第153話全組チューバーが泣いた!

「田所のあんさん」


「はいな。飯塚ちゃん。どうしました」


「田所のあんさんはこれまで僕とかなりユーチューブの勉強をしてきたじゃないですか」


「そっすね。動画編集や動画撮影とかいろいろ教わりましたね。感謝の言葉もないっすよ。『しぇしぇ』っすね」


 え?と思う飯塚。『謝謝』のこと?とも思う飯塚。


「それで実際に『ユーチューブ』の動画を見てて『これ面白いなあ』と思う動画とかありましたか?」


「あ、視聴者としてですね。見てますよ。面白いと思ったもの…、うーん。ちょっとパッとは思いつかないっすね」


「そうなんですか?」


「ええ。やっぱり似たようなのが多いって印象っすね。あ!そう言えばボロボロ泣いた動画がありましたっす!」


 え!?田所のあんさんがボロボロ泣いた?それは何の動画だろう?と思う飯塚。


「え?田所のあんさんが号泣する動画があったんですか!?」


「ええ、昔のアメリカの映画で『ふぁみりー』って映画なんすよ。これは飯塚ちゃんにもお勧めっすよ!絶対見た方がいいっすよ!何回見ても泣きますから!」


 そう言って自分のパソコンに『ふぁみりー』の動画を再生させる田所。そこから約一時間半の映画観賞会が始まる。


~一時間半後~


「た、た、田所のあんさん…。これは…、泣きますよぉ…。しくしく」


「お母さんが残された時間の中で我が子全員の里親を探せてよかったっす…。でも…、でも…、あの旦那さんも…。うおおおおおおおおおおおお!切ねえ!切ねえ!」


 そう言いながらハンカチどころかバスタオルで涙を拭き拭きする田所と飯塚。


「でも…、田所のあんさん…」


「ね?泣けるでしょ?うっうっ…」


「いや…、泣けますが…。しくしく…。これは『違法アップロード』でダメなことなんです」


「え?」


「この映画を作った人に許可を取ってたらいいと思いますがこれってアメリカの映画ですよね。日本語の字幕も入ってるので動画をあげたのは日本の方かと」


「え?じゃあ…、この動画の収益は…」


「そうです。無断でアップロードした方に入るんじゃないでしょうか」


「俺や飯塚ちゃんの涙は…?」


「まあCMも入れてませんし、金銭は発生してるのかな?」


「そう言う問題じゃありませんよお!自分の涙は安くねえっす!再生回数を稼ぐために…こんな『違法』なことを…。ちくしょおおおおおおおおおおおお!涙を返せえええええええ!この野郎ぉ!!!」


 涙って返すものなの?と思う飯塚。と、同時に、気持ちは分かります!と思う飯塚。


「他には面白いものありましたか?」


「俺の涙を…。ぶつぶつ、ぶつぶつ、どっとこむ」


 これは相当怒ってるなあと思う飯塚。


「田所のあんさん。気持ちを切り替えましょう。面白かった動画です」


「あ、すいません。そっすねえ。やっぱり昔のドラマとかバラエティーとか『よくこんなの残ってたなあ』って動画っすかねえ。あと好きだったミュージシャンの動画とかっすかねえ」


 ああ…、全部『グレー』なものばかりだ…と思う飯塚。


「そうなんですか?」


「ええ。『帰るっぴー!』とか『たけしずきゃっする』とか最高っすよ!」


 田所のあんさんに説明できない…と思う飯塚。


「へえー。ちなみに田所のあんさんが好きなミュージシャンって誰ですか?」


 そこからマニアック過ぎてちっとも分からない名前を次々と言い、ひとつひとつ解説を始める田所。


「これは昔、コーラのCMに使われてましてね。そのコーラの缶に自分らのバンド名っすよ!最高っすよ!」


 ここで『著作権』や『違法アップロード』のことを言うと…、まるでサンタさんを信じている子供を見るような気持ちで田所を見る飯塚。




「これが前に言ってた通帳っす。あと今から言う不動産屋は俺の方から話通してますんで。今は『組員』の方たちって部屋も借りられないんすよね」


「ああ。それにしてもお前は仕事はええな。携帯電話にしても『とばし』もいらねえ。つーか、『とばし』より使えるよな。これだけの名義をよく集めれんなあ」


「今はどこの通信事業者も新規獲得にやっきになってますんで。つーか、俺から言わせれば通信事業者がやってることは『特殊詐欺』の一種と変わらんでしょ」


「ま、『よく分からん』で判を押すバカが多いからなあ」


「ええ。『情報弱者』は食われるのが今の時代っすね。今後は性能のいいトランシーバーを用意しますよ。そっちの方がログも残らねえっすからね。圏外もありませんし。あと必要なもの、言われたものは手配してますんで。で、『肉球会』とは?」


「ああ。ガンガン行ってくれ。好きにやってええぞ。『模索模索』には期待しとる」


「あ…、『模索模索』はちょっと割れまして。今の『模索模索』は俺一人なんすよ」


「あ?ああ。前に言うとった『ウーバーなんちゃら』つーやつか」


「まあ、いろいろっすね」


 闇に潜った半グレと昔気質で屈強な組員たちが揃った『肉球会』がぶつかる。

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