犯人との対面
翌朝、朝早くから登校してDクラスでの用事を終えて教室から出ると、そこで新森と出くわした。何だが、久しぶりにこの天然アホを見た気がする。
「ちゃーっす、円華っち。こんな所で何しとんねん?」
「何でエセ関西弁になってるのかはあえてスルーするとして、おまえこそどうしたんだ?いつもは遅刻ギリギリのくせに」
「ん~?あ、そうそう、瑠璃っちに頼まれた物を持ってきたんだったよ~。昨日の夜、円華っちに昨日渡し忘れていた物を渡しといてって言われたから。わざわざ円華っちのために手と足を動かすのは面倒って言われて押し付けられちゃったんだ~。ほいっ」
新森から小さなメモリーカードを受け取るが、頭の中には『?』しか浮かばない。
頼んだデータはあの2つで全部だったのに、渡し忘れたものって……成瀬自身も独自で捜査をしていたってことか?
「このデータの中に何が入っているのかは聞いたかのか?」
「ううん、聞いてない。だけど、伝言があるのですよ~。『これでピースはそろうでしょ、後は頑張りなさい』だってさ」
「ピースはそろうでしょ……か。わかった、ありがとな」
「うん。……あのさ、円華っちはまだ犯人捜してるんだよね?」
「ああ。やっぱり、久実も気分は良くないか?クラス内の暗黙の了解を
頭の後ろをかきながら言えば、新森は平然とした表情で首を横に振る。
「円華っちは周りに流されないからね。うちは別に反対はしないよ?でも、危険じゃないかなって心配はしてる」
「そうか?」
「うん。でも……円華っちなら大丈夫だよね!」
「そうだな」
「犯人、見つけられるよね?」
「そうかもしれない」
「……1+1は?」
「そうか?」
話を聞いていないことがバレてしまい、頭にゲンコツをくらいました。
その時の新森の表情は、笑っているが目の下が暗かった気がしないでもない。
屋上でデータを確認すれば、それはクラス内で友達登録している者たちのデータだ。
誰が誰と友達登録しているかがわかるようになっている。
そして、それに目を通せば、それが一番大事なデータだったことに気づいた。
「……やっぱり、そう言うことだったんだな」
推理がすべて当たり、これで犯人を追いつめることができると喜べると思っていたのに素直に喜べない。
これで、決定的になってしまった。
どこでそうなったのかはわからない。いや、最初から俺はあいつに騙されていたんだ。
いや、騙されていたのは俺だけじゃなかった。
終わらせよう、今までのことを。
そのためなら、俺は……。
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その日の夜。
俺は話があると言って、そいつをEクラスの教室に呼び出した。
最上には来るなと言っておいたが、あいつの場合はどこかに隠れているかもしれないな。
Eクラスの中で菊池の死体が在った場所に立って外の月を見れば、今日は三日月だった。
夢で見ると運気が上がる暗示らしいが、それが俺の心を苦しめる。もう引き返せないのだから。
靴音が聞こえ、段々と教室に近づいてくるのがわかる。
そいつは教室に入り、声をかけてきた。
「椿くん?電話で呼ばれたから来たんだけど……話って、何かな?」
俺はその声に反応し、作り笑いをして振り向く。
「ああ、大事な話があるんだ。……住良木麗音」
悲しい……本当に悲し過ぎる現実だ。
最初に話しかけてきてくれた女だった。誰にでも友好的な女だった。
俺に初めて友達になるって言ってくれた女だった。
「麗音……どうして……」
まだ、信じたくないと思っている自分が居る。どこかで、本当の犯人がまたミスリードをしようとしているんじゃないかという思考が残っている。
だけど、疑わないと何も始まらないんだ。
「どうして、菊池由香を、内海景虎に殺させたんだ?」
「え…?何の……話?」
麗音は目を見開いて驚いている。
一体、何を言ってるの?意味がわからないっと言うような表情だ。
だけど、それではぐらかされない。
「何の話じゃないだろ。おまえは
「ちょ、ちょっと、待ってよ!!あたしは犯人じゃない!!内海くんと接点があるのは、あたしだけじゃないから!!」
当然、反論されることはわかっていた。
それも想定内の言葉だった。
「そうだな、誰もかれもが容疑者だ。だけど、いろんな証拠がおまえだって物語っているんだよ。……それに、おまえがこんな殺人事件を起こさせたのは、菊池が初のケースじゃない」
