失恋更生委員会

杜侍音

プロローグ

プロローグ



「──しつこい」


 あれは、決死の告白だった。

 人は自分の気持ちに気付き、想いを募らせて、そして溢れんばかりの気持ちを相手にぶつける。想いを隠すことなく白状するんだ。

 私は君に恋していると告げる。



「──今でも変わらずあなたのことが好きです! 僕と付き合ってください!」


 今、目の前で行われているこの告白劇も、あの時の俺と同じように決意して、そこに立っているんだろう。

 今すぐに逃げ出したいが、それはできない。告白の返事を聞くべきだからだ。

 この瞬間は誰もが緊張し、期待し、死にたくなって消えたくなる。

 けれども、望む言葉が聞けるまで、人は押しつぶされそうになりながらも黙って待つしかないのだ。


 ──だが、最初に言った。決死だと。



  死ぬのは決まっている。



「ごめんなさい。やっぱりタイプじゃないです」

「ガーン‼︎」


 告白が実ることは少ない。大体は砕けるか、なぁなぁで付き合ってもそののちすぐに別れるかのどちらか。

 真実の愛を見つけるなど、海水の中で淡水を掬い上げるようなもの。おい、絶対無理だろ。

 ほとんどの選ばれない人間共は、好きな人が別の奴と付き合う悪夢にうなされ、どこまで進んでしまっているのかを想像して、涙を肴に泥水をすする。



「──フラれたな」

「だね。七海ななみくん。さぁ、ワタシたちの出番だっ! いっくよぉー!」


 校舎裏で繰り広げられていたこの告白を見届けた俺たちは彼女が去ったのを見計らい、隠れていた草陰から颯爽と飛び出した。


「な、なんだよお前ら⁉ もしかして見てたのか⁉︎」


 突如として現れた俺たちに気付いた男子生徒は、腰が抜けそうになっていた。

 そりゃ驚くよな、もマジで驚いたもん。


「ワタシたちは! 〝失恋更生委員会しつれんこうせいいいんかい〟‼︎ 失恋した者を応援する組織であーる!」


 俺の斜め前に立っているちんちくりんの少女は、ふんぞり返りながらそう言った。

 男子生徒は唖然としている。同情するよ……最初見たとき顎外れたからな、こいつが何言ってんのか分からなさ過ぎて……。


「というわけで〜! 失恋更生三三七拍子‼︎ せーの!」

「「ド・ン・マイ。ド・ン・マイ。フ・ラ・れ・て・ド・ン・マイ」」


 いや恥っず! クオリティ低っ! 小学生の方がもっとマシな替え歌するよ⁉︎

 それでも、そんなことを気にもせず、彼女は元気に自信たっぷりに応援した。

 俺も身長ほどある旗を持って、精一杯上下運動させた。


「さぁ! 失恋更生したキミも、これからワタシたちと一緒に失恋更生委員会で迷った仔羊たちを失恋更生させよー! っていない‼︎」


 彼は最初からそこにいなかったかのように、跡形もなく綺麗さっぱりに消えていた。

 ただただ俺たちの出来の酷い応援歌だけが、むなしく響き渡っていただけだった。


「ドの時には消えてたけどな」

「どのド⁉︎ どのドだった⁉︎」


 目下でピョンピョンしながら詰め寄ってくる彼女。気付いてなかったのか、よ、ちょっ……「えぇい、鬱陶しい‼︎」


「もう〜七海くんは旗持ちなんだから、ちゃんと止めておいてよねー」

「旗持ちがどう止めろと」

「殴るとか」

「鈍器扱いかよこの旗! こえーよ!」


 バイオレンスなことをぶっこむなよ、このロリ!


「さぁてと七海くん! まだまだ失恋の匂いがするよ! 次も失恋を更生しに行こうっ‼︎」


「わー!」とあいつは突っ走って行った。


〝失恋更生委員会〟──何でこんな訳わかんない団体に入ってしまったのか。

 それはなんと、たったの二日前に遡る。

 旗持ちこと俺、七海ななみ周一しゅういちが一世一代の告白をしてフラれた時に、騒がしい彼女──日向ひむかい日向ひなたに出逢ってしまったのだ。

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