第42話
それは銃による狙撃の領域を遙かに超える、光の奔流だった。
その一撃を放ったのは、レタが首都で開発している兵器の機構を一部取り込んだ、カロンの新装備。レタがリアルタイムで調整をしなければ発射することすらできないが、その威力は絶大であり、その射線上にあるものはどんな物体であろうとも蒸発する。
――――筈だった。
カロンは最高の仕事をした。シオンからの観測データを元に、誰も巻き込まずにジャスパーだけを撃ち抜いたのだから。
だが、光の奔流が消えた後、そこには――――
「……そちらにも良い技術者がいるようだ」
黄金の装甲を輝かす、無傷のジャスパーがいた。
否、正確にいえば、無傷のジャスパーと、新たに現れた八つのディフューザーがそこにあったのだ。
光の奔流にジャスパーが呑まれる直前に、施設の床をぶち破り、新しいディフューザーが八つ現れ、それらが盾となりジャスパーの身を守ったのだ。
だが、流石にディフューザーの方は無傷とはいかず、新しいディフューザーのうち、四つは溶解し、二つは機能不全を起こしてその場に落ち、今も宙に浮いているものは二つしか無かった。
そんな己が装備の散々たる状態を見て、ジャスパーは。
「今の攻撃――――何発も撃たれたら厄介だ」
この時初めて、シオン達を脅威であると認識した。
「――――」
そして、ジャスパーは獣のような鋭い眼光を放ちながら、行動を開始した。
ジャスパーは各個撃破を狙い、敵の中で一番の格下と判断したバルから始末しようとその身一つでバルに接近した。
「このっ、ナメてくれちゃって……!」
そして、バルは、ディフューザーを側に置かずに接近してくるジャスパーの頭部に向かって、勢いよくバールのようなものを振り下ろしたが。
「――――」
ジャスパーはその攻撃を余裕を持って回避し。
「――――なっ!?」
ジャスパーの巨大な右手が、バルの腕を掴んだ。
……これマズい……!!
「……っ!!」
腕を掴まれた瞬間に己の死を予感したバルは、躊躇うことなくジャスパーに掴まれた左腕を切り離し、ジャスパーから距離を取った。
「――――って」
……何あれ!? 馬鹿力とかそんな領域の力じゃないっ……!!
そして、ジャスパーから逃げる間に、切り離した自分の左腕がジャスパーに軽く握られただけで粉々になる光景を目にし、バルが驚愕していると。
……えっ、壁!?
バルは自分の背が何かにぶつかった感触を得た。何もない空間だったはず、とバルは疑問に思いながらも、横に避けようとしたが。
「え、動かな――――」
その時、バルはようやく気がついた。自分は壁にぶつかったのではなく。
「ディフューザー……!」
ジャスパーの操るディフューザーが巻き付いて自分の身体を拘束しているという事実に。
「――――バル……!」
シオンの悲痛な叫びが部屋全体に響き渡る。シオンは先程からバルの援護に向かおうとしているのだが、シオンの周りには常にディフューザーが五つも漂っており、それらを超えてバルのもとにまで辿り着けずにいた。
「このっ、離せっ……!」
そして、バルはディフューザーの拘束から逃れるために足掻き続けるが。
「――――ぁ」
バルは、自分を終わらせる構えを見た。
バルの目と鼻の先でジャスパーが拳を握った。
そして、その拳が自分の
その時。
『――――ルアアアアアアアアアアアア……!』
獅子の咆哮が闇夜に轟いた。
大型のブースターから推進剤の煌めきを零しながら、カロンの射撃で穴の開いた壁を砕き、アイリスが操縦する鋼の獅子が部屋へと突入した。
最初、ジャスパーは鋼の獅子に見向きもせず、カロンの狙撃を受けても無事だったディフューザーで鋼の獅子の突進を止めようとしたが。
『ウアアアアアアアア……!』
その二つのディフューザーもカロンの狙撃によって基部に僅かではあったがダメージを負っており、通常の出力に至らなかった二つのディフューザーは、鋼の獅子にはじき飛ばされ。
「何……!?」
鋼の獅子は、拳を構えていたジャスパーに真横から突っ込み、ジャスパーごと壁に激突した。
「……――――って」
そして、アイリスのおかげで一旦は命の危機を脱したバルは、僅かな間、呆けてしまっていたがすぐに我に返り、バールのようなもので自分に巻き付いているディフューザーを攻撃し、拘束が僅かに緩んだ隙に、何とか脱出することに成功した。
「……っ」
そして、拘束されていただけだというのに、身体中に損傷を感じながらも、バルはシオンの側に着地し。
「シオン、バルは次に何をすれば良い……!?」
バルはシオンに指示を仰ぎ、五つのディフューザーと対峙しながらも、シオンは一瞬だけバルに視線を向け、それから。
「バルは――――退避してください」
シオンは、バルに逃げろと命令した。
「なっ!? バルはまだ……!」
戦える。と、言おうとしたバルであったが、自身の身体を見下ろし、全身に損傷があり、その上、左腕がなく、拘束から無理矢理脱出した際に右足首がいかれてしまったこの状態では、と考え直し。
「……今のバルでは足手まとい、か」
バルは自分がいない方がシオン達も戦いやすいと判断し、退避することを決めた。
「けど、こんな状態でも有象無象の相手は十分にできますから、バルはサンの援護に向かいますね」
「ええ、サンのことをよろしく頼みます。バル」
そして、この場からの退避を決めたバルは、推進剤がなくなったのか大型ブースターを切り離し、ジャスパーと力比べをしている鋼の獅子の方を一瞬だけ見てから。
「――――頼みましたからね! シオン!」
そう叫んで、バルはサンのもとへと一目散に駆けだした。
「もちろん。……と、強く肯定したいところですが」
六つに増えたディフューザーに拘束されず、鋼の獅子の援護をするのは中々に難しい。と、シオンが、行く手を遮る大量のディフューザーを睨みつけていると。
『――――悪い、少し眠っていたみたいだ』
唐突に、シオンの耳元でトキヤの声が響いた。
「……トキヤ様」
シオンのすぐ側に浮いている物体。それはカロンの射撃前後から暫くの間見掛けていなかったトキヤが動かしている超小型ドローンだった。そのドローンのスピーカーからトキヤはシオンに謝罪し。
『アイリスは俺に任せろ。……その後は、シオン。お前が決めてくれ』
朦朧としているのか、少し呂律が回っていなかったが、トキヤはシオンに最後の指示を出すと、トキヤが操るドローンが動き出したが、ジャスパーはドローンを脅威と捉えていないらしく、ディフューザーに妨害されることなく、ドローンは鋼の獅子へとゆっくりと近づいていった。
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