海と旅路

一色 サラ

航乗

会場の張り詰めた空気が、重く身体にのしかかる気がする。緊張で頭が真っ白になりそうだ。観覧席を見る余裕などない。たった5分という短い時間で勝負が決まってしまってしまう。「始め」という言葉で、試合は開始されてしまえば、もう後がない。

 

『始め』


どうする。相手はこちらに突進してくる。


 全身が汗まみれになり、滴が畳に落ちる。息がだんだんと荒くなり、焦点が上下に動く。組み手争いが、永遠に続くのではないかというぐらいに時間が流れていくような気がする。


 相手の袖は掴むことはできるが、同様に私の袖がガッチリと雑巾を絞られるかのように、握られている。

 その手を振り払いたいが、上手くいくはずもない。

 手を伸ばしても、あと数センチのところで、襟に触れることが出来ない。


 すでに指導が入ってしまっているので、このままだと負けてしまう。

 どにか、この流れを変えたいと、冷静さなど、どこかに置いてきてしまっている。 

 それでも頭を切り替えさせるようと、懸命に働かせる。


 イケるかもとダメかもしれないが交互に頭に巡り、足払いを交わしながら、お互いが譲り合わうことはなかった。


今やるべきこと、全力をつくして


『勝ちたい!!』


その一心で身体を動かし続ける。


 自分を奮い立たせるようと、「オォー」雄叫びを上げて、全身を集中させて、相手に立ち向かうことだけに心がけていく。

 呼吸の乱れが、一瞬の隙を作ってしまう。


 願うは美しいなくてもいいから“一本”をとりたい。


一心不乱に手足を動かし続けて、隙を狙う。

どうにか有利な流れで、試合を進めたい。残り1分…


ーーーーー

 タッタータッターンター 頭の中に曲が流れ込んでくる。まぶたを開けると天井が映り込む。

 全身に意識が回り始める。いつものように仰向けに寝ているため、背中がベッドについている。勝負に負けてしまった気分が漂ってきた。 

 夢ではいつも試合をしているのに、現実社会では、大会というなの選手権に出場したことなど、人生の中で1度もない。


 

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