パラレルワールドの君に恋をした
りらるな
第1話 パラレルワールド
この世に瓜二つと同じ人間は存在してはいけない。それが自然の摂理として成り立っている。
しがない大学生が独りパソコンに向き合ってキーボートを打っていく。提出期限ギリギリのレポートを完成させる作業が精神をすり減らしていた。いつもは鬱陶しい無数に重なるカフェの戯言も今ではそれすらも耳には届かなかった。だが突如起きた「ガシャン」という何かが壊れる音は見逃せなかった。
砕けた皿やコップ。そのすぐ下の床には黒い液体が漏れている。
制服姿の若い女がその場に倒れていた。店員、きっとアルバイトのその子が運んだ商品を転んで落としてしまったのだろう。せかせかとゴミをちりとりに押し込み、すぐさまモップを取り出してきた。慌ただしいその姿を見ていて、動かさなければならない指は止まった。
客と見られる二人の女子学生がそこを通り過ぎようとしていた。ゆっくりと足を動かして、モップがかけられるそこを避けていく。
「ユアちゃん。気をつけてね」
後ろの一人が前の子を気にかけて声をかけた。それ自体、なんら不思議なことではない。だが、すぐ側にいたバイトの子が「はい?」と返事をした。元々、話しかけられるはずだった子は戸惑っていた。
「あっ、すいません。名前が同じだったものですから」
すぐに気づいたのか言い訳しながら顔を見上げる。
二人のユアが顔を鉢合わせる。その顔はまさに瓜二つであった。
周りが余計にうるさくなった。もしかしてドッペルゲンガーじゃないのか、そんな話題でカフェ内部は持ち切りだ。
突然、学生のユアの体が透け始めた。戸惑う間に透明度は高まっていく。
このまま死ぬのだろうと思ったが、彼女は「死にたくない!」と言いながら、もう一人のユアを押し出した。瞬く間に体は透けなくなったが、代わりに押された方は透明になった。そして、完全に透明となりバイトの子は姿形が見えなくなった。
「死んだか。お気の毒に──」
そんな言葉を投げかけるだけという薄情な態度をとっていた。
消滅のトリガーは誰かにドッペルゲンガーの存在を知られた時。瓜二つの相手でも、そうじゃない第三者の人間でも、疑いかけられた瞬間に消滅しかける。その間に、瓜二つの相手に触れれば消滅状態を押し付けることができる。「この世に瓜二つと同じ人間は存在してはいけない」という自然の摂理を維持するためなのか、様々な説はあるが、この現象の仕組みは未だに分かっていない。
そんな現象がもう一年半は続いている。この光景に見慣れてしまっているのか、再びキーボートに触れ始めた。
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