第133話ジュース代百三十円×2
宮部は『あること』を考えていた。
(『肉球会』からは『深入りするな』って言われてるんだよなあ…。京山さんの言葉は『絶対』だしなあ…。ただ…)
~過去シーン~
「さあ『ふぁんた』ですし、たなりんのミスで炭酸が抜けちゃいましたが!『兄弟盃』でござる!飯塚殿!音頭を!」
「…え?僕が…」
「そうでござるよ!長兄である飯塚殿が音頭をとるに相応しいでござるよ!ねえ、宮部っち。いや宮部っちの『兄者』!」
「おいおい。ちょっと待ってくれよ。俺は一番下でいいよ。たなりんが次兄でいいと思うよ」
「何を言ってる!宮部っち!たなりんは遅生まれでまだ十七でござるよ。宮部っちは十八でござるよね?それに『オタク』としての心構え、先ほどの『コミケ』での作法を熱く語るところなど次兄に相応しい!そうですよね?飯塚殿もそう思いませんか?」
「あ…いや…、そこは…、どうなんだろうね?」
うーん、マジで十代目『藻府藻府』の頭である宮部君が俺の弟になるの?と思う飯塚。と、同時に、まあ、『ここだけ』の『オタク兄弟』だし、そういう『肩書き』はこの場ではなしだし…、と思う飯塚。と、同時に、あれ?俺って田所のあんさんと五分の兄弟分なんだよなあ…。健司は田所のあんさんの弟分であって…、ここで俺が宮部君と兄弟盃を交わしたとなると…、どうなるの?と思う飯塚。
「いや、ここはたなりんが次兄でいいと思うっすよ。ねえ、飯塚さん」
「そ、そうですか…。お二人がそこまでたなりんを『推し』てくれるのなら…。しかたないなりね。私、たなりんが『次兄』を引き受けるでござる!」
いや…、やけにあっさりと言うか…、むしろ進んで『次兄』を引き受けたよね、たなりん君。と思う飯塚。飯塚さんや自分のために『登園の誓い』をやろうと言ってくれたり、進んで盃替わりの『ふぁんた』を買いにいくところとかを見るとたなりんは『いい奴』だし、こういう場ではせめて飯塚さんは別として、『次兄』をやることでたなりんが少しでも気持ちよく活動とかを楽しんでくれればそれがいいだろう。普段から『周りに同じ趣味の友達がいない』って言ってるし…、と思う宮部。
「じゃあ、たなりん君が『次兄』と言うことで。『誓い』の代わりに『乾杯』でいいかな?」
「飯塚殿。水臭いでござるよ。たなりん『君』はやめて下され。今日、今この時を持って、たなりんは飯塚殿の『弟』になるでござるよ。呼び捨てでお願いしますです。『なあ』、宮部っち?」
「あ、そ、そうだね…」
お…おう…、十代目『藻府藻府』頭の宮部君がたなりん君に気を遣っている…!と思う飯塚。と、同時に、まあ、この場だけだし、宮部君もここだけって分かってるだろうし、いいかと思う飯塚。
「じゃあ、改めて。三人の『登園の誓い』にカンパーイ!」
「乾杯!」
「乾杯!」
本当なら『登園の誓い』ならそのセリフがあるんだろうけど、申し訳ないけどそれをスラスラ言えないし、たなりんがそこに突っ込んでくるとまたいろいろ面倒くさいから『乾杯』で『盃事』を乗り越える飯塚。
「いやあー、今日の『ふぁんた』の味は格別でござるよ。頼もしい『兄者』と『弟』が出来てたなりん人生、今この時が最大の幸せな瞬間でござる!」
「じゃあ『ジュース代』を今払っとくよ」
宮部の言葉に、ああそうだ。こういうのはちゃんとやらないとと思う飯塚。
「あ!大丈夫でござる。ちゃんとメモ帳にしっかり書いてるでござるので。今日の帰りに精算するということで。さあ、今日を楽しむでござるよ!兄弟!」
ポケットからメモ帳を取り出し、しっかりと『ジュース代百三十円×2』とメモしているのを見せながらそう言うたなりん。いい意味でしっかりとしてるなあと思う飯塚。
そして「コミケ」を楽しむ三人。
「ちょっとトイレに行ってくるでござるー。他に『連れション』の方はおりませぬか?」
「あ、大丈夫」
「うん。ここで待ってるからゆっくりでいいよ」
そして二人きりの時間で今の自分の立ち位置を宮部に説明する飯塚。
「へえ。『組チューバー』ですか」
「そうなんだよ。だから『肉球会』の皆さんとか田所のあんさんとはそういう目的のために活動してるんだよ。まあたなりんがさっき言ってたように元々は『底辺ユーチューバー』だったし」
「それで京山先輩とも繋がりが」
「いや、健司、あ、京山は昔からのツレなんで」
「え!?ツレですか!?」
「うん。まあ、君とたなりんの関係みたいなもんだよ。僕自身はヤンチャしてたけどカッコだけだったしね」
「へえ…」
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