第1話
(冬樹)
始まりは、2年生の9月。
新人戦の、県大会の時の話だった。
俺はある人を見つけてつい、吹き出してしまったのだ。
「ちょっと、なんでそんな笑う?」
と相手にはめちゃくちゃ怒られる。
「だって、本当にマネージャーやってるんだーって思って」
「これでも1年ちょっとこなしてきてますから」
ある人とは、緑沢高校の2年生で、男子ソフトテニス部でマネージャーをしている女の子、吉野陽菜のことだ。俺とは中学まで同じで関わることも多かった人だが、中学では美術部に入っていたから、高校でソフテニのマネージャー始めたって聞いた時は本気でびっくりした。
「しかも聞いて、部活休みだし隣町だし興味本位で県大会見にきただけなのにスコア書かされてるさ」
「そのバインダーの中がそれらか」
「そう。顧問に気づかれた途端頼まれた。普通緑沢は県大会でマネージャー同行しないのに、団体以外は」
しかも陽菜、ただ県大会を見に来ただけなのに色々とマネージャーの仕事させられてるらしい。ドンマイしか言い様がないが。
「それにしても陽菜がマネージャーやってるとこ本当に見慣れなさすぎて笑うんだけど」
「冬樹は人のことどんだけ笑ったら気が済むのよ。冬樹が見慣れてないだけだわ、地区も違うし」
ちなみに俺は、南市の実家から通っているが、高校は江南市にあるから、緑陽地区に属する。
「でもそう考えたら冬樹の試合見るのも初めてかも。」
「わざわざ見なくていいから」
「えー。せっかくだから見るからね」
「恥ずっ。」
なんて軽く話して、一旦それぞれのいた場所に戻った。知り合いに試合見られるのって結構緊張するよね。
しかもこの日は俺もペアの詠斗も不調だった。3回戦敗退、という形で退けてしまった。力不足が圧倒的に目に見えた。問題点、改善点、それぞれ沢山増えた。
そんな県大会から2週間くらい経ち、10月にも突入したばかりの時期だ。
部活も休みだったこの日、久しぶりに1人での下校だ。というのも隼弥はクラスの友達と遊びに出かけてしまったからよ。
この日は朝は雨が降っていたため今日は自転車は置いてきたが、今はすっかり晴れている。最寄り駅の東町駅を降りてからは、スマホにイヤホンを繋げて、音楽を聞きながら家まで歩く。明るい時間だし、正直めちゃくちゃ気持ち良い。
歩いていると、後ろから声をかけられてたようだが、俺は気づかず。するとその人は、驚かすかのように前にやってきた。陽菜だったけど。
「うわあ?!!ってお前かよふざんけな」
「だって何回呼んでも無視してくるんだもん」
「全然聞こえなかったけど」
「聞いてなかったんでしょ」
「そりゃ気づかねえもん聞くこともできねえよ」
全然気づきませんでしたが。普通にびびったわ。
「どうしたの、そんな声掛けてきて」
「いや、別に何も用事はない。見つけたから」
「なんだよ」
まあそんなことだろうとは思ったけどさ。
「…これから暇?」
と俺は、陽菜のことを誘った。俺も暇だしね。
「え、うん。」
「どっか食べに行く?」
「行く。」
ということで、近くのファミレスに入った。
「なんか、冬樹と2人って違和感」
「確かにあんまりなかったかもね。」
「仲良くなったの中学だし。」
「中2だっけ?同じクラスでさ、」
「そうそう。宿研の班同じで」
俺たちが仲良くなったのは中学2年の時。一応小学校から同じだけど、陽菜は小4の時に転校してきた人で、クラスも違うため最初は関わりがなかった。
で、中2のクラス替えで同じクラスになって、すぐの宿泊研修の時に同じ班だったのがきっかけで仲良くなった。
「てか、何でソフテニのマネージャーやってるのかが気になる」
と俺は聞く。単純に気になるから。
「きっかけっていうか…。運動部のマネージャーやりたいなって思ってて、見学行って、緑沢の運動部だったらソフテニが1番楽しそうって思ったからかな。」
「マネージャーやりたかったんだ」
「うん。スポーツは好きだけど、自分は運動苦手だからできないし、でも何らかの形で関わってみたかった。」
俺もソフトテニス始めたのは、スポーツ始めたいと思って、3競技くらい見学して1番楽しそうって思ったからだった。兄がサッカー部だからサッカーもいいなって思ってて迷ってたけど。
「まさかこんな形で俺と再会するとは思ってなかったしょ」
「本当に思ってなかったわ。中学の時も強いのは知ってたけど。」
「でも、マネージャーってどうなの?結構大変?」
「大変どころじゃないわ。でも部員もマネもOBも、みんな仲良いからとにかく楽しい。」
確かに緑沢のソフトテニス部の人たちってみんな仲良しなイメージある。空真先輩のお姉さんが卒業生でよく高校の部活にお手伝い行くらしいが、先輩のお姉さんも今の部員とはかなりフレンドリーに接しているらしい。
「そういえば、藤光さんと付き合ってたんだっけ。」
「ああ、蒼のこと知ってる?」
「まあ同じ地区だからそういうもん。一中と釜川中は仲良かったもん」
ちなみに陽菜は、以前まで、緑沢高校で1つ上の藤光蒼さんと付き合っていたみたいで、俺はSNSを見て知っていた。
「色々と合わない部分あって、半年くらいで別れたけどね。でも、濃い経験は沢山させて貰った。」
「恋愛とは無縁って言い張ってた陽菜がね」
「本当よ。冬樹よりも大人な経験しちゃったかとしれない」
「ってことはそういうこと?うわー、抜かされたわー。俺高校上がってから恋愛とか何もしてないから」
高校上がってから恋愛はできていない。でも、焦る必要もない。自分のペースでできればいいから。
中学の時は何度か、女子とお付き合いした経験もあるけどね。3回くらいかな。そのうち1回は一瞬だったけど。
「逆に俺が、恋愛とは無縁な人になっちゃったかもしれないな。別に何もしてないけどさ。」
「ってもたった2年くらいじゃん」
「まあそっか。でも、俺みたいなチビで生意気な男、相手にされないだけかもな」
中学の時は告白されたこともあったし、自分から告白したことだってあるけど、今はそんなこともない。
ちなみに自分のクラスは体育科ってのもあって、身長も高い女子はかなりいます。
「冬樹はいいとこ沢山あると思うけどね。努力家でしっかり者だし、友達想いだし」
「そう??…まあ、ありがとう。」
まあ、人の良いところなんて中々分からないだろうな。人間はどうしても、人の悪いところばかりを見てしまうから。
にしても今、陽菜にさらっと長所みたいなところ言われたけど。かなり不意打ちだった。こうやって言われること、滅多にないし。
「それに気づく人が他にもいればいいねって話だけど」
「余計なお世話だわ。」
この日をきっかけに、友達、から、気になる存在、に変わったのは、確かだと思う。
単純に楽しい時間だから好きだ。そして、自分の素を出せる相手がいるっていうのは素晴らしいなって思う。そして、自分自信がこんな感情を持つのも、久しぶりな気がする。
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