第1話



(真飛)


身近に仲良い異性がいても、恋愛に発展するとは限らない。けど周りって結構、異性間が仲良くしている他人を見ると、恋愛に結びつけちゃう人が多い気がする。まあ、俺も友達にそういう発言をすることが多かった。




俺も、仲良い異性はいる。同じ高校に。

というか、家がすぐ近くのご近所さんであり、物心ついた時には仲良くなっていたであろう幼なじみ。そして1つ年上だ。


でも年上っていうのもあるし、単純に可愛いことは俺も感じているので、逆に、これ以上関係を踏み込むこともできないし、踏み込む必要もないと思っている。ただ仲の良い幼なじみでいいと。





まあこう見えて意外と女絡みの少ない自分にとっては仲良くできている女性がいるっていうのも珍しいことで。女子とも普通に話すには問題ないんだけど、特に仲良い女子っていない気がする。


チームの同期も最近恋をしている人も多く、晴高は残念な結果に終わっちゃったようだが、最近だと海吏が幸せを掴むことが出来て、ちょっと羨ましい気もする。あと、

青葉に陽に、この2人も彼女とラブラブなんだよな。





なんて思っていた、11月のある日のことだった。




休み時間、廊下で声を掛けられた。


「おーい、真飛!」

「あ、茉優ちゃん、どうした?」


この人、矢川茉優ちゃんこそが、幼なじみとも言える女の人だ。普通科の2年生だ。


「今日の夕方って真飛の家誰かいる?」

「んー、俺部活休みだからいるけど。どうしたの?」

「毎年恒例のみかんのおすそ分け。」

「あーなるほど。なら俺学校帰りついでに貰いに行く」

「じゃあ一緒に帰るか」

「そのほうがいいな。」


矢川家の県外にいる親戚がみかんの農家で、毎年この時期に箱で何箱も送られてくるようで、数年前から俺の家にも分けて貰っているのだ。



「じゃあ放課後玄関で待ち合わせね」

「了解。」



と会話をし、お互いその場を離れた。




その光景を見ていた同じクラスの海吏に、

「もう付き合ってるかのような会話だね」

と突っ込まれる。


「ただの幼なじみです。」

「でも幼なじみだって知らなかったら今の会話絶対カップルだと思うわ。特に最後のやり取り」


仲良いっていう面では自然と接しているので、そう捉えられてしまうのかもしれないけどな。







そして放課後、茉優ちゃんと合流し、世間話などたくさん話をして、まずは茉優ちゃんの家へと向かう。とはいえ俺ん家とすぐ近くだけど。


茉優ちゃんの家に上がって、時間もあるので部屋でのんびりしていた。まあ、俺と茉優ちゃんがお互いの部屋出入りするなんてそう珍しいことでもない。



「そういえばさっき休み時間に廊下で俺らの話聞いてた友達に、付き合ってるかのような会話だねって言われたさ」

と、先程の話をする。


「何でもすぐそうやって捉えてくるよね、周りって」

「分かる。ただ仲良い幼なじみってだけなのきね」

「本当さ。私もたまに学校で真飛と話した後、あのイケメン誰?!とか聞かれるもん」

「まずイケメンって言われることに驚き」

「いや普通に顔はイケメンだと思う」


と言われて、若干照れてしまった自分がいる。



「って言ったら茉優ちゃんは美人さん。」

「あら、珍しいね、そんな褒めてくるなんて」

「今までも色々な男性を虜にしてきたんだろうね。色々な意味で」

「色々なってどういう意味よ。」



茉優ちゃん、結構濃い経験していると聞く。まあ、モテるんだろうな、というのは感じている。




「真飛はどう?恋愛とかは」

「全然。中学で1度彼女できたくらい。」

「じゃあまだ童貞くんだね」

「そんなバカにした言い方しなくても。仲間はいっぱいいるし」

「っても私も初エッチだってここ数ヶ月前だから、今なら私に勝てるよ?」

「そういう問題?相手すらいないのに」


出会いがほしいよ、まったく。



「でもそんなこと言われたら茉優ちゃんに勝ちたいなー。2年生の途中までに経験してれば勝てるのか」

「そうだよ。何なら今しとけば余裕勝ちじゃん」

「今なんてそんな相手いないってば」

「じゃあ、してみる?相手にならいくらでもなれるよ?」



この時の茉優ちゃんは、とても大人っぽすぎて、俺もそそられてしまった。



「…いや、それは流石に…」

と頑張って断ろうとしたけど。


「とか言って興味津々みたいな顔してる」

「もうこれ以上言わないで。その気になるから」

「いいよ別に?その気になっても。」



結論言うと、魅入ってしまった。小さい頃から仲の良い幼なじみ、それでも知らないうちにこんな大人な女性になっている。俺の知らない茉優ちゃんだ。


過去に何人かの人と経験のある茉優ちゃんなので、準備からその行為まで、何から何まで彼女任せだったけど。してしまったことには変わりない。










結果的に流れで行為をしたんだ、俺は。でも、有意義な時間だとは思う。


とても暖かい温もりというか、この感覚が何だか気持ち良い。







行為後、そのまま茉優ちゃんのことを後ろから抱きしめるような体制になっていた。





「茉優ちゃんっていつもこんな風に男の人誘ってるの?」

「何その言い方。あながち間違ってはないけど」

「誘い方上手いねって思った。俺みたいな単純野郎はすぐ付いてくよ。」

「真飛が乗ってくれるとは思わなかったけど」



俺だって別にするつもりも何もなかったからな。



「茉優ちゃんが綺麗すぎた。大人になってた。それにそそられた。俺は。」

「だから今もそんなに人の胸ばっか触ってるの?」

「気持ち良いね。」

「答えになってないわ。でも真飛も立派な男だね。昔は泣き虫男の子だったのにね」



昔の自分は、何かあったらすぐ泣く男の子だった。テニス初めてからそういうことはなくなったけど、思い通りに行かないと泣き始めること多かったな。





「じゃあ真飛は私の事、どう思う?」

「頼れるお姉さん、みたいな?」

「やった。ありがと」


今も、学級委員など学校でも数々のことをこなしているし、家でも年の離れた妹のお世話とか、母親が仕事忙しいことが多いので、家の事だってほとんど茉優ちゃんがしているみたい。



「でも母親とは相変わらずだよ。どう頑張っても認めてくれないからね。ったく、ストレスになるんだわ。そのストレス発散に1番なのがエッチなんだ。全てが吹っ飛ぶし、抱いてもらえるって安心感で。正直良くないことだとはわかってるけど、それでも自分を守るためなら、やりかねない行為だと思ってる」


何とも、難しいことだよね。だって、本人がそれが一番、精神的な面でも良いと思ってるんだから。



「そんな感じで、何人かと関係持ってるような状況なの?」

と俺は聞く。


「最近は、1回限りとかばかりだけど。」

「そうなんだ。」




別に、彼女に対して引いてはいない。むしろ、こういうことなんだと思った。男女、でも体だけの関係って、よく聞くじゃん。






「…それなら、今後なんかあったら、俺も相手くらいはできるよ。話すのも、…するのも。抱え込みは良くないからね。」

「なんか、小さい頃のポジション逆になった気分。」

「ほんとだ。次は俺が支える番?」




そんなことやらで、今後もこういった関係が続いたのは事実だ。でも、恋愛感情とは全く違う何かだと思う。


この先俺自身がどうなってるのかなんて、分からないけど、今と変わってることだけは、想像できるのかもしれない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る