支援術師は追放されました。なぜか? そ・れ・は……
魔王を倒すため、日夜戦う勇者一行。
しかし、そんな彼らに激震が走った。
「支援術師、あなたを追放します。これは決定事項です」
「そ、そんな! 聖女様!? 嘘ですよね!?」
切欠は、加入した聖女の一言であった。
彼女は本格的に魔王城攻略へ踏み出した勇者一行の戦力増強のために、教会より派遣された。
彼女がひとたび、神に祈りを捧げれば、勇者たちの肉体に力が漲り、傷は癒え、潜在能力が開花する。
正直に言って、自分の支援術など彼女の足元にも及ばない。
それでも、自分なりに、精一杯仲間の為に働いてきた。
夜遅くまで起きて、新たな支援術を開発し、薬効に優れたポーションを製造し、みんなの満足する料理を作った。
しかし、現実は残酷だった。
どんなに努力しても、どんなに想いを込めても、真に才ある者には敵わない。
その結果が、この非常な現実だった。
「くっ……! 僕が役立たずだから……」
頭を抱え、絶望する支援術師。だが……
「いや、全然、そんなことありませんけど?」
驚いたことに、それを否定したのは追放を宣言した当の聖女であった。
「な、なにを言ってるんですか!? 僕が支援術師として未熟だから、追放するんじゃないんですか!?」
「いいえ。あなたの支援は、ちゃんと役に立ってます。そもそも、そうでなければ、魔王討伐のメンバーには入れません」
「で・す・が」と聖女は困ったような表情で、支援術師の追放理由を告げた。
「あなたは、最近、迷走気味でパーティーに悪影響を与えています。故に一度追放し、心の静養を受けた上で、再加入していただくことになります」
「な!? 悪影響!?」
それは聞き捨てならないと、声を荒げる支援術師。
自分の力不足は認めるが、そこまで悪し様に言われては黙ってなどいられない。
「いったい、なにを根拠にそんな言いがかりを……!」
「言いがかりじゃないんですよね……」
聖女は支援術師に落ち着くように言い、一つずつ問題点を上げていく。
「ではまず、日々の食事関連ですが……」
「みんな『おいしい、おいしい』言ってくれてるじゃないですか!?」
「えぇ、あなたの食事は私もおいしいと思ってます。ですが、それにより武闘家さんに悪影響が出ています」
「な、なんだってー!?」
「まぁ、見てもらうと分かるんですけど今、武闘家さん、こんなんです」
聖女の呼びかけに応じて、武闘家が部屋の中に入ってきた。
「ごっつぁんです‼」
「……ね?」
入ってきたのは、支援術師の料理により、恰幅の良くなった武闘家であった。
体重は百キロを上回り、鉢巻と道着を脱ぎ捨て、代わりにまわしを装備し、髷を結っている。
早い話がお相撲さんです。
「力士になってんじゃん。ファイトスタイル変わってんじゃん」
「ごっつぁんです‼」
いや、お相撲さんも広義では武闘家であることには変わりはないが。
それでも絵面がおかしすぎる。
「これも、あなたが武闘家さんの食事管理が出来てなかった証拠です。おかげで、国と武闘家さんの所属していた道場からクレームが来ましたよ?」
「ごっつぁんです‼」
「だって、美味しそうに食べてくれるから、つい……」
「ごっつぁんです‼」
「つい、じゃダメでしょ? 見てくださいよ。前は格闘ゲームの主役みたいだったのに、今じゃ、色物になってんですよ? 私いやですよ? 魔王とがっぷり四つ組み合う最終決戦なんて!」
「ごっつぁんです‼」
「ちょっと静かにしてもらっていいですか!?」
退室を促された武闘家。
これから、彼は四股の稽古に移るらしい。
もう完全に力士の道を歩んでる。
「で、もう一つ。あなたの創る、このポーションなんですが……」
「こ、このポーションは、僕の自信作です‼ 効果だって市販のものよりもはるかに優れてます‼ それは聖女さんも認めてくれたじゃないですか‼」
「そうですね……ですが、それにより、賢者さんに悪影響が見受けられました」
そう言うと、今度は賢者が入室してきたのだが……
「はぁ……はぁ……ポーション……ポーションをくれぇ……」
「……これ、依存症なくね?」
賢者の趣が全く感じられないほどにやつれ、目の焦点が合っていない。
明らかに何らかの中毒症状が見られるのだが……
「で、でも成分の安全性は教会も認めてくださったじゃないですか」
「! ポーション! ポーションじゃねぇかぁ‼」
「そうなんですよね。賢者様の所属していた魔法教会も首を傾げてましたよ? 新種のうま味成分しか入ってないって」
「くぅぅぅぅぅ! キクぜぇぇぇぇぇ‼ ぶっ飛ぶぅぅぅぅぅ‼」
「子供でも飲みやすく病みつきにならないように、試行錯誤を重ねて作ったんですけど……」
「ひゃっはぁぁぁぁぁ‼ ぶっ飛ぶぜぇぇぇぇぇ‼」
「いや、これ病みつきすぎでしょう。もう、発売禁止レベルですよ? 人体に影響が全く見られないのが奇跡レベルで」
「キクぅぅぅぅぅ‼」
「うるさいな! 出てけ‼」
ハイになり奇声を上げる賢者を追い出す聖女。
いや、本当にコイツ大丈夫なの?
