第80話爪痕
「そうですか…。あいつと会いましたか…」
田所は京山と電話で話していた。
「ああ。見た目は全然違うが、昔の『お前』に似てるな」
「そうですか…」
あの自分の拳で育て上げ、外しそうになった道をも拳でぶん殴って何度も正してきた後輩である間宮。最後は『薬』を完全に止め、自分を心から慕っていた思い出しかない。京山の胸にいろいろな想いがこみ上げる。そして田所の言葉の意味もよく理解する。似てて当然だよな…、と思う京山。
「それよりいろいろと厄介なことになってきたぞ。半グレ小僧『模索模索』のバックは『血湯血湯会』だ」
「あの『血湯血湯会』ですか?」
「ああ、間違いない。狭山のおじきから直接聞いたからガチだろう」
「え?狭山のおじきと会えたんですか?」
「ああ。偶然な。それよりこのことをすぐにおやじに伝えてくれ」
「はい。分かりました」
「それから『模索模索』がやってる店の事務所から『粉』を見つけた。それも個人で購入したとかのレベルじゃねえ。業務用アイスの中に小分けにして隠してあった」
「マジですか。でも『血湯血湯会』も『薬』はご法度ですよね」
「ああ。だからこそ『模索模索』の出番ってとこだろう」
「なるほど…。おやじに報告しておきます」
「頼むぞ。それから一つだけ『下手』うっちまった」
「どうしました?」
「前にお前とサシで飲んでるところを撮られてたわ。『チラシ』が回された後のものだからちょっとまずいな」
「アニキ。それなら大丈夫ですよ」
「馬鹿野郎!あの写真が出回れば組にどれだけ迷惑がかかると思ってる!」
「アニキ。おやじの独り言を忘れちゃあいませんか」
「あ?」
「例え『破門』にしようがシマウチでアニキにチャチャ入れてくる奴がいれば『潰して』まうなあって言ってたじゃないですか」
「でもなあ…。おやじはああ言ってくれたが、さすがに形だけの『破門』じゃあ筋は通らんだろう。おやじと組の看板に泥を塗っちまうことになる」
「大丈夫ですよ。その『写真』はまだ出回ってないですよね?そうなったらそうなったでその時に考えたらいいことだと思います。念のため、おやじには一応報告しておきますが」
「ああ、頼む」
「また何かありましたらいつでも連絡ください。こっちからも情報は流しますんで。それから」
「ん?まだ何かあるか?」
「飯塚のことを今後もよろしくお願いします」
「ああ。飯塚の兄弟は俺が命に代えても守るから安心しろ」
「はい。自分も何かあればすぐに出張りますんで」
あの夜。結局、田所と飯塚、そして間宮が協力して悪徳デリヘル『グッドフェラーズ』を潰したことになった。部屋から見つかった『粉』もその場で間宮がすべてトイレに流し『処分』してしまった。
「こいつら、『無理やり女の子を働かせる』どころか『薬』まで扱ってたんですね。いやあ、本当に乗り込んできてよかった。それに田所さんや飯塚さんまで駆けつけてくれたのも『運』がよかった。僕一人じゃあ逆にやられてたかもしれませんね。『悪徳デリヘル』を潰せたし、これだけの『薬』を処分出来たことは本当によかった。これだけの量の『薬』が世に流れてたら一体どれだけの人間の人生を狂わせてたことか。本当に二人には感謝です」
間宮の舐め腐った言葉を受け入れるしかない田所と飯塚。田所は特に歯がゆい思いをした。ただ一つだけ。間宮が気付けなかった誤算があった。それはすべてを高画質カメラで撮影されていたこと。今は自称底辺ユーチューバーである飯塚だが撮影機器と撮影技術は持っていた。間宮に気付かれずにこの夜のことを動画に収めたことは大きな収穫であり、今後の武器となる。
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