第49話日本で一番最初に特攻服を着た族!

「飯塚ちゃーん」


「はい。何でしょう?田所のあんさん」


 すっかりお互いを呼び合うのにも慣れてきた飯塚。なんとか『仁義』チャンネルを立ち上げようと頑張っていた。パソコンのキーボードを叩きながら調べ物をしていた飯塚に田所がタバコを咥えて火を点けながら訊ねる。


「飯塚ちゃんと健司は昔からのツレやったんすか?」


「あ、そうですね。昔からの幼馴染と言いますか。付き合いは長いです」


「飯塚ちゃんも『藻府藻府』OBっすか?」


「あ、違いますね。僕はカッコだけでした。やんちゃもしてましたが高校行ってましたんで。健司はご存じのように今でも地元以外でもカリスマ的ですからね」


「へえー。でもあいつって『いい男』でしょ」


「そうですね。あんまりそういうのは意識したことないですけど。確かにこんな僕みたいなシャバいツレでも大事にしてくれますし。そういった『相手』で付き合い方を変えるような奴でもありませんからね。『いい奴』です」


 パソコンの画面を見ながら飯塚が答える。


「『藻府藻府』は名門っすからね。兄貴分の自分が言うのもなんですが。あいつは飯塚ちゃんに『藻府藻府』のことを話したりすることってあります?」


「言われてみれば…。実はそんなに『藻府藻府』のことはプライベートでは言わないし、聞くこともありませんでしたね」


「じゃあ昔、あいつがうちの組にもイケイケだったこととかも知らないっすか?」


 え?と思う飯塚。思わず手を止め、パソコンの画面から目を離し、田所の方へ振り向く飯塚。新しいタバコに火を点けながらあぐらをかいて座っている田所が思い出話を語るように話始める。


「飯塚ちゃん。『特攻服』って知ってます?」


「それは知ってますが…」


「あれって最初に着たのはどこの族か知ってます?」


「え?まさか…」


 そう言えばものにはすべて一番最初にやった人が存在する。特攻服も同じくだ、と思う飯塚。もう一度パソコンに向かい、ネットで調べる飯塚。そんな飯塚の姿を気にせず田所は話を続ける。


「『特攻服』を日本で最初に着たのは『藻府藻府』っすよ」


「ホントですか!?」


 ネットにはいろいろな説が書かれている。ネットは確かに便利であるが真実は実際にその時代を、現場を、物事を見てきた人しか知らない。パソコンの画面を見ながら飯塚がいろいろなキーワードを打ち込むがそれらしい情報には一切ヒットしない。


「でも…、ネットにはなんか軍隊とかそれが最初だと書いてますが…」


 飯塚の言葉を聞き、それを鼻で笑う田所。


「暴走族には二種類あります。『走り屋』か『愚連隊』。『藻府藻府』はその両方。ずば抜けてるんすよ。さっきの『特攻服』の話に戻りますが。初代『藻府藻府』の頃ですか。あの頃ってまだ特攻服で走ってる族はなかったんすね。『機動隊』っているじゃないですか」


 え?と思う飯塚。デモとかで盾を持ちながら押し合う機動隊の姿を想像する飯塚。


「あの『機動隊』ですか!?デモとかで出動する!?」


「そうそう。その『機動隊』を襲って制服をぶんどって自分らで着たのが『藻府藻府』なんすよ。日本で最初に『特攻服』を着た族は『藻府藻府』ですよ。これって意外と有名な話なんですが」


 ネタだ!と思う飯塚。


「マジですか!?それってすごいですよ!特ダネですよ!」


「え?そうなんすか?いや…みんな知ってると思ってましたが…」


 いやいやいやいやいやいやいやいや!と思う飯塚。やはりこの人たちは面白い!と思う飯塚。


「本当にこんなレベルの話だったら山ほどあるっすよ。へえー、そういうのもうけるんすねえ。まあ、さっきも言いましたがあいつは昔、『肉球会』上等でしたからね」


 へえー。あの健司が…。でもなんとなく分かる気がする飯塚。

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