幸せの鍵盤

にゃみ

幸せの鍵盤

ソフィ・モンターレ:♀

現在19歳の女の子。母親を亡くして以来、ピアノが嫌いになる


シモン・モンターレ:♂

現在44歳のソフィの父親。片親としての責任感からソフィに厳しくあたる。教会ピアノ奏者


リリィ・モンターレ:♀

享年35歳のソフィの母親。無邪気で優しい女性だった


リコ・アンジェロ:♂

現在45歳の元軍人。妹を捜してこの街にやってきた


フィリップ・アドルナード:♂

現在21歳の男の子。天才ピアニストとして世間に知られている。キャロラインの許婚


キャロライン・サヴォイア:♀

現在21歳の女の子。天才歌手としてフィリップと共に知られている。フィリップの許嫁


男:♂

名もなき男。下層を生き抜く人間の一人




役表

ソフィ:♀

シモン:♂

リリィ:♀

リコ:♂

フィリップ:♂

キャロライン:♀

男:♂




※タイトルコールは誰がやるのか自由にお決め下さい※


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ソフィM:小さな頃はお母様とお父様に挟まれて、毎日家族3人でピアノを弾いてた。あの暖かさは2人の体温だけじゃない。あの暖炉の暖かさだけじゃない。心の底から暖かかった



リリィ:「わあ!弾けたね」



ソフィ:「やったー!」



シモン:「すごいぞ、6歳でこの曲が弾けるなんて」



リリィ:「さすが私の子ね」



シモン:「おいおい、私達だろう?」



リリィ:「うふふ、嘘よ。私達のソフィですもの」



シモン:「ソフィは本当に才能がある。きっと世界一のピアニストになるよ」



リリィ:「ええ。私達も越されないようにがんばらないとね」



ソフィ:「私、世界一になるよりもずっとお母様とお父様と一緒に弾いていたい」



リリィ:「そうね。私もよソフィ」



シモン:「俺もだ。ソフィ、リリィとずっと弾いてられるならそれだけで幸せだ」



リリィ:「それじゃあ、今日も一緒に弾きましょう」



シモン:「君は本当に連弾が好きだね。それじゃあこの曲にしよう『ラプソディー・イン・ブルー』に」



ソフィM:お母様は連弾が大好きだった。お母様とお父様に挟まれて。毎日一つのグランドピアノを弾き続けた



シモン:「ソフィ。こっちへおいで」



ソフィ:「ひっく、ひっく」



シモンM:リリィが死んだ。原因は流行り病だった。彼女は笑顔で亡くなった。あんなに笑顔が綺麗で、悲しく映ったのは初めてだった。ソフィはまだ10歳だ。俺が責任をもって育てて見せる。幸せな未来へ導いて見せる…



ソフィM:お母様が死んだ。原因は流行り病だった。お母様は笑顔で亡くなった。最後までピアノを弾いてと頼まれて…私必死に弾き続けた。きっと幸せだったよね。お母様は。でももうピアノは嫌い。お母様の最後の笑顔を思い出してしまうから


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タイトルコール

※:幸せの鍵盤


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ソフィ:「今日はもういや。あたし寝るわ」



シモン:「おい待て。まだこの曲を完璧にできてないぞ」



ソフィ:「もういいでしょう?どこがダメだというの?お父様は何を私に求めているの?」



シモン:「どこがダメだと?まるきりダメだ。どこに良いところが?聞いてるものを不快にさせるピアニストなどあってはならん。さあ、もう一度やり直すんだ」



ソフィ:「ッ。いやよ」



シモン:「いやだと?ふざけるな!この程度、他のピアニストは出来て当たり前なのだ。世界一のピアニストになど程遠い。さあ、やり直すんだ!」



ソフィ:「いやだと言っているでしょう!もう弾きたくないのよ!」



シモン:「やるんだ」



ソフィ:「いやよ!」



パチンッ(シモンがソフィの頬をうつ)



ソフィ:「…」



シモン:「なんだその目は」



ソフィM:お母様が亡くなってお父様と私の仲は最悪になった。ことあるごとに世界一、世界一と本当に嫌になる



ソフィ:「どうしてお父様はそんなにひどい人になったの」



シモン:「ひどいだと?お前が出来ればここまでのことはしない。出来もしないのに反抗ばかりするからだ」



ソフィ:「私はできているわ。お父様が認めないだけよ。他の人はきっとこう言うわ。『すでにソフィの方が圧倒的に上手だ』ってね」



シモン:「ならば来週、音楽家だけが集まるパーティーがある。お前と同じくらいの歳の者もいるだろう。そこで聞いてもらえ。お前がいかに未熟かわかるだろう」



ソフィ:「いいわ。お父様こそいかに私の演奏が素晴らしいか。よくわかるでしょう」



ソフィM:音楽家だけのパーティー。みんなの前で証明してみせる。私はすでにお父様に文句を言われる腕前じゃないんだって


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フィリップ:「皆様、ようこそお集まりくださいました。主催のフィリップ・アドルナードです。今回のパーティーでは皆様に存分に腕を振るっていただき、各々の腕を高めようというものでございます。それでは最初にシモン・モンターレさんです。どうぞ」



シモン:「では」



~♪



ソフィM:お父様はたしかにすごいわ



フィリップ:「では、お次にシモンさんの娘。ソフィ・モンターレさんです」



ソフィM:でも、私はお父様が言うような下手くそじゃない。周りがそれを証明してくれるわ



~♪



キャロ:「フィリップ。あの子、すごいわね。あなたとおなじくらいじゃない?周みな聞き入って目が点になっているわ」(小声)



フィリップ:「ああ」



フィリップ:「美しいな」



ソフィ:「ふぅ、ありがとうございました」



ソフィM:これが私の力。これでお父様に文句は言わせない



ソフィM:ダメ。誰の演奏を聞いても…やっぱりピアノなんて嫌いよ



フィリップ:「お次はリコ・アンジェロさんです。どうぞ」



リコ:「どうも」



フィリップM:はて、聞いたことのない名だな。それにしても面倒くさいと言わんばかりだ



~♪



ソフィ:!



シモン:「この音色は…」



ソフィ :「お母様の」



シモン:「リリィの」



ソフィ and シモン:「音色…」



リコ:「はい、ありがとうございました」



シモン:「…どうしてリリィを思い出したんだ」



ソフィ:「さっきまでピアノの音なんて嫌で仕方なかったのに。彼の音だけは…心地いい」



フィリップ:「それでは、最後に私。フィリップ・アドルナードが演奏いただきます。キャロラインの歌を添えて」



パチパチパチパチ



~♪



フィリップ:「この後は存分に互いの意見を交わすことができるよう、料理等ご用意しております。どうぞご参加ください」




ソフィ:「はあ。どこにも座る場所がない」



リコ:「なら床に座ってはどうかな?僕はそれが一番楽だ」



ソフィ:「はい?」



リコ:「急にすまないね。どうも捜している人に似ていたもので」



ソフィ:「はあ。でもレディに対して床に座れとは失礼じゃありません?」



リコ:「む、それもそうか。いや失礼」



ソフィ:「まあ、どうせ座る場所もありませんし。お少し横、よろしくて?」



リコ:「どうぞ」



ソフィ:「失礼します。さっき人を捜していると言われましたよね」



リコ:「ええ。妹を捜しておりましてね。彼女は音楽が好きでしたから、ここにならいるのではと来てみたのですが」



ソフィ:「そのぶんですと、見つからなかったのですね」



リコ:「ハハハ、その通りで」



ソフィ:「妹さんのお名前は?」



リコ:「名前はリリィ・アンジェロと言います」



ソフィ:「え」



リコ:「どうしました?」



ソフィ:「い、いえ。少し母の名前が似ていたもので」



ソフィM:名前は同じだけれど、別人ね。母の旧姓はシレアだもの



リコ:「そうでしたか、ちなみに旧姓は」



ソフィ:「シレア。リリィ・シレアです」



リコ:「それでは別人ですね。ううむ、今日はもう帰るとするかな」



ソフィ:「もうお帰りになるのですか?他の方と話し合ったりなどは」



リコ:「私の来た目的は妹を捜すことですからね。それじゃ」



ソフィ:「はあ」



ソフィM:ピアノの嫌いな私の言えたことではないけれど、この人向上心というものがないのかしら



リコ:「あ、そうだ」



ソフィ:「どうしました?」



リコ:「ソフィさんでしたか。あなたの演奏ですがね、たしかに上手ではありましたが、どうもピアノがかわいそうな演奏でしたよ。何というか、上辺だけで心がこもってませんでした。文句のようですがこれだけ言いたくてね。では」



ソフィ:「…何あの人」



フィリップ:「お少し、お嬢さん」



ソフィ:「あ、はい?」



フィリップ:「お嬢さんのような方が床に座り込んでいては、はしたないですよ」



ソフィ:「ああ、すいません。座る場所がなかったもので」



フィリップ:「それならばこちらに席をご用意しましょう」



ソフィ:「ありがとうございます。痛ッ」



フィリップ:「どうしました?」



ソフィ:「ああ、ちょっと足がしびれちゃって。お少しお手を貸していただけません?」



フィリップ:「ええどうぞ」



ソフィ:「どうしました?顔が赤いですが、熱でも」



フィリップ:「あ、い、いえ。あまり女性に触ることに慣れてなくて」



フィリップM:噓だ。僕は付き合いの上とはいえなんども女性に触れている。こんな気持ちはキャロラインと初めてあった時以来だ



ソフィ:「すいません、ご迷惑をおかけしました」



フィリップ:「い、いえ。ではこちらへどうぞ」



キャロ:「あら?シモンさんの娘の方じゃありませんこと?」



フィリップ:「ああ。ソフィさんだ」



キャロ:「初めまして。わたくし、キャロライン・サヴォイアと申します」



ソフィ:「初めまして。ソフィ・モンターレと言います。サヴォイア家のお方ですか?」



キャロ:「ええ」



フィリップ:「彼女は僕の…」



フィリップ:「幼なじみだ」



キャロ:「なんですって」



キャロM:幼なじみ?私はあなたの許嫁よ?



キャロ:「フィリップ、私はあなたの」



フィリップ:「キャロライン、僕ソフィさんに少し庭を紹介してくるから。他の方にはそう言っておいて」



キャロ:「今は別に庭なんて」



フィリップ:「それじゃあ、ソフィさん。行きましょう」



ソフィ:「はあ、構いませんけど」



キャロ:「あなたまさかその子に」



フィリップ:「さ、行きましょう」



キャロM:…惚れたの?。『美しい』と言っていたのは音色ではなかったわけ?。…まだ分からない。もしかしたら家どうしの付き合いだけかもしれない。そうであって欲しいわ



フィリップ:「ここはベゴニアが植わっています。四季咲きのものを揃えていまして、一年中楽しめますよ」



ソフィ:「へえ。可愛いですよねベゴニア」



フィリップM:僕の庭には美しい花を沢山そろえている。練習に疲れた時、いつもキャロラインと癒されに来る。でも今は。目の前にいる今日初めてあった彼女に僕は心を惹かれてやまない



ソフィ:「フィリップさん。あれは?」



フィリップ:「バラです。あれはガブリエルですね」



ソフィ:「まるで天使の羽みたいですね」



フィリップ:「ええ」



ソフィ:「それでは、私はこれで」



フィリップ:「はい。ご満足いただけましたか?」



ソフィ:「ええ。満足させていただきました」



フィリップ:「お父様は?」



ソフィ:「私一人で帰ります」



フィリップ:「この時間に一人は危ないですよ。送らせましょうか」



ソフィ:「ご親切にありがとうございます。しかし、使用人を待たせておりますので」



フィリップ:「そう、ですか」



ソフィ:「それでは」



フィリップ:「また会えますか」



ソフィ:「…分かりません」



フィリップ:「お互いピアノを弾いいていればいつかまた」



ソフィ:「…もうピアノは弾きたくないんです。それじゃ」



フィリップ:「そんな、あなたの演奏は」



キャロ:「フィリップ」



フィリップ:「キャロライン…」



キャロ:「後で話があるわ。部屋に来て」



フィリップ:「…ああ」



コンコン



フィリップ:「入っていいかい」



キャロ:「どうぞ」



ガッチャ(ドアが閉まる)



キャロ:「聞きたいことは分かるわね」



フィリップ:「ああ」



キャロ:「あの子に惚れたの?」



フィリップ:「ああ」



キャロ:「いつものような付き合いではないの?」



フィリップ:「ああ」



キャロ:「私があなたの許嫁だと分かっていて?」



フィリップ:「…」



キャロ:「私よりも今日初めて会ったあの子の方がいいっていうの?」



フィリップ:「……ああ」



キャロ:「『ああ』だけじゃわからないわよッ!!!」



フィリップ:「ああ」



キャロ:「私はあなたの許嫁だけじゃない。心の底からあなたを愛しているのよ。許嫁ってだけの関係じゃないのよ!」



フィリップ:「…ああ」



キャロ:「だから『ああ』だけじゃわからないって言ってるでしょ!!!」



フィリップ:「…本気で惚れてるんだ。最初は一目惚れだった。でもさっき一緒に歩いて、話してみて、心から惚れているんだ」



キャロ:「…十年以上いる私よりも。…あの子がいいって言うの。私達の十五年間は……なんだったの」



フィリップ:「ごめん。僕もう寝るから。おやすみ」



キャロ:「……」



キャロ:「あんなに逃げるようなあなたは初めて見たわ」



キャロラインM:一瞬の気の迷いだと思いたい。いつかは私の元に帰ってくると。でも彼の演奏していた時の視線の先は一緒に歌う私ではなかった。…ソフィ。あの女に向いていた



キャロ:「いいわ。あの女に心から惚れているなら取る手段は一つだけよ」


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シモン:「ソフィ。起きなさい」



ソフィ:「もう起きているわ」



シモン:「昨日はどうだった。いい刺激になったろう」



ソフィ:「ええ。そうね」



シモン:「ならばやることは分かるな」



ソフィ:「ええ。二度とピアノを弾かないことがね」



シモン:「なに?」



ソフィ:「昨日のみんなの演奏を聞いて深く思ったわ」



シモン:「……」



ソフィ:「ピアノなんて」



シモン:「言うな」



ソフィ:「二度と聞きたくもない」



シモン:「出ていけ」



ソフィ:「ええ。出ていくわ。この家にいる限りピアノの音は耳に入ってくる。こんな場所、地獄よ」



シモン:「お前ッ」



ソフィ:「じゃあね」



シモン:「…ッ」


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ソフィM:出てきたことはいいけれど、これからどうしよう。服とか、少しの食べ物くらいの最低限のものは使用人達が用意してくれたけれど。親戚もいないし



男:「おい、あんた」



ソフィ:「はい?…何するんですか!」



男:「そうはいかねえんだ。あんたを始末することが俺の仕事。離すわけにはいかねえ」



ソフィ:「く、このッ」



男:「いってぇ!やろう、ペンを足に腕に刺しやがった」



ソフィM:逃げなきゃ。殺されちゃう



男:「女の足でどこまで逃げれるかね」



ソフィ:「ハァ…ハァ…ハァ…」



ソフィ:「あっ」



ソフィM:そんな。スカートにつまずいてこけるなんて



男:「はあ、意外と速くてビックリしたぜ。さ、こんな所で殺すと後が面倒だからな。さ、行くぞ」



ソフィ:「離して!離してよ!」



男:「やらなきゃ俺が殺されかねんよ。あんたら上の人間は知らんかもしれんがな。俺達下で生きている人間は毎日が生死の駆け引きなんだ。まあ、スリルはあっていいが」



ソフィ:「どうして、どうして私が殺されなくちゃいけないの」



男:「知らないよ、俺に聞かれたってさ。俺達は金を貰って、その日を生きるだけさ。あんたが死ねば俺が生きられる。人助けだと思ってあきらめてくれ」



~♪(ピアノの音)



ソフィM:ピアノの音…ここで死んだら楽かもしれない。何も考えないで済むようになるなら。ピアノの音を聞かないで済むなら。いっそここで…



リコ:「おい、なにしてるんだ?」



男:「ん?」



リコ:「その子、少し知り合いでね。何をしているのかと思って」



男:「ん、ああ、いや別に何も」



リコ:「引きずりながら言われてもなあ」



男:「いいだろ?別に。放っておいてくれ」



リコ:「そうはいかんなあ」



男:「チっ。うっとおしんだよ!」



男M:あれ?



リコ:「すまんね、少々腕に覚えがあってね。それじゃ」



男M:す、すっげえ力だ。兵隊か?こいつ



男:「ま、待て、待ってくれ。そいつを渡してくれねえと俺が…。行っちまった」



ドサッ(男が腰を下ろす)



男:「どうするかなあ。依頼をミスっちまった。…まあ、俺が殺されねえことを祈るか。明日が分からないのはいつものことか」



キャロ:「今あなたの明日を決めてもいいのよ」



男:「おっと。ご主人様、昨日ぶりで…」



キャロ:「私は捕まえてこいと頼んだのだけれど…?」



男:「す、すみません。どうも伝達にミスがあったようで」



キャロ:「…まあいいわ。次が最後のチャンスよ。いいわね」



男:「はい…」


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ソフィ:「どうして助けてくれたの」



リコ:「いやあ、逃げているところから見ていてね。上手く助けられるタイミングを伺っていたんだが、いよいよ危なかったので出てきたというわけです」



ソフィ:「…あそこで死んでしまえば良かった」



リコ:「ん?」



ソフィ:「あそこで死んでいれば私、楽になれたのに」



リコ:「死ねば楽になるかあ。まあ、とりあえず僕の部屋においでなさいな」



ソフィ:「………」



リコ:「お昼はお済みですか?」



ソフィ:「いいえ、まだです。食べずに飛び出してきてしまって」



リコ:「それじゃあ、昨日のシチューとパンが余っているからこれでいいかな?」



ソフィ:「はい、すいません」



リコ:「さて、聞いてもいいかな?まあ、話したくなければそれでいいけれども。どうして死にたかったのかな?」



ソフィ:「死んでしまえば何も考えずに済みます。それに…ピアノの音を聞かなくてすむから」



リコ:「何も考えずに済む、か」



ソフィ:「………」



リコ:「25年前、僕は戦場にいてね。僕の横でたくさんの仲間が死んでいったよ。武器の質が悪くてなかなか簡単には死ねなくて、みんな苦しい中で死んでいったさ」



ソフィ:「体験談ですか?学校でさんざん聞きました」



リコ:「まあまあ。みんな最後どうやって死んでいくと思う」



ソフィ:「苦しみながら死ぬのでしょう?」



リコ:「そう、まだやれなかったこと、これから在ったはずの人生が頭を駆け巡ってしんでいくのさ」



ソフィ:「でも生きていればピアノの音が聞こえるわ」



リコ:「どうしてピアノの音が嫌なんだい?この前の演奏でも思ったけど」



ソフィ:「分からない。いつからかはわからないけれど、嫌いになってたの。もう今では聞いていることすら嫌」



リコ:「……食べ終わったら隣の部屋に来てくれるかな」



ソフィ:「構いません」



ソフィ:「失礼します…さっきピアノの音は聞きたくないと言ったでしょう」



リコ:「ま、嫌になったら出ていけばいいさ」



~♪



ソフィM:まただ。この人の演奏はお母様を思い出させる



~♪



リコ:「……どうかな?」



ソフィ:「…嫌いじゃないです」



リコ:「おお!良かった良かった!」



ソフィ:「フフッ」



リコ:「ん?何か面白いことでもあったかい?」



ソフィ:「いえ」



ソフィM:歳はわからないけれど。子供みたいな人



リコ:「どうだい?弾いてみる気は起きたかい?」



ソフィ:「まだ、弾く気にはなれない…です」



リコ:「そうかあ。まあ、眠くなったら反対側の部屋が君の部屋だからそこで寝て。ベッドとテーブルくらいは用意したから」



ソフィ:「はい、ありがとうございます」



リコ:「ふんふん~♪」



ソフィM:うん、ソファに腰を下ろしていると眠く……



ソフィM:あのピアノの上の絵の女の子、どこかで…



ソフィ:スースー



リコ:「ん?ああ、そこで寝ちゃったか」



ファサ(布をかける)



リコ:「おやすみ、また明日」


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ソフィ:「ん……ここ、は…」



ソフィM:たしか、ピアノを聞きながら眠くなって…



リコ:「お、ちょうど起きたね」



ソフィ:「えっと、たしか」



リコ:「リコです。いやあ、まさか丸一日寝ちゃうとは思わなかったよ」



ソフィ:「え、丸一日私寝てたんですか!」



リコ:「そうだよ、サパーを持って来た時にまだ寝てた時はビックリしたね」



ソフィ:「あの、今は…」



リコ:「今は…13時だね」



ソフィ:「13時…」



リコ:「ちょうど昼を持ってきたところだから、はい。どうぞ」



ソフィ:「ああ、どうも」



リコ:「もう死ぬ気は無くなったかい」



ソフィ:「はい。とりあえず今は」



リコ:「家には帰らない?」



ソフィ:「家は…帰りたくないです」



リコ:「それなら、これからどうする?」



ソフィ:「これから…」



リコ:「ま、ここには基本ずっといていいよ。何か目的を見つけたらいつでも行っていいから」



ソフィ:「はい」



リコ:「んじゃ、僕は街で情報を集めてくるから。夜には戻るよ」



ソフィ:「……あの!」



リコ:「なんだい?」



ソフィ:「ピアノの上の絵って」



リコ:「僕と妹の絵だよ。もう30年近く前だけど」



ソフィ:「見せてもらってもいいですか」



リコ:「好きなだけどうぞ」



ソフィ:「……お母様だ」



リコ:「ほう?」



ソフィ:「お母様の昔の絵にそっくり…」



リコ:「ふーむ。でも旧姓は違ったよね」



ソフィ:「そうなんです。私の母の旧姓はリリィ・シレアですから…」



リコ:「僕の妹はリリィ・アンジェロ…。ふーむ、その点も調べてくるとしよう。それじゃあ、行ってくるよ」



ソフィ:「はい」



ソフィ:「……これからか」



ソフィM:何も考えてなかった。いい人に出会えたから今まだ生きているけど



ソフィ:「…たしか、この近くに公園があったよね」


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ソフィM:川っていいな。流れてるだけでいいなんて



フィリップ:「おや?ソフィさんじゃないですか」



ソフィ:「あ、どうも」



フィリップ:「こんなところに一人で座り込んで、どうかなさったんですか」



ソフィ:「いえ、ただ……川は流れているだけでいいなんて。ずるいなって」



フィリップ:「流れているだけでいいかあ…。たしかにそうですね。何も考えず。悩みなどなく、流れているだけでいい」



ソフィ:「ずるいと思いません?」



フィリップ:「ずるいですね」



ソフィ:「フフフ」



フィリップ:「ハハハ」



ソフィ:「フィリップさんはどうしてここに?」



フィリップ:「少し…キャロラインと喧嘩しましてね。気晴らしに」



ソフィ:「ハァ…お互い大変ですね」



フィリップ:「ソフィさんは?」



ソフィ:「これからのことが不安で。ボーっとしたくて」



フィリップ:「同じですね」



ソフィ:「ええ」



フィリップ:「……」



ソフィ:「……」



ソフィ:「私、お母様が小さなころに亡くなって」



フィリップ:「……」



ソフィ:「ピアノの音を聞いているとお母様を思い出してしまうから、ピアノが嫌いになったんです」



フィリップ:「……」



ソフィ:「でもお父様はピアノをやめることを許してくれなくて」



フィリップ:「……」



ソフィ:「どうせ生きていればピアノは聞こえてくる。そう思うと生きていることがおっくうになって」



フィリップ:「少し、歩きましょう。多少気が晴れるかもしれません」



ソフィ:「ええ」



フィリップ:「この川はいつ見ても綺麗ですね」



ソフィ:「透き通って…清らかで」



フィリップ:「岸辺では子供たちが遊びまわって」



ソフィ:「…なんだか死のうなんて思ったことが馬鹿らしくなってきた」



フィリップ:「…ソフィさん」



ソフィ:「なんですか?」



フィリップ:「どうもこう固い言葉でしゃべるとしんどくて仕方がない。どうです?もっと楽にしゃべりませんか?」



ソフィ:「んん、そうですね。じゃあ、これからはフィリップって呼んでいいですか?」



フィリップ:「はい、じゃあ僕はソフィって呼んでいいのかな」



ソフィ:「どうぞ」



フィリップ:「ハハハ」



ソフィ:「フフフ」



フィリップ:「じゃあ、また今度」



ソフィ:「ええ。また」



フィリップM:フィリップ、か。なんだかむずがゆいな


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リコ:「情報収集するならここだな」



リコ:「おじゃましまーす」



男:「おお、いらっしゃい…ぃい⁉」



リコ:「なんだ昨日の奴じゃないか」



男:「昨日の奴って…。まあ、俺たちの名前なんてあってないようなもんだからいいか」



リコ:「あんたここの店主かい?」



男:「いや、ただの客さ。店主はあっち」



リコ:「ここの常連かい?」



男:「そうだな。そいつは合ってる」



リコ:「じゃあ、少し頼みごとがあるんだ」



男:「頼みごとぉ?」



リコ:「そ。こういうところの常連なら色々情報をもってそうだと思ってね」



男:「まあ、あるにはあるが。…ただでは教えねえよ?」



リコ:「ただとは言ってない。ただ、少し昨日のお詫びとして教えてくれればいいのさ」



男:「昨日のお詫び?おいおい、俺は仕事をあんたに邪魔されたんだ。むしろこっちがお詫びしてほしいぜ」



リコ:「ソフィへのお詫びだ。これならどうだい?あんたも義理人情はあるだろ?」



男:「うーむ」



リコ:「昨日何しようとしてたかは知らないが、まあろくな事じゃなかったんだろ?」



男:「むむむ」



リコ:「もしかして…殺そうと」



男:「だぁあ!わかった。わかったよ。で、何を聞きたいんだ」



リコ:「リリィ・モンターレという人物についてだ」



男:「リリィ・モンターレ?シモンの奴の妻だろう」



リコ:「そう。彼女の出生について知りたいんだ」



男:「ふむふむ。まあちょっと待ってな。すぐ戻る」



リコ:「あいよ」



男M:ううむ、あいつとんだお人好しだぜ。俺が逃げるって考えんのかね。まあ名もなき男、義理人情は多少の心得がある。調べてきてやるとするか



リコ:「お、早かったね。丸一日待つつもりだったんだけど」



男:「はっはっは、これが俺の力よ」



リコ:「それで、肝心の情報は?」



男:「まあまあ、そう急かすな。今教えてやる」



男:「リリィ・モンターレだが、生まれは全然違うところだな。お隣の国だ」



リコ:「ふむ」



男:「どうもいい生まれだったみたいだが、お家騒動で姓が変わっちまったみたいだな。で、変わった姓がシレアっと」



リコ:「うん。じゃあ変わる前は?」



男:「アンジェロ。リリィ・アンジェロだ。…あんたの姓といっしょだな」



リコ:「じゃあ、当たりだったわけだ」



男:「当たりぃ?何が」



リコ:「ソフィの母親のリリィは僕の妹ってことさ」



男:「ほう?こいつは面白い。妙な巡り合わせがあったもんだ」



リコ:「よし、ありがとう。今度また別に礼はするよ」



男:「あ?こいつはソフィちゃんへの謝罪ってことじゃなかったのかい」



リコ:「義理を通してくれたろ。僕もちゃんと義理で返さなきゃな」



男:「ほーん。そんなもんかね」



リコ:「んじゃ」



男:「……ほんとお人好しだぜ」


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リコ:「ただいまー」



ソフィ:「おかえりなさい」



リコ:「お、朝より元気そうじゃないか。…サパーまで作って、まあ」



ソフィ:「少しだけ公園に散歩に出たんです。そこでフィリップと会って、お互いのこと話したら気が楽になったんです」



リコ:「そいつは良かったけど。君昨日殺されかけたんだよ?もう少し自分を大切にしなよ」



ソフィ:「あ、す、すみません」



リコ:「無事で何よりだよ。ふう。さて、サパーには何を作ってくれたのかな」



ソフィ:「ええと、シチューとパンが少し残っていたので、それだけ…なんですけど」



リコ:「ああ、十分十分。あとはシチューの出来かな?ソフィは料理はするのかい」



ソフィ:「あんまりしたことないです…。基本お手伝いさんが作ってくれてたので…」



リコ:「あらま」



ソフィ:「なのであんまり期待は…」



リコ:「ま、食べたらわかること。いただきまーす」



ソフィ:「…どう、ですか」



リコ:「いいね、おいしい。僕の好きなひよこ豆も入ってるし」



ソフィ:「お母様が好きではなくて、あまり食べたことなかったんですけど、私の中でひよこ豆はおいしいイメージがあって」



リコ:「ハハハ、そういえばリリィはひよこ豆が嫌いだったな」



ソフィ:「じゃあ、お母様と一緒ですね」



リコ:「ん、ああ、忘れてたよ」



ソフィ:「はい?」



リコ:「僕の妹のリリィと、君の母親のリリィは同一人物だ」



ソフィ:「え?ど、どういうことですか?」



リコ:「そのままだよ。二人とも同じリリィだったというわけだ」



ソフィ:「でも、姓が」



リコ:「リリィは姓が二度変わっていたようだ。最初はアンジェロ。次がシレアで」



ソフィ:「最後が…」



リコ and ソフィ:「モンターレ」



ソフィ:「じゃ、じゃあ、リコさんと私は」



リコ:「伯父と姪っ子ってことだね」



ソフィ:「……」



リコ:「どう?この妙な巡り合わせについては」



ソフィ:「……驚きすぎて何も言えないです」



リコ:「ハハハ、それもそうか」



ソフィ:「強いて言うなら」



リコ:「言うなら?」



ソフィ:「…なんでもないです」



リコ:「ありゃ?」



ソフィ:「フフフフフ」



リコ:「何か面白かった?」



ソフィ:「なんだか、ありゃっていうのがすごく間抜けで…フフフ」



リコ:「ありゃ?そうかなあ」



ソフィ:「フフフフフフ」



リコ:「フ、ハハハハハ」



ソフィ:「アハハハハハ」



ソフィM:強いて言うなら…運命かな



リコ:「そうだ。子供のころのリリィのことを教えてあげようか」



ソフィ:「ぜひ!」



リコ:「そうだなあ」


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リリィ:「わ!だーれだ!」



リコ:「こんなことするのは…リリィだ!」



リリィ:「わ、バレちゃった」



リコ:「いたずらっ子にはお仕置きかな?」



リリィ:「きゃー、にげろにげろー♪」



リコ:「こら、待てー!」



リリィ:「ええと、そうだ」



リコ:「どこに行ったー?いたずらっ子出てこーい!」



リリィ:「……壺の中に隠れるなんて我ながら天才!次はどうしようかな…そうだ!」



リコ:「ん?さっき声がしたぞ。よーしこの廊下のどこかだな?」



リコ:「どーこだっ!違うかー。どーーこだっ!…違うかー」



リリィ:「…ばぁあッ!」



リコ:「うわ!花の化け物!…さてはリリィだな?」



リリィ:「イェーイ、成功だ!」



リコ:「こらー!待てー!」



リリィ:「嫌だねー。…来れるもんならここまでおいでー!」



リコ:「おっと僕が木に登れないと思ってるな?よーし、兄ちゃんをなめちゃいけないぜ」



リリィ:「わー、さっすがお兄ちゃん」



リコ:「どんなもんだい。あれ?何か忘れてる気がするぞ?」



リリィ:「今日のおやつがまだってことを忘れてるんだよ」



リコ:「んー?騙そうとしたって駄目だぞー!」



リリィ:「きゃー、ばれちゃったー」



リコ:「あ、また逃げた!待て待てー!」



リコ:「…また見失っちゃったよ。今度はどこだー?」



リリィ:「お兄様♪」



リコ:「あ!いたいたいたずらっ子。ようやく観念したか」



リリィ:「連弾しましょ!今日これね」



リコ:「まったく…どれだい?」


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リコ:「こんなふうにいたずらっ子でね。運動神経も男子顔負けだったよ」



ソフィ:「本当にお母様なのね」



リコ:「うん。そしてなによりね。リリィは連弾が大好きだった」



ソフィ:「じゃあ、何も変わってないです。お母様はいたずら好きで、力もお父様とかわらないくらい強くて、街のマラソン大会なんか男の人より速かった。そして…連弾が大好きだった」



リコ:「変わらないなあ。リリィは」



ソフィ:「ええ。本当にまったく変わらない…」



リコ:「そうだ!今リリィはどうしてるんだい?」



ソフィ:「え」



リコ:「今だよ。いいお母さんになったかい?」



ソフィ:「えっと」



リコ:「話を聞く限り本当に変わらない。少しはしっかりとしているといいけど」



ソフィ:「…お母様は」



リコ:「それで、今はどうだい」



ソフィ:「お母様は!!!」



ソフィ:「お母様は………もう亡くなってるのよ」



ソフィ:「もう………もう……この世にはいないの………もう……あの家には…」



リコ:「……いつ亡くなったのかな」



ソフィ:「もう、9年前です」



リコ:「9年…前」



ソフィ:「…流行り病でした。もう分かった時には手遅れで」



リコ:「流行り病…」



ソフィ:「お母様は最後までピアノを弾こうとして…だから…ピアノの音を聞くと……お母様の顔が…手つきが…頭を…よぎって」



リコ:「だから、ピアノが嫌いになったのかい」



ソフィ:「…はい」



リコ:「そう…か」



ソフィ:「……」



リコ:「もう、この世にはいないのか。そっか」



ソフィ:「……」



リコ:「今日はもう寝ようか。僕も久しぶりにお酒を飲んだから疲れちゃってさ。……おやすみ」



ソフィ:「……」



バタン(ドアが閉じる)



リコ:「そうか。もうこの世には…いなかったか」



リコ:「ごめん。リリィ」


------------------------------------------------------------------------------------------------


ソフィ:「ん。私また寝ちゃってたの…」



ソフィM:また泣いちゃった…。…悲しんでいられない。きっとリコさんの方が辛いから



ガチャ(リコの部屋のドアを開ける)



ガチャ(リビングのドアを開ける)



ソフィ:「どこにもいない…ん、手紙?」



リコM:少し出かけてきます



ソフィ:「少し出かける…どこへ…」


------------------------------------------------------------------------------------------------


フィリップM:…忘れられない。ガブリエルを見る彼女の背中が。水面に映った横顔が



フィリップ:「会いたい…ソフィ」



ガチャ(フィリップがドアを開けて出ていく)



男:「窓から覗き見ってのはどうかと思うんですが?」



キャロ:「…行くわよ」



男:「はいよ」



キャロM:きっと。きっと。一瞬の気の迷いよ。私たちの仲は、15年間の絆は。そんな簡単に崩れないわよね


------------------------------------------------------------------------------------------------


キャロ:「あなたがフィリップ・アドルナード?」



フィリップ:「うん。そういう君はキャロライン・サヴォイアかい?」



キャロ:「ええ」



キャロM:素直になれない…どうこの気持ちを伝えたらいいの



フィリップM:初めてだ。女の子にこんな動揺するなんて…。どう…この気持ちを伝えたら



キャロ:「…あなたピアノができるのよね」



フィリップ:「あ、ああ」



キャロ:「こちらへいらして」



フィリップ:「?」



フィリップM:これは…グランドピアノ…



キャロ:「何か…歌のある曲を弾いて下さらない?」



フィリップ:「いいけど…」



キャロ:~♪



フィリップ:~♪



キャロ:「…私たち」



フィリップ and キャロ:「合うね!」



フィリップ and キャロ:「アハハハハハハハハハハ」


------------------------------------------------------------------------------------------------


キャロM:子供の恋は未だに私の中に続いてる。私はあの時から一度だってあなた以外の人を見たことはない。信じたくないわ。あなたが他の人へ愛を向けているなんて



男:「坊っちゃんが入っていきますが…どうしますか」



キャロ:「…行くわ」



男:「後ろについてきてください。間違っても出てきちゃ行けませんよ」



キャロ:「ええ。もちろんよ」



フィリップ:「ごめん、家にまであげてもらちゃって」



ソフィ:「今日は雨がひどいから。とりあえず拭くもの取ってくる」



フィリップ:「ありがとう」



ソフィ:「はい、どうぞ。あとこれ、シチューね」



フィリップ:「シチューまで、なんか申し訳ないなあ」



ソフィ:「遠慮せずどうぞ」



フィリップ:「おいしいね、ソフィが作ったの?」



ソフィ:「ええ。もう何年も作ってなかったのだけど、美味しくできたみたいで良かった」



フィリップ:「僕の家のシチューより全然美味しいよ」



ソフィ:「良かった。ところでこんな雨の中どこに行こうとしてたの?いるなら傘貸すけど」



フィリップ:「その…傘はいらないんだ」



ソフィ:「そう?じゃあ何か他にいるものは?」



フィリップ:「…君に会いたくて来たんだ」



ソフィ:「私に?」



フィリップ:「なんというか、恥ずかしいことなんだけど、君が忘れられなくて」



ソフィ:「…」



フィリップ:「あの日、一目見た時から僕は」



ソフィ:「私は構わないけれど…。あの人は?」



フィリップ:「あの人…」



ソフィ:「キャロラインさんでしたっけ。彼女はどうなんですか」



フィリップ:「彼女は…キャロラインは………」



キャロ:「……」



フィリップ:「ただの…幼なじみさ……」



バンッ(勢いよくドアが開く)



キャロ:「どうして…どうしてなの」



フィリップ:「キャロライン」



キャロ:「15年。15年よ。あの日、初めて会って。あなたのピアノにのせて歌って。あの時から私たちは一緒だった」



フィリップ:「……」



キャロ:「あなたは違ったのかもしれない。私をただの許嫁というだけの演奏のパートナーだと思っていたかもしれない。でも!私は…そうじゃなかった。心の底から愛していた………」



フィリップ:「……」



キャロ:「…やって」



男:「本当にやっていいんですか」



キャロ:「やって。私は、私はあの幸せが、ずっと続くと…思ってた。もう一度あの幸せを…戻すには…」



男:「……くッ」



キャロ:「言ったわよね。これでしくじればあなたは終わる。さあ」



男:「お、俺は」



キャロ:「何をためらうの。あの子をそのナイフで殺してしまうだけであなたは生きられるのよ」



男:「くっ。…すまねえッ」



ガシッ(急に男の腕が捕まれる)



シモン:「俺の娘には傷一つつけさせん」



男:「な」



バキ(シモンが男の頬を殴る)



男:「がッ…し、シモン」



シモン:「ソフィを殺すなら、俺を殺した後でも遅くないだろう」



男:「ぐッ…止めるないでくれよシモン」



シモン:「そうはいかん」



男:「お前まで…殺したくねえッ」



シモン:「なら今すぐそのナイフを置け」



男:「お前ならわかるだろ!俺たち闇を糧にすることでしか生きられない人間は…失敗は許されねえんだ…」



シモン:「そうだな」



男:「俺だって………生きてえんだよ……」



シモン:「ミロ」



男:「! その名は」



シモン:「懐かしい響きだ。あの頃はそう呼んでたな」



男:「そ、その名は…もう、もう捨てた。捨てたんだ」



シモン:「俺の中ではお前はずっとミロだ」



男:「俺の名は」



シモン:「ミロ」



男:「ミ…ロ……」



カタン(ナイフが落ちる)



シモン:「こんなところで再開するとはな。お前がどれだけ辛い日々を送ってきたかは俺には分からない。だが親友としてお前を忘れたことはない」



男:「俺は…まだお前の友なのか」



シモン:「ああ。親友だ」



キャロ:「ッ!」



カタ(素早くナイフをキャロラインが手に取る)



キャロ:「私だけ…私だけが。みんな幸せなのに…」



キャロ:「なら……私は無理にでも幸せが欲しいッ!!!」



ソフィ:「…」



キャロM:え…どうして避けないの?



フィリップ:「キャロライン!」



ザクッ(キャロラインのナイフが深くフィリップの腹部へと刺さる)



フィリップ:「う…く…」



キャロ:「フィ…フィリップ?」



フィリップ:「ご、ごめん。痛みを伴って…初めて君の気持ちを考えるなんて…君の愛を、知る…なんて」



キャロ:「フィリップ…」



フィリップ:「キャロライン。許してほしいとは思わないよ。ただ……ただ。ごめん」



キャロ:「いやよ…、いやよフィリップ。目を開けて!開けてよ!」



男:「ご主人様、今ならまだ間に合うかもしれません」



キャロ:「まだ…」



男:「すぐに俺の知り合いの闇医者に連れてけば、あいつならなんとかなるかもしれません」



キャロ:「ほん…とうに?」



男:「ええ、ただこのナイフかなり分厚いですから急がないと」



キャロ:「ええ、急ぎましょう」



男:「俺が担ぎます」



シモン:「俺の乗ってきた馬車があるそれを使え」



男:「ありがとよ。それじゃ」



ガチャ(キャロ達がお辞儀をして出ていく)



リコ:「……なんとか収まったかな」



シモン:「リコ!おい、歩いちゃ」



リコ:「もう大丈夫だよ」



ソフィ:「何かあったの?」



シモン:「俺と酒を飲みながら話してたら急に苦しみだしてな。急いで連れ帰ってきたんだ」



ソフィ:「そんなことが……」



リコ:「そんな心配しなくていいよ。今は落ち着いてるから」



シモン:「それじゃあ、俺は何か食べ物をとってくるから。あとはソフィに見てもらってくれ」



リコ:「ああ」



ソフィ:「お父様」



シモン:「じゃ」



リコ:「……くっ」



ソフィ:「リコさん!やっぱりまだ」



リコ:「ハハ、ごめん。少し肩を貸してもらえるかい」



ソフィ:「はい。よいっしょ」



リコ:「ふぅ。ありがとう」



ソフィ:「しっかり休んでくださいね」



リコ:「ああ」



ソフィ:「………」



リコ:「…別に君も休んでいいんだよ」



ソフィ:「私は大丈夫です」



リコ:「そこにいるならさっきのバーでの話を聞かせてあげようか」



ソフィ:「話してて大丈夫なんですか?」



リコ:「話すぐらい平気さ。まあ、僕がバーに入ったところからでいいかな」



ソフィ:「はい」



リコ:「そうだねえ」


------------------------------------------------------------------------------------------------


シモン:ゴクッゴクッ



シモン:「…ハァ」



リコ:「どうしました。ため息なんてついて」



シモン:「ん、ああ。リコさんか」



リコ:「ソフィのことですか」



シモン:「どうしてそれを…」



リコ:「ソフィから聞いたんです」



シモン:「ソフィから…」



リコ:「いやね、今ソフィは私の家にいるんです」



シモン:「そうですか…」



リコ:「あなたに会えて良かった」



シモン:「どうしてです」



リコ:「リリィのことを聞きたくて」



シモン:「フッ。あなたがリリィのことを聞いてどうするんですか」



リコ:「僕の妹なんです」



シモン:「妹…」



リコ:「色々調べてわかったんです。リリィは二度姓を変えていて、アンジェロ、シレア、そしてモンターレとなっていたんです」



シモン:「…そうだったな。昔話してくれたことがあったよ」



リコ:「ご存知でしたか」



シモン:「……そうか。じゃあリコさんは俺の…兄か?弟か?俺は今44だが」



リコ:「兄ですね。僕45なので」



シモン:「そうか…」



リコ:「リリィのこと、聞かせてくれませんか」



シモン:「リリィか…」


------------------------------------------------------------------------------------------------


男:「おい、いるだろシモン!」



シモン:「……なんだ?演奏中の邪魔はしない約束だろミロ」



男:「ああ、ごめんごめん。お前彼女とかいないだろ?」



シモン:「当たり前だ。女に割いている時間がもったいない。そんな時間があればピアノを弾く」



男:「そういうなよ。彼女すっげえピアノ上手いんだ」



シモン:「そうか」



男:「お前より上手いだろうな」



シモン:「……」



男:「いやあ、お前もすごいが彼女には遥かにおよばねえかもしれんなあ」



シモン:「…どこにいるんだ」



男M:釣れた釣れた



男:「最近街のバーでピアノを弾いてるぜ?まあたまにフラっと来るだけだが」



シモン:「約束を取り付けといてくれ。一週間後に行くと」



男:「あいよ~」



リリィ:「あなたがシモン・モンターレ?」



シモン:「ああ。どうも俺よりも上手いやつがいると聞いてな」



リリィ:「そうね。私も私より上手い人がいると聞いたの」



シモン and リリィ:「あいつから」「彼から」



男:「そ、そんな同時に俺のこと指ささなくても…」



リリィ:「じゃ、課題曲は彼に決めてもらいましょう?」



男:「え、俺?」



シモン:「そうしよう。ミロ、決めてくれ」



男:「お、俺あんまり知らねえんだけど」



シモン:「なんでもいい。ニュアンスでも構わん」



男:「そ、そうだなあ……あ、一つ思い出したぜ」



シモン:「なんだ」



リリィ:「なに?」



男:「たしか『』だっけかな」



シモン:「よし。最初は俺でいいか」



男:「待て待て。ちゃん2台用意してるぞ」



シモン:「そうか。調律はしてあるんだろうな」



男:「もちろんさ。プロにしてもらってる」



シモン:「まあ一応見るか……よし。いいだろう」



リリィ:「じゃあ、始めましょう」



シモン:「ああ」



~♪ ~♪



男M:す、すっげえ。この2人の演奏……なんでこんなに合うんだ



リリィ:「ふぅ……どう?」



シモン:「ハァ…ハァ…俺の方が……上だな」



リリィ:「なんですって!どうしてあなたの方が上なのよ」



シモン:「反対に聞くがどうして君の方が上なんだ」



リリィ:「あたりまえでしょう?誰が聞いても私の方が上よ」



男:「まあまあ、二人ともすごかったよ」



リリィ:「じゃああなたはどっちの方が上手だと思う?」



男:「え」



シモン:「どっちかといえば…どっちだ」



男:「そ、そうだなあ」



リリィ:「さあ」



シモン:「どっちだ」



男:「…二つが綺麗に合わさってて俺には聞き分けれなかったんだよなあ」



リリィ:「あら」



シモン:「ほう」



リリィ:「それじゃあ今日は引き分けにしましょう」



シモン:「いいだろう。明日決着をつけよう」



リリィ:「ええ。それじゃあね」



シモンM:最初はライバルだった。それがいつの間にか2人の時間が増えて…



リリィ:「女の子よ」



シモン:「そうか…よく頑張ったな」



リリィ:「私なら余裕よ。…私たちが育てていくのよね」



シモン:「そうだな。ありがたいことに金には困ってない。あとは」



リリィ:「私達の愛だけね……シモン。名前を付けて」



シモン:「俺がつけていいのか」



リリィ:「ええ。あなたの付けた名前なら私も文句は言わない」



シモン:「ソフィ。どうだ」



リコ:「ソフィ…フフッ」



シモン:「どうした」



リコ:「考えていることは同じね」



シモン:「そうか…」


------------------------------------------------------------------------------------------------


シモン:「…ソフィへ2人で愛を注いだ。…まあ、もうリリィはこの世にはいないが…」



リコ:「……リリィは幸せでしたか?」



シモン:「幸せだったと…願うだけだ」



リコ:「僕は15歳で家を飛び出してしまった。リリィ一人をおいて軍へと行ってしまったんだ。だから…心配で仕方なかった。心の底から懺悔し続けてきた」



シモン:「……」



リコ:「だが…あなたと会い、ソフィを産み、ピアノを弾いていた。これを聞いて少し安心したよ」



シモン:「…リリィは怒っているだろうな」



リコ:「どうして」



シモン:「…俺はリリィが亡くなった時、まだ10歳だったソフィを一人で立派に育てると誓った。…なのにな。つい一瞬かっとなって『出ていけ』と言ってしまった」



リコ:「そんなことが…」



シモン:「ああ。フッ…父親か。失格だな」



リコ:「ソフィはまだあなたを父親として見ているよ」



シモン:「ソフィが?気を使わなくていいさ。もう父親として見られるはずがない」



リコ:「ソフィはあなたのことを呼ぶとき、お父様と呼んでいるよ」



シモン:「……」



リコ:「…彼女はリリィを、母親を思い出してしまうからピアノが嫌いになったそうだ」



シモン:「…俺はソフィの気持ちを考えてなかった。たった1人必死になってたわけだ」



リコ:「……」



シモン:「リコ。俺はまだやり直せるか。図々しいことは分かっている。でも、やり直したい」



リコ:「ええ。やり直せますよ」


------------------------------------------------------------------------------------------------


リコ:「こういうわけだ。まあ、この後僕は気絶しちゃったわけだが」



シモン:「おいおい、人がいないところでそんな恥ずかしいことを話さないでくれ」



リコ:「ああ、すまない。でもこれでやりやすくなったろ?」



シモン:「そう、だな。…ソフィ。すまなかった」



ソフィ:「私こそごめんなさい。お父様のこと何も考えてなかった。ずっとわがままばかりで…」



シモン:「いいさ。娘の心を理解していなかった私が悪かった。もう一度。もう一度やり直させてくれないか」



ソフィ:「うん。もちろん」



リコM:良かった。これでもう。思い残す事も…な、い



バタッ(リコが倒れる)



ソフィ:「リコさん!」



シモン:「やはりまだ無事じゃなかったのか。すぐ医者を」



リコ:「ま、待ってくれシモン。医者は…無駄なんだ。もうどこからも見離されている」



シモン:「な。どういうことだ」



リコ:「今の今まで生きていたのが奇跡だったんだ。僕は…あの時…戦争で死んでたはずなんだ」



シモン:「戦争…」



リコ:「ずっと心臓に傷があるんだ。どうして今まで開かなかったのかわからないくらい大きな傷が。今でもハッキリと思い出せる。僕を庇った友達を貫いた槍は僕にまで貫通した。苦しみの中に目を覚ませば、みんなが囲んでいて…。それから色んな医者に診てもらったさ。でもどこもダメだった」



シモン:「ならば…」



リコ:「助からないよ。もう。必死に生にしがみ続けて15年。妹を思い出した。一人にしてしまった彼女を必死に捜して…ここに来た」



シモン:「……」



リコ:「そして君たちに会えた!僕は幸せも…ゲホッゲホッ」



ソフィ:「ダメ。せっかく会えたんだから。死んじゃだめ」



リコ:「フフッ…そう…だね。…少し…寝かせてくれ」



ソフィ:「死んじゃだめよ」



リコ:「ああ。…おやすみ」



シモン:「ソフィ。私は何か解決策をさがしてくる。頼めるか」



ソフィ:「はい。お父様」



シモン:「頼んだぞ」


------------------------------------------------------------------------------------------------


ソフィ:「ここに昼食。置いておきますね」



シモン:「ありがとう。…フフッ…なんだかんだ三日も生きられた。ソフィの看病のおかげかな」



ソフィ:「大丈夫。これからももっと長く生きられますよ」



シモン:「……そうだね」



ソフィ:「それじゃあ私洗濯物取り込んできます」



シモン:「……」



ソフィ:「…よし。これで全部。さ、畳まなきゃ。……何か聞こえる」



~♪



ソフィ:「ピアノ…?」



~♪



ソフィ:「まさか」



バンッ(勢い良くピアノの部屋のドアが開けられる)



ソフィ:「リコおじさん!だめよピアノなんて弾いてちゃ」



リコ:「……弾かせてくれソフィ」



ソフィ:「ダメです。まだご飯も満足に食べられないのに」



リコ:「分かるんだ。もう……限界が近いって。いや、とっくに限界は超えてたのかな」



ソフィ:「とりあえず手を止めましょう。大丈夫ですよ、まだ顔色も綺麗ですし」



リコ:「一緒に弾いてくれないか。連弾ってやつだよ」



ソフィ:「……分かりました」



リコ:「ありがとう」



ソフィM:いつまでも。いつまでも弾くから。いつまでも



ポロン ポロン  ポロ ン    ポン          ポン



ソフィ:「おじさん、手が止まってますよ」



リコ:「ああ、ごめんよ。でも……時間だ」



ソフィ:「時間ってなんのですか。ああ、そういえば昼食まだじゃありませんか?そのことですよね」



リコ:「リリィ。あと、あと一曲だけ。ダメかい?」



ソフィ:「リ、リィ?」



リコ:「ああ。今すぐそこにリリィがいるんだ。リリィが迎えに来てくれるなんてね」



ソフィ:「お母様?お母様!そこにいるならお願い。お願いだからおじさんを連れて行かないで!」



リリィ:「ソフィ」



ソフィ:「お母様、お願いだから」



リリィ:「ごめんなさい。ダメなの。私にはどうすることもできないのよ」



ソフィ:「そんな……そんな」



リリィ:「ソフィ。私はあなたが最後までピアノを一緒に弾き続けてくれて…とっても嬉しかった。幸せなまま天国へ行けた。だから。今、やることは分かるわね」



ソフィM:嫌だ。嫌だ。それをしてしまえばおじさんが連れていかれることを認めちゃう



リリィ:「ソフィ」



リコ:「…ソフィ。最後まで…弾いてくれないか。いっしょに」



ソフィ:「……うん。うん。私弾くよ。最後まで弾くよ」



リコ:「ありがとう」



~♪



リコ:「僕は、僕は本当に幸せ者だ。最後まで最愛の妹に導かれ、その娘であるソフィと共にピアノを弾き続けられた。……さよならだソフィ」



リリィ:「さあ、行きましょう。お兄様」



リコ:「ああ。…僕は天国へ行けるかいリリィ」



リリィ:「ええ。私が迎えに来たことがその証明よ」



リコ:「そうか…本当に…本当に……幸せ…だな……」



ソフィ:「私。最後までおじさんと弾けて幸せだった。幸せだったわ」



シモン:「リコ!宮殿の医者が診て………リ…コ」



ソフィ:「お父様。おじさん最後まで幸せだったよ。幸せ…だったよ」



シモン:「ソフィ…。そうか。幸せだったか」



ソフィ:「うん。…うん……」



ソフィ:「あああああああああ ああああああああああ ああああああああ」


------------------------------------------------------------------------------------------------

------------------------------------------------------------------------------------------------


キャロ:「フィリップ?フィリップ!起きてるの?」



フィリップ:「そんな大声で呼ばれなくても起きてるよ。どうしたんだい?」



キャロ:「ああ、ごめんなさい。どこにもいなかったから…」



フィリップ:「心配してくれたのか」



キャロ:「ええ。もうあなたがいない日々は耐えられないから」



フィリップ:「僕もだ」



キャロ:「……」



フィリップ:「……」



男:「お熱いところ申し訳ありませんが。遅れますよ」



フィリップ:「あ、ああ、すまない」



キャロ:「す、すぐ行くわ」



ガッチャ(2人が馬車に乗り込む)



キャロ:「楽しみね。演奏会」



フィリップ:「ああ。今回はソフィが主催だ。…僕まだ弾けるかな」



キャロ:「あなたならできるわ。さあ着いたわよ」



フィリップ:「ソフィが僕たちのために特別席を用意してくれたんだ。どうぞお姫様」



キャロ:「ありがとう。ミロ、あなたも来なさい」



男:「え?!し、しかし私のようなものが…」



キャロ:「いいじゃない。親友の演奏、最高の場所で聞きたいでしょ」



男:「聞きたい…です」



キャロ:「じゃあおいでなさいな。いいでしょフィリップ」



フィリップ:「ああ。…さ、はじまるよ」



~♪~♪

~♪~♪



フィリップ:「…キャロライン。気づいたかい」



キャロ:「ええ。あと二人、誰か弾いている…」



シモン:「リリィ、やっぱり俺の方がうまいな」



リリィ:「どうかしら?…でもソフィの方が何倍も上手ね」



シモン:「ああ。私たちの娘だからな」



ソフィ:「リコおじさん。こっちで連弾しよう?」



リコ:「ハハハ、さすがに現世のピアノにはさわれないよ」



ソフィ:「大丈夫。できるわ。ね、お母様。お父様。次はこれを弾きましょう?」



リリィ:「何を弾くの?」



ソフィ:じゃあねえ……『ラプソディー・イン・ブルー』を





Fin.

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