第十一話・対決の時(C)

「朱塔同次郎。嘉島杉光はどこにいる」

「答えるとでも?」

 敵となるガーダーの前には、白い鎧のガーダー。朱塔である。

 ここから少し離れたところで鉄ヶ山の戦う気配を感じる。 

「こんな町に人員を配置して、妨害までするとはなんのつもりか。裁判ものだぞ」

 二人のガーダーのうち、一人は離されてしまっていた。

 まだ経験の浅いガーダーだったため、朱塔の部下に数で追い立てられたのだ。おそらくは、もう無事ではない。

「非常に申し上げにくいのですがね、邪魔なのですよ、あなた方」

「何を企んでいる?」

「権力階級の刷新ですよ」

「……本性を現したな。クーデターか?」

「いいえ、ただの入れ替えです。基本構造は今のままでいいんです」

「反逆者であることに代わりはない!」

「あー、あなたのような馬鹿にでもわかるように言うと、私が権力になれるようにちょっと手を加えるんですよ。他はどうでもいいんです。とにかく、重要なのは私なんですね。私が一番大事なんです」

「おまえ、自分のためだけに!? この件で何人処分を受けたと思っている!」

「私の知ったことですか。それに、たかだかペナルティがなんだと言うのです。今のガーダーは命のやりとりを理解していないから困ります」

「愚弄するのか!」

「いいえ、いい機会ですから経験させてあげましょう。ガーダーの戦いというものを」

 最初で最後ですが、と一言そえて、朱塔は腰から刀を引き抜く。

 敵のガーダーはそれをチャンスと見て踏み込もうとしたが、足を撃ち抜かれて転倒した。

 朱塔の刀の柄尻は銃が一体となっている。抜刀と同時に発砲したのだ。

「そういうわけですからぁ」

 朱塔の声が一段低くなる。

「生きて帰れると思うなよ……」

 囁くように、友人同士で内緒話でもするかのように、朱塔は語りかけた。


***


 鉄ヶ山がガーダー周囲を這う。

 地面を這うのではない。空間を這う。

 離れすぎず、近づきすぎず、ある程度の距離を保つ。もっとも有利な距離を保つ。

(あのガーダーじゃ鉄ヶ山さんには勝てない)

 有利なのはガーダーの方だ。なのに、マスクもなく、苦悶の表情を浮かべる鉄ヶ山を、まるで引き離せない。

 ヨモギには鉄ヶ山の勝利しか見えなかった。

「ゲージアップしていながらあのザマですか」

 ヨモギは後ろからする声にまったく驚かない。

「かたや、フォールはただのレベル1」

 ヨモギの横に立った朱塔のアーマーには、なにかを拭った跡がついている。油のようなすじだ。

「執念が、賭けているものが違うのです」

 なにか、自分の思っていることをなぞられているようで、ヨモギはつい朱塔の方を向いてしまった。

「見ていなさい」

 朱塔の仮面が、初めて会ったときのように鋭く見えた。

 ヨモギは、澄んだ頭で鉄ヶ山を見る。

 前よりも、もっとよく見える。

 鉄ヶ山の、一切の休息のない連打が、弱まることなく敵を打つ。

 一撃、二撃、三撃、四撃。すべてが万全の、完璧とも言える当て身だ。

 ガーダーは最初は耐えていたが、そのうちに声を出すようになり、悲鳴に近いものになり、すぐにただ音を吐き出すだけのものになった。

 鉄ヶ山の息がリズムを奏でるように吐き出され、疲労と苦痛を乗せて、最後には気合の声を出させていた。

 ガーダーの体が崩れ落ちた。

 その体にまったく力はなかったが、四肢は時折痙攣していた。

 ヨモギは呆然と鉄ヶ山を見ていた。

 鉄ヶ山は、荒々しくガーダーを見下ろしている。

 仮面のないフォール。

「これが百戦鬼ですよ」

 朱塔の声はどこか自慢気である。ガーダーかくあるべしという思いがあるのだ。

 朱塔が憧れに似た思いを抱く鉄ヶ山のその姿に、ヨモギは少し不安を覚えたが、鉄ヶ山に心配するような眼差しを向けられると、そんなことはすぐに忘れてしまった。

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