これからも仲良くしていきたいと思っていた人物なので、こうして和気あいあいと話せることが嬉しかった。
「告白してフラれちゃいましたけど、そこで終わりじゃないですよね」
「そうだな。俺は姫岡と仲良くしていきたいし」
「……ありがとうございます」
照れた顔を隠そうと思って視線を下げているのかもしれないけど、完全に耳が隠せていないからバレバレである。
まぁそんなところが姫岡らしいのだが。
「友達からでもいいので、これからも仲良くしてくれると……その、嬉しいです」
「おう。もちろんだ」
心の中でモヤモヤしていたものが、一気に晴れていった。
告白を断った時に、姫岡が見せた涙を見て、もうこんな風に笑えないと思っていた。
だけどそんなこともないようで。
やはり姫岡は必要な友達だなと再確認した。
「さてと、仲直りしたことだし、教室戻りますか」
「喧嘩してたわけじゃねーから」
「細けぇよ……」
正弘のツッコみを無視して、ベンチから立つ。
しかし姫岡は依然として座ったままだった。
「姫岡は行かないのか?」
「私はもうちょっとここで休んでいきます。お先にどうぞ」
「そうか。じゃあまた」
「はい!」
姫岡に手を振られながら、俺たち三人は教室に戻った。
相変わらず正弘のクソどうでもいい話はクソどうでもいいなと氷見と思いつつ、聞こえないふりをする。
「……友達から、ですよね」
恋する乙女が一人そう呟いていたのも、当然聞こえなかった。
***
一方その頃、八朔家では――
「これが中学生の時に歩夢が茜ちゃんと再会したときに何を言おうか練習してた時の映像ね、あら可愛い♡」
「歩夢そんなことしてたんだぁ、ふぅ~ん(これはいじれる。ニヤニヤ)」
「他にも茜ちゃんに関する隠し撮りがたっくさんあるんだから、茜ちゃんも恥ずかしくなったら言ってね?」
「大丈夫です! これに耐えるのも私の宿命なので!」
「じゃあギアを上げちゃおうかしら」
「ぷーっ! 歩夢が決め顔してる!」
「これは窓のところに仕込んだ隠しカメラで撮ったのよ」
「プロかっ!」
間違いなく、歩夢が帰ってきたら恥ずか死ぬだろう……。
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