そうだ、この事件が発端ではない。これは延長線上に起きた悲劇だ。
「内海が1ヶ月間謹慎になった
俺はスマホのデータを見ながら、それを読み上げる。
「1年Cクラスの
「それはすべて偶然!!あたしは関係ない!!内海くんが勝手にしたことでしょ!?」
あくまでも内海の暴走だと言う事にしたいらしい。
まぁ、普通は証拠がないと認めないよな。
「そうかもしれねぇ。だけど、今回の菊池の事件はそうもいかない。謹慎中の内海が外に出るためには、誰かの助けが必要だ。センサーを解除するには、外から誰かが開けなければいけないんだからな」
「なら、Dクラスの誰かが開けたんだよ!!あたしと内海くんは接点がないんだから!!」
「……はい、地雷を踏んだな、麗音」
「は…?」
意味がわからないと言う表情をしている麗音。
確かにこんなものが役に立つなんて、誰も思わないからな。頭から抜けるのはわかるさ。
「あの日、教師や生徒会の中では岸野先生
麗音の表情から、仮初の焦りが消えては少しずつ怒りの顔になる。
「ちなみに言うと、SからC、そして今のFクラスと内海が接点が在ったなんて話は聞かなかったから、接点があるなら残りはEクラスの奴らだけ。麗音、おまえは菊池の部屋を開ける時に言ったよな?クラスのみんな全員の合い鍵になっているって。それって、俺と最上以外の全員と友達登録をしたってことだよな?……元Fクラスの内海とも」
「そ、そうだとしても、あたしは事件に関係―――」
「ないわけないんだよ。Eクラスの中で内海と友達登録をしている生徒は、おまえ以外に居ないことは調べ済みだ」
未だに言い逃れをしようとしている麗音に、決定的な事実を言葉にして告げる。
「おまえ以外に内海の部屋の鍵を開けることなんて不可能なんだよ」
「そ、それは……でも!!それであたしが内海くんを逃がしたことにはならない!!だって、あたしと内海くんとは何の接点も無いんだから!!友達登録だって、クラス委員長になった時に仕方なくで……!!」
「麗音、菊池、内海、そして1ヶ月前に殺された生徒5人と教師1人……みんなに共通することがもう1つだけあるんだ」
麗音の言い逃れの口車に乗っているのは、もはや時間の無駄だ。
次の証拠で精神的に追い込む。
「全員、入学当初はCクラスに所属していた。その証拠に、デジタルカメラにこんな写真が残っていたんだ。おまえが捜査初日に俺たちに近づいた目的は、これを消すためだったんだろ?」
スマホに保存しておいたデジカメの写真を見せれば、住良木麗音は戸惑いと焦りで目が震えだした。
「どう……して……!?」
「デジカメが教えてくれた。大切にしてくれていた菊池を殺した犯人に、
その写真には、内海と麗音が仲良く抱き合っている所が端の方で映っており、客観的に見るならこれは……。
「思いっきり接点……あったな?すっごく仲が良さそう。まるで、恋人同士みたい」
俺のイラつくような口調が聞こえているのかどうかはわからないが、麗音は自分の顔を隠したまま固まる。
そして、少し時間が経てば、深い溜め息をついて俯いて両手を離す。
「円華くんはさぁ……自分にとって完璧な世界があれば、ストレスも何も無くて幸せな世界になると思わないかなぁ?」
「なるだろうな。それは理想的だけど、背徳感と罪悪感で打ちのめされそうだ」
麗音の声が低くなり、静かに言葉を口に出す。
「あたしはそれを作ろうとしただけ。バラだって、
机に座って下から睨みつけてくる麗音の顔は、Fクラスの時に瞭の大浴場で見た怒りに歪んでいた。
これが、今まで見せていなかった
「その女って言うのが菊池か?」
「違うよ。菊池さんはあの女の影響を受けそうで、調子に乗ってあたしに反発したから消しただけ。ああ、最悪……!!本当に最悪!!消えてほしい!!地獄に落ちて!!死んでよ、マジで!!あの女が気に入らない!!」
暴言を吐きだし、俺を睨みつけたままその名前を口にした。
「あたしの思い通りにならないあの女……最上恵美!!」
「……は?」
今、聞こえるはずのない女の名前が耳に入った。麗音とは全く関係がないと思っていた、予想外の名前が。
「最上……だって!?」
もしかして、麗音が本当に殺したかった奴って最上だったのか。
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