今田の「高いパン屋に46日連続で通う人」
@1mada
初日、そしてまえがき
パン屋があった
まず、そこにパン屋がありました。
晴れていたのかも雨だったのかもわからない、記憶のはるか向こうに過ぎ去ってしまったその日。間違いなくたしかなのは、わたしの前にパン屋があったことだけでした。店の中にはさまざまなパンが並び、どれもとてもおいしそうで、昼休み中のわたしはそれらをいままさに食べているかのように熱っぽく見つめ、ふたつほどをトレーに乗せました。
いや高いなおい。
いや高いなおい。
会計時に二度見でそう気づいたときにはもう、引き返せないところまで来ていました。一度レジを通ったパンを陳列しなおすことはできません。予定外の大出費。わたしは肩を落とし、残り少ない昼休みの時間、オフィスの片隅でひとり寂しくその高いパンをかじりました。そのときです。
いやうまいなおい。
いやうまいなおい。
いやうまいなおい。
三度見するほどうまいパンがあることを、わたしはそのときはじめて知りました。家に帰り、その店のレジ袋(なぜかかばんに入れて持って帰ってしまった)を見て、いやうまかったなおい、と四度見までしてしまったくらいです。
でも、そのときはまだ、その高いパン屋に連日通うことになるとは思ってもいませんでした。振り返ってみて、当時のわたしの安月給とその店のパンの値段は釣り合うものではありませんでしたし、なんなら月給はいまのほうが安いのですから、この文章を書いている場合ではないのです。冗談とかじゃなくて。まじで。いやまじで。もっと金になることをいますぐにでもやらなきゃいけないのです。いやまじでまじで。まじのやつで。
はじめに急いで言っておくと、このお話はほとんどフィクションです。ぜんぶフィクションと言ってしまってもいいくらいフィクションではあるのですが、まあフィクションと現実が9:1くらいというか、たしかあれですよね、聖書とかホームレス中学生とかもそのくらいですよね?
じゃあ現実の1はどのあたりかというと、恐ろしいことに、毎日通っていた、という部分がそれにあたります。毎日同じ高いパン屋に通って毎日おかしな額を使っていたという部分です。ほんとに恐ろしい話ですよね。で、もっと恐ろしいのが、当時よりいまのほうがお金がない。ぜんぜんない!ということですね。いやまじで。まじのやつで。
お金がない。
ほんとに大切なことは一度見でじゅうぶんですよね。以上でなにもかもすべておわりですのでそれではよろしくお願いします。スポーツドリンクのようにごくごく読んでね。
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