第355話『身二舞鵜須組』関谷
狭山のおじきが営む喫茶店でコーヒーを飲みながらタバコを吸う住友。
「狭山のおじき。お手間取らせてすいませんでした。それにしても」
「ふん。もうすぐ時間じゃ。来る頃やろう」
「どなたが来るんですか?」
「愛子ちゃん。わしの昔からの兄弟じゃ」
「え?狭山さんの兄弟ってことはそっち関係の方ですか?」
「まあ。のお」
店の扉が開く。
「おお。狭山の。久しぶりやのお。ここが言うてたあんたの店か。随分ちいせえというか。まあ喫茶店ならそっちの方がええ」
「ふん。ちいせえは余計じゃ。電話でもアレやが久しぶりに会ってもお前さんも変わらんのお。余計なところも変わっとらん」
「ほっほっほ。関谷よ。こっちが話した俺の兄弟分の狭山や」
「どうもお初にお目にかかります。関谷と申します」
「『身二舞鵜須組』の初代を務めとる。なかなかの漢や」
立ち上がり狭山の隣へ移動した住友も頭を下げる。
「近藤さん、関谷さん。今日は遠路はるばるお足を運んでいただきありがとうございます。私は『肉球会』の若者頭を務めさせていただいております住友と申します。よろしくお願いします」
「あんたが住友さんかい。話はこの狭山の兄弟から大筋聞いとります。そんなかしこまらんでください」
「いえ。そういうわけには」
「ま、ま。ここは喫茶店ですよ。自慢のコーヒーを頂きましょう。関谷。ええな」
「はい」
そして住友が座っていたテーブルへ移動する狭山以外の三人。テーブルの灰皿は愛子がすでに片付けている。
狭山と近藤は古くからの兄弟分であった。収監された刑務所で意気投合し組とは関係なく五分の盃を交わした仲である。近藤の今の『血湯血湯会』での役職は相談役である。組の功労者として組織内でも強い発言権を持つ。
「狭いテーブルじゃの。とりあえず注文しましょう。私はお勧めのコーヒーを。住友さんは」
「同じものを頂きます」
「関谷は」
「相談役と同じものを頂きます」
テーブルの傍で注文を待っていた愛子がオーダーを受ける。そして新しい灰皿をテーブルに置く。さすがに住友もタバコを出さない。
「それでは当事者同士で話してもらえますか。狭山の兄弟からも住友さんからこの場を設けて欲しいと聞いとります。場所に関しては私の一存で勝手に決めさせてもらいましたが。兄弟の淹れるコーヒーを前から飲んでみたいと思うてましたんで」
「ご配慮ありがとうございます。それでは話させていただきます。その前に近藤さんと関谷さんには改めて今日のお時間を作っていただいたことにお礼申し上げます。またお足を運んでくださったことにも深く感謝申し上げます。お話はウチと『蜜気魔薄組』との小さい小競り合いから始まったことです」
「住友さん。俺も大筋の話は聞いとりますわ。確かに『蜜気魔薄組』の伊勢には俺の盃降ろしてますよ。今時義理もぎょうさん入れてくれとりますわ。随分親孝行な出来た子ですわ」
「それは関谷さんの教えがしっかりと行き届いていることなのでしょう。ウチの若い衆たちにもよお見習うよう聞かせます。それで結論から先に言います。この小さな小競り合いが『身二舞鵜須組』さん、そして『土名琉度組』さん、『血湯血湯会』さんにまで飛び火する勢いで大きくなっているということです。もっと言うならそのように絵を描いてるものが後ろにいるということです」
「ほお…。絵を描いてるものとは具体的に誰ぞですか」
運ばれてきたコーヒーを黙って嗜む近藤。会話は住友と関谷の二人で進める。
「半グレ組織『模索模索』の頭である間宮という人間です」
「半グレ。たかが半グレがそんな大胆な絵を描きますか。ウチがケツ持ってる半グレもいますが所詮子供。間宮ですか。特定出来てるなら話は早いやろ。とっ掴まえてキャン言わせて終わるんちゃいますか」
「その『模索模索』はもともと『蜜気魔薄組』の先代若林さんが動かしてた連中です」
「なんや。そりゃあ身内のことは身内で処理せえっちゅうことかいな」
「いいえ。そうは言いません。そもそもそれぐらいの話でしたら近藤さんや関谷さんに貴重なお時間を割いていただくまでもありません」
「聞こうか」
「ありがとうございます。現時点でその半グレ、間宮ってのはそちらの若者頭を務めてらっしゃる小泉さんまで食い込んでいるということです」
「ちょっと待ってくれや。ウチの小泉がその半グレに取り込まれとるっちゅうんか」
「はい。そうです」
「そりゃあ裏がとれてるんやろうな」
「もちろんです。確実な裏がとれていないのにこんなことは口に出来ないでしょう。近藤さんや関谷さんの前でなら尚更です」
「ちっ、小泉の野郎ぉ…。住友さん。もっと詳しく聞かせてもらおうか」
「ええ。今日はそのつもりでお時間を頂きました。ここからは順を追って説明します」
ここで近藤が口を開く。
「お二人とも。せっかくの兄弟が淹れてくれた美味いコーヒーが冷めますよ。いったん休憩です。飲みましょう。住友さん。タバコは」
「いえ、大丈夫です」
嵐の前の静けさ。暫しの時間、狭山の淹れたコーヒーを堪能する三人。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます