第44話
「――――まあ、当たらんよな」
ジャスパーの近くにいるアイリスに当たらないように銃口を明後日の方に向けたのだ。当たるわけがない。と、トキヤは苦笑した。
「……な、なんだ貴様は……? まさか、貴様がさっきまでの通信の……」
鋼の獅子の装備である大型ブースターの中から何かが出てきたことに気がついたジャスパーがそちらに視線を向けると、小さな拳銃を片手に持った、頭から血を流している弱々しい存在を見つけ、ジャスパーは戦慄した。
それが、先程までドローン越しに会話をしていた存在、つまり人間であるということを理解したのだ。
「き、貴様は人間だろう? 何故JDの戦場に現れる?」
「ん? さっき言っただろ。俺の数少ない仲間達を失いたくないから、助けに来たんだ」
さあ、それじゃあ、戦おうか。と、トキヤは頭から血を流しながら、銃を構えた。
「はあ!? 貴様、狂っているのか……!? おい、獅子に乗ってた貴様! 何故、戦場に人間を連れてきた! 自分なら絶対にパートナーをこんな危険な場所に連れてこないぞ!?」
「ああ、ちなみにジャスパー。お前が掴んでるそいつも人間だからな」
――――は? と、一瞬、ジャスパーは馬鹿みたいな顔をし、それから、手に持つアイリスを丹念に調べ、その事実に気付き。
「……逃げ遅れた人間がいるのならまだしも、勇んでJDの戦場に来る人間だと……? な、なんだ、何なんだお前達は……!!」
ジャスパーは、アイリスを放し、理解できないと絶叫した。
「い、命に価値はないと、なら、本当に愛に価値が、いや、いやいや! 駄目だ駄目だ! おかしいおかしい! それでは自分やパートナーがいる意味が……! ああ、まずはライリス内で他のネイティブに、いや、ブルーレース以外の言葉もまた……」
そして、ジャスパーは発狂したかのように叫び続け――――
ジャスパーが操る、ディフューザー全てに異常が見られた。
「……」
……ようやく、か。
トキヤ考案のネイティブ惑乱作戦がやっと効いたのかジャスパーが自分が入っているライリス内に意識を向けたせいなのかまではわからなかったが、トキヤでもわかるほど、ディフューザーが、明らかにぐらついたのだ。
そして、それを見逃す、エースクラスのJDは存在しない。
「――――」
トキヤが命を危険に晒してまで掴み取った好機をシオンが見逃すはずもなく、シオンは自分を取り囲んでいたディフューザーの挙動がおかしくなった瞬間に
シオンが構築した武器とはシオン専用の武装、プロキシランス・アルターを数十個使用して作られる特殊武装である。
通常、プロキシランス・アルターは小さな光の槍を発射する武装だが、組み合わせて使用すると、巨大な光の槍として扱うことができる。
そして、この形態の最大の特徴は、シオンがその巨大な槍を持ったまま、稲妻のような速度で敵に攻撃を加えることができるというものだ。
巨大になったことで純粋に出力が上がり、更に、シオンが手に持ちコントロールするため、敵が回避や防御をしたときにも対応することが出来る。
だが、これを普段の戦闘で使わないのにはそれ相応の理由がある。デメリットが存在するからだ。
プロキシランス・アルターの、そのあまりの速度にシオンの身体が耐えきれないのだ。
巨大な槍を持つ手は確実に使い物にならなくなり、敵を貫く際にもう片方の手を添えればその手も破損し、飛んでいる最中に大地を蹴って進む向きを変えた場合には脚が砕ける。
つまり、この攻撃を使用すれば、ほぼ確実に四肢が駄目になり、修理をするまで戦闘を行うことができなくなるのだ。
故に、戦闘中にこの攻撃を行うことは自殺行為に等しく、シオンは戦闘訓練で試した後、禁忌の技として封印していた。
だが、トキヤが命をかけて作ってくれたこのチャンスに応えるために。
そして、この強敵との決着さえ付けてしまえば、頼りになる仲間達が自分も含め全員を無事に帰還させてくれると確信し。
シオンは一切の迷いなく。
「――――これで終わりです」
終局の言葉を口にし。
「――――」
シオンは稲妻と化した。
「――――!」
その閃光は、ディフューザーが通常通りの稼働をしていても、止められる可能性は半々であっただろう。そんな攻撃を機能不全を起こしているディフューザーが止められるわけもなく。
紫に輝く、その一閃は。
「――――」
ジャスパーに最期を理解させることもなく、その身体を灼き尽くした。
敵ネイティブ、ジャスパーの破壊を確認後、アイリス、シオン、トキヤの三名は敵前線基地より一時撤退。
その後、装備を通常のものに変更したカロンが、サンとバルの援護に向かい、残っていたダーティネイキッドを掃討し、敵前線基地の制圧を完了した。
この日、トキヤは、敵前線基地攻略作戦を一人の死者も出すことなく成し遂げたのだ。
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