「……本当にアレ中毒性ないんですよね?」
「すいません……自信なくなってきました……」
「今度、本格的に調査してみます」
流石にヤバいと感じたのか、素直に非を認める支援術師。
幸い、被害者が賢者一人なので隠蔽は容易である。
いや、ダメだけどね?
「で、最後に勇者様ですが……」
「はい……」
最早、疲れ切った表情を浮かべる聖女。
流石に指摘されたことで、現状のヤバさを理解したのか、しおらしくなる支援術師。
本人も反省しているようだが、しかし、立場上言わなければいけないので、覚悟を決めて勇者を招き入れる……
「オッス! オラ、勇ry……」
「はい、アウトぉ!」
入ってきたのは、黄金の気を纏い、髪の毛が金髪になり逆立った勇者であった。
どうやら、支援術師のバフを受けてこうなったようである。
変化は髪の毛以外にも起こっており、肉体は鮮やかな緑色に変色し、全身の筋肉は膨張。
瞳孔も渦巻き模様みたいになって、なんかかなりヤバい。色んな意味でヤバい。虚無りそう。
「もうこれ、外見どころか存在からしてアウトですよ? なにこのヤバイキメラ主人公? 断じて勇者じゃないですよ!?」
「うぉぉぉぉぉ!」
「魔王は強敵だから、ありたっけの強化をしておかないと――」
「はぁぁぁぁぁ!」
「ありったけすぎでしょ。どんだけ強化してんですか?」
「ごぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「やかましいわ‼」
これ以上放っておくと魔王や神以上存在の手によって、この作品が消えてなくなりかねない。いや、マジで。
勇者には退場していただき、改めて聖女は支援術師に追放宣言。
「――と言う訳で、追放です。しばらく、静養してから、もう一度お力をお貸しください。いや、本当にお願いします」
「はい、すいませんでした……」
「あなたの責任感の強さは認めますが、なんでもかんでも詰め込み過ぎると、こうなりますので、気をつけてください」
「はい」
こうして、支援術師は追放(と言う名の静養)となった。
後日、カウンセリングにより無事復帰し、手加減を覚えた支援術師と共に魔王を討伐(決まり手・上手投げ)したが、それはまた別の話。
教訓:何事も詰め込み過ぎ、抱え過ぎはよくないので、心に余裕を持ちましょう。
◆登場人物◆
・支援術師 レベル3億4200万
責任感と真面目さから、やらかした人。能力は高いが、いまいち自己評価が低い勘違い系主人公。魔王討伐後、勇者学校の教師になったが、またやらかして、勇者曼荼羅を生み出してしまう。
・聖女 レベル8千400万 スリーサイズ:98/62/99
教会の秘蔵っ子。割とやらかす勇者一行をまとめる苦労人。
魔王討伐後は「この人は私がいないとやらかすから」と言う理由で、支援術師と結婚。
後に勇者曼荼羅との戦いがあることを、彼女は知らない。
・勇者 レベル:2億8100万
色々あってスパーキングした人。勇者曼荼羅との戦いで消息不明になったり、勇者の意思に導かれたりして伝説の勇者神になったりする。
・賢者 レベル:1億4000万
結局、あのポーションの依存症はハッピーなお菓子の粉と同じ成分だったのが原因らしい。
・武闘家→力士 レベル:9900万(転職によるリセット込み)
魔王討伐の功労者。ごっちゃんです‼
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