第120話目には目を歯には歯を年賀状には年賀状を

(この野郎…。『ボーガンの矢』を普通に掴めるか?しかもこの暗闇で。時速200キロ以上は出てるはず…)


 そんなことを考えている伊勢に京山が言う。


「おい。てめえよお。貰った『年賀状』にはしっかりと返事を出すタイプか?」


「あ?」


「だからよお。貰った『年賀状』にはしっかりと返事を出すタイプかって聞いてんだよ。二度言わすなこのボケが」


「ああ?今どき『年賀状』か?んなもんラインのスタンプで済む時代やろが」


「てめえは『占い』好きなわりに抜けてんなあ。おらよ。返すぜ。おりゃあ『律儀』だからよ。おやじの教えってのもあるがなあ」


 そう言って右手に掴んだ『ボーガンの矢』をサイドスローで伊勢へ目掛けて投げる京山。


 ドスッ。


「つっ…!」


 京山の投げた『ボーガンの矢』は伊勢の右足太ももを貫く。


「『目には目を歯には歯をお中元にはお中元をお歳暮にはお歳暮を暑中見舞いには暑中見舞いを残暑見舞いには残暑見舞いを。年賀状には年賀状を』だよ。馬鹿野郎。ひとつ賢くなったなあ。てめえのちいせえあるんだか分からねえ脳みそがあればの話だがよお」


「きょおおやまああああ」


 そろばんヤクザと呼ばれる『蜜気魔薄組』の中でも数少ないイケイケ武闘派である若頭・伊勢もひいてはいられない。


「ほお…。『鞭打ち』仕込みのサイドスローをガチで食らっても倒れねえか。そろばんヤクザにしちゃあ上等じゃねえか」


「うるせえええ!舐めてんじゃねえええええええ!どいつもこいつもよおおお!」


 ボーガンをほおり投げ、左手で右足太ももを庇いながら、右手で胸の内ポケットから拳銃を取り出す伊勢。


「ほお…。抜きよったか。てめえよお。『占い』もいいが脳みそちいせえんだからよお。『足し算引き算』って分かるか?」


「死ねやああああああ!きょおおやまああああ!」


 叫びながら、右足の激痛を必死で堪えながら体のバランスを取りながら伊勢が拳銃で京山を狙う。


(伊勢って本当に『馬鹿』なのか…?)


 タバコを吸いながら様子を見ていた間宮はそう思った。


「『2ひく1』の答えはいくつでしょう。伊勢君」


「うるせえええ!死ねやあああああ!」


 矢の根っこの羽の部分が太ももを貫通するのを防いでいた。京山はその根っこの羽の部分を指で摘み『ペキッ』とそこだけを折る。そして一気に矢を太ももから引き抜く。矢を抜いた瞬間から血が噴き出す。そんなことは一ミリも気にせず京山が言う。


「答えは『いち』だ。伊勢君よお。てめえが打った矢は二発。一発はてめえに返した。そして残りがこれだ。俺のコントロールは針の穴をも通すぜ。てめえがその『チャカ』を外してる間に『二枚貰った年賀状の返事もう一枚』をきっちりぶち込む。喉か?目ん玉か?額か?それとも心臓か?てめえの好きな『占い』ではなんて言ってた?」


 そして暫くのにらみ合いが続く。


(残念だったな。伊勢よお。おめえが弱ええんじゃねえ。相手が悪かっただけだわ)


 新しいタバコを咥えながら心の中で間宮は呟く。


 そして伊勢がとうとう引く。


「ち、まあ『ボーガン』はラッキーアイテムで『占い』は当たったわなあ。でもあかんなあ。肝心な『ボーガンの矢』を間違えたがな。で。間宮さんよお。その死にぞこないなんだかゾンビなんだかしらねえがあり得ねえ『クソゴリラ』のとどめはおめえがやってくれるんだろうなあ?」


「ああ。てめえらが消えたらな」


「ふん。おい。いくぞ」


 どこに潜んでいたのか。伊勢の声で数名の男たちが負傷した伊勢を抱えながら運んでいく。


「ぬりーっすね。やっぱ熱いのは今でも苦手っすね」


「あ?てめえ…。俺はやれんぜ。ほら来いよ」


「だからよお。京山『さん』よお。俺は今でも『ぬりーの』が好きなんだわ。そういうことっすわ」


 そう言いながら携帯灰皿を京山へ放り投げその場を立ち去る間宮。


(そういうことにしといてやるぜ…。まあ、次こそは本当の殺し合いだろうな)


 簡易な止血を自らで施し、そのまま裕木と同じ医者のもとへと歩き出す京山は『動画』の撮影停止ボタンを押す。

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