微笑み
2年前、ある作戦に参加したアメリカの
その内容の一部を、日本語に
それは曇り空の日のことだった。戦場から少し離れた陣地で、俺たちは絶望していた。こちらの部隊は少数で、相手のテロリスト共は数で圧倒的だった。
勝てる見込みなどない、救援など来ない。
そんな状況で、希望など見ることはできなかった。
ある者はポケットにしまっていたビンの酒を飲みほし、ある者は大声を出して笑い、ある者は首から下げているロケットを開き、愛する女の名前を永遠と呼び続けている。
俺を含めてのほとんどの者が、死を覚悟していた。そう言う運命なんだと、あきらめた。
その時だった。
腰まで長いベージュの髪をした、十代くらいの東洋人の女が、日本の刀を持ち、味方の群れをかき分けて先頭に立ったのだ。
後から知ったことだが、その女は上層部にも顔が知られており、俺の隊長やその上の指揮官殿からも一目置かれていた。
いや、今となっては恐れられていたいう表現が正しいのかもしれない。
俺はその女に「おい、嬢ちゃん危ないぜ?まさか、1人で突撃する気じゃないだろうな?死ぬぜ?」と忠告した。
すると、女は俺の方に顔を向けてこう言ってきやがった。
『ちょっと戦場に忘れ物をしたから取りに行くだけだ。あいつらがそれを汚したりしたなら、全滅させてくるから心配はするなよ、おっさん』
その女の顔を見て、俺は一瞬で頭の中にある名前を思い出した。
右目には黒い
そして、俺の静止を聞かずに敵の群れに突撃していった女の戦いぶりを見て、それは確信に変わった。
刀を
奴らの撃つ弾をすべて、跳躍して身体を
そして、それだけにとどまらず、
俺はこの時の光景を一生忘れないだろう。
天気が曇りだったこともあってか、敵が斬られていく度に上に向かって吹き出る赤い血が、彼女の動きが速過ぎるがために地面、もしくは彼女や敵の身体に落ちていくスピードがゆっくりに感じるほどだった。
まるで女が居る所だけに赤い雪が降っているようだ。
そして、
血の雪が降る戦場で、一騎当千の勢いで敵を殺すことができる最強の
彼女の剣舞に魅了されていたが、俺もアサルトライフルを手に持って戦場に走り出す。
俺以外にも、赤雪姫の戦う姿を見て士気が上がり、すべての兵が戦場に向かっていく。
そして、その戦場は俺たちの勝利に終わった。
その後、俺が赤雪姫に『忘れ物は見つかったか?』と聞くと、彼女は薄く微笑んで言った。
『ああ、ちゃんと見つかったよ。オレの姉さんの写真』
藍色の髪をポニーテールにしている女の写真を、俺に嬉しそうに見せてくれた。
-----
円華side
クラスメイトのほとんどが敵。味方は最上だけのこの状況で、俺は昔のことを思い出していた。
そう言えば、数が全然比例してないけど、2年前にも多勢に無勢ってことがあったな。あの時は武器があったから何とかなったけど、今は何もない。
頼りになるのは、最上の持ってるレールガンっていう武器だけか。
体育館倉庫に隠れてバリケードを2人で作れば、俺は壁に、最上は跳び箱に背中を預けて息を整える。
「助けてくれてありがとな。あれはマジで危なかった」
「別に感謝なんてしなくても良い。それよりも、これからどうするの?住良木が犯人だってわかったけど、異能具を持ってるあいつは危険すぎる。今の内にどうにかしないと、後に大変なことになるよ」
また、異能具ってやつか……多分、重要な何かなんだろうけど……。
レールガンをじっと見ていると、最上は視線に気づいてくれた。
「そう言えば、円華にはこれのことを話してなかったね」
「ああ、いくつか聞きたいことはある。だけど、今知りたいのは、その異能具って何なのかとその対処法だ」
「異能具は、緋色の幻影が仕掛けたデスゲームの中で使われていた強力な武器のこと。当時は秘密武器って呼ばれていた。この黒いスマホを装着することで使うことができる。私が使うレールガンは、お父さんが使っていた武器」
「例の高太さんの武器か。それにしても、洗脳できたり弾丸みたいに電気を撃つことができたり……想像を超えてるぜ」
「ほかにも、衝撃波を飛ばせる物や、スコープよりも遠くの標的を射抜くことができるライフルもある。だけど、私が持っているのは2つだけ。1つのスマホに、1つの異能具しか使用できない。……円華は、自分の黒いスマホは持ってる?」
「あ、ああ。おまえと会ってからは、何時も持ち歩くようにしていたけど……俺は異能具を持ってないんだぜ?使い物になるのかよ?」
「使い物になるかどうかじゃない。今から使えるようにするんだよ」
最上はポケットからもう1つのスマホを取り出し、誰かに電話をしだした。
こんな状況で誰に……。
「もしもし、私だけど。……うん、ついに必要になったみたい。どこに行けばある?……わかった、化学準備室に用意してあるんだね。了解、あの人にお礼を言っておいて……大丈夫、こんな所で死ぬ気はないよ。ありがとね、ヤナヤツ」
ヤナ……ヤツ……!?
ヤナヤツって、俺にこの学園のことを教えてくれた謎のメールの送信者だ。
「最上!ヤナヤツって、どう言うことだ!?どうして、おまえがその人のことを知って……」
「今は説明している時間はない。取り乱すのはわかるけど、今は自分が生き残ることだけを考えて。円華なら、それができるでしょ?」
言われて冷静になり、すぐに頭を切り替える。
「……そうだな、悪い。だけど洗脳されずに、最悪の場合は殺されずに生きて解決することができたら……ちゃんと話してくれ」
最上は無言で頷いてヘッドフォンをし、心の声を頼りに周りに誰が居るかを確認する。
そして、苦い顔をして俺を見る。
「まとまって行動してる。もうそろそろで体育館に入ってくる」
「マジかよ。今から2人で抜けるか?」
「2手に別れる方が良い。私があいつらの目を引きつける。住良木の本当の目的は、私だろうから」
「どうして、おまえなんだよ?ここは男の俺の方が良いだろ」
「今の円華に何ができるの?武器を持ってる私の方が融通が利く」
「おまえなぁ……!!」
こっちが納得していないことは気にせず、「だから」と言って俺の意見を遮る。
「武器を取って使える男になってきて。化学準備室に行けば、円華だけの武器が置いてある」
「俺だけの……武器?」
何も答えず、最上は窓を開けて外に出ようとする。
「じゃあ、私が出てから30秒後に出てきて。化学準備室、忘れないでよ?……必ず戻ってくるって、信じてる」
薄く微笑み、最上は俺が静止する間もなく窓から出て行った。
最上がレールガンって武器を持っているからと言って、あの数に単身で攻めて生き残れるとは思えない。
化学準備室……すぐにでも行くしかないか。
体育館倉庫から出れば、
化学準備室は2階の奥にあり、そこまで無事に
幸いにもEクラスの奴らは全員、最上のおかげで外に出ている。
だから、すぐにでも目的の場所に着けると思っていた。
しかし、その考えは後ろから聞こえた男の声で消えていった。
「見つけたぜぇ……椿、円華ぁああ!!」
そうか、そうだよな……麗音が、何も考えずに俺の所に来るわけがない。
Eクラスの奴らだけ?そんなわけないだろ。
切り札はちゃんと解放してあったわけか。
後ろを見ると、そこには俺とは違う殺人者がそこに居た。
抜き身の刀を右手に握っており、虚ろな目を向けてくる。
「内海……景虎……!!」
殺人者同士は引かれ合う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます