サブスクリプション彼女

朽木桜斎

第1話 デ、ア、イ

「彼女、欲しいな……」


 そんなことをつぶやきながら、俺は今夜もネットで恋愛マッチング・サイトのサーフィンに興じていた。


「婚活は結婚が前提だしな……とりあえず彼女が欲しいってのをかなえてくれるサービスって、以外にないんだよね……」


 ブラウザのウィンドウは検索ログで埋め尽くされている。


 いったいいつまでこんなことを続けにゃならんのだか。


「うーん、やっぱ物理的にリアルな世界で探すしかないってことか……おや?」


 これは?


 なんだかヘンテコなタイトルのサイトがあるぞ。


「サブスクリプション彼女……」


 どういうことだ?


 定額制で彼女とつきあえるサービスとか?


「どれどれ」


 ほうほう。


 どうやらそのとおりみたいだ。


 一か月につき千円ぽっきりで?


 お望みのタイプとマッチング?


 従量課金などのオプションはなし。


 パートナーとの同意があれば結婚までステップアップもできる。


 ほう、ほう……


「すごい、これはいいぞ……おお、これは……」


 なんと、一か月間の無料体験が可能!?


 すごいぞ!


 これはいい!


 なんてすばらしいサービスだ!


 どうしていままでこんないいものに気づかなかったんだ!?


 よし、善は急げだ!


「ワンクリックでサービス開始、と。これも簡単でいいねえ」


 お、申し込み画面が出てきたぞ。


「えーと、インフォメーションにしたがって好みのタイプを入力っと」


 ぱちぱち、かたかた。


「そして俺のパーソナルを入力ね」


 ぱちぱち、かたかた。


「よしっ。で、マッチングをクリック」


 弊社独自開発のAIが登録者情報からマッチング中です。


 一分程度お待ちください、か。


 なるほどなるほど。


 すごい時代になったもんだな。


 でも、機械に決めてもらうってのは、なんだかね。


「お」


 マッチングが終了いたしました。


 こちらの方でよろしければマッチングを完了いたします、か。


 どれどれ、どんな人なのかな?


「おお、こりゃすごい……」


 年齢はタメ。


 地元国立大学文学部を卒業後、大手出版社に就職。


 採用後は営業部に配属で現職。


 当然というか、パートナーはなし。


 こんな田舎としてはチートなスペックだ。


 それよりも何よりもこの容姿、うん、いい。


 黒髪、セミロング。


 目はパッチリしてて、明るい感じ。


 ヒマワリとか似合いそう。


 うむ、俺のタイプだ……


 それに出版社の営業部勤務ってのもいい。


 俺、趣味で小説とか書いてるし、もしかしたらプロに見てもらえるチャンスかも!?


 あれよかれよでデビューとかできちゃったりして!?


 さ、最高だ……


 よしっ、この人に決定!


 この人に決めるをクリックと。


「ふむふむ。なんと、さっそく日時と場所を指定してきたぞ。よしよし、入力入力っと」


 ぱちぱち、かたかた。


「おっしゃ。明日の日曜日、公園前で待ち合わせか。うーん、楽しみだなあ。俺もついに運が向いてきたかな!?」


 衣装は仕事で使ってるビジネス・カジュアルが無難だろう。


 朝九時に時間は指定したから、寝坊なんてできないぞ。


 よし、今日は風呂に入ってとっとと寝よう!


 ふふっ、なんだか楽しいなあ。


 こんな具合でドキドキワクワクしながら、俺はその日、床についたのである。

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