第1話



(皆人)



よく言われる。なんで公立の緑陽北高校に入学したんだと。まあ、県大会でも活躍するような人は強豪校に進む、とでも思ってんだろう。実際、晴高とか和己とか、俺以外のチームメイトのほとんどは星の里高校に進んだ訳だし。通っていた江南北中は、特に自分たちの世代は、個人戦でも団体戦でも県大会で上位に、全国大会でも成績を残した。というか実際に強豪校から部活特待の話が来ていたのは事実だが。


高校上がってから本当によく言われる。でも、俺だって自分で決めた進路がある。正直テニスだって中学で辞める予定だったけどまあ、高校でも部活は続けてる。




でも、そのおかげで出会った人だっている。それこそ、俺が今、めちゃくちゃ大好きな彼女だってそうだった。中学の時の県大会で俺の試合を見たことがあるそうで、それがきっかけで入学してすぐくらいに、話しかけられて仲良くなった。だからね。






土曜日は昼まで授業があったこの日。中学の時の部活漬け生活とは違って、まだ慣れない部分もあるけども。

でも、今日は部活がないので、終わってからは彼女、福田紅羽と遊ぶ約束をしている。



集合して、さあ行こうという時。


「そういえばどこ行くの?」

と俺はつい言ってしまった。そう、これからの予定、何も決まってなかったから。


「確かに、ただ遊ぶ!しか決めてなかったね」

「行きたいところある?」

「んーじゃあ、久々に駅前行く?」

「行きますかー。」


ちなみに学校と、緑陽駅は結構近い。だから割と学校帰りに行くことは多い。でもしばらくは行ってなかったな、そういえば。




「手繋ぎたい」

と紅羽はとても可愛く言ってきた。きゅんきゅんしました。はい。


「いいよ。」



正直、中学までは恋愛経験は浅かったし、彼女できても全然続かなかったりしていた。逆に、海吏とか晴高とかのほうが恋愛経験は濃かったと思う。中学の時は。


その晴高とは家も近いし今でもよく遊ぶ仲なのでお互いの近況も話しているけど、晴高には、皆人が彼女できてから、色々と先越されたと言われる。確かに俺も紅羽と付き合ってからまだ数ヶ月だが、色々と濃い経験はしていると思う。それくらい、したいと思うくらい、好きだから。



紅羽は大人しい性格ではあるが、顔もめっちゃくちゃ可愛いし、優しいところとかも好き。紅羽の雰囲気を分かりやすく言うと、ふわふわ系女子って感じかな。




「ご飯食べて少し買い物とかしたら俺ん家来る?」

と俺は誘う。


「行きたい。皆人の家しばらく行ってない気がする。」

「地味に遠いもんね」

「だって江南市じゃん。」



そう、俺は家から学校までも遠いんです。なんたって、市をまたいで通学してますからね。




駅前でご飯食べたり、買い物したりして時間は15時を過ぎたところ。そのまま、俺ん家へ向かう。



「一緒に電車通学したらこんな感じなのかなー。」

と電車の中で言われる。


「確かに。紅羽そもそも電車使わないから俺達には縁がないことだけど」

「すいませんねー、家からすぐそこなんだもん。」

「むしろ家近いの羨ましいわ。」


ちなみに紅羽は、学校まではチャリ通ですからね。俺は、最寄りの駅までチャリで、そこから電車に乗る。


そしてタイミングの悪いことに、乗っていた電車に、赤川駅から星の里高校のソフトテニス部が何人か乗ってきた。部活終わりだった様子。



「あれ、皆人がベタ惚れしてると噂の彼女さん?」

と海吏には茶化される。


「そうだけど、どうしたらそんな言い用で噂になった」

「みんな言ってるよ。あの皆人が…みたいに」

「あのって失礼な。」


星の里高校のソフトテニス部は本当に先輩も同い年も知り合いばっかりだから余計にだよ。




「ごめんね、星の里のソフトテニス部の人達うるさくて。」

「いやいや、気にしないで。」

「こんなんだけどあいつらテニスは強すぎるから。何ならこの前の県大会とか俺の元ペアは1年生ながら優勝しちゃってるし、」

「へー。そういう皆人は?」

「県大会?2回戦敗退でしたー。」



そう、1週間前に県大会があったんだけど、元ペアの和己が優勝してて本当にびっくりしたよね。最後まで試合は見てたんだけど。海吏や晴高も含め、俺とは違ってテニスに熱心だからね。


ちなみに俺の県大会の成績は2回戦敗退でした。西星の柴敦貴・保科良則ペアっていうめちゃくちゃ知り合いの同い年と当たったんだけどな。




「でも皆人のプレー好きなんだよね。だから印象に残ってたってのもあるんだけど」

「例えばどんなの?」

「1番はボレーがえぐいよね。私も現役の時前衛やってたから憧れだった」

「ああ。低身長前衛ながら身に付けたものたちですけどね。今はその時の努力のおかげで勝ててるって感じだけど、」


と言っても、同じ少年団だった先輩にも、低身長ながらボレーがめちゃくちゃ上手かった前衛の先輩がいた。星の里高校でも大活躍して今は、県外の大学で活躍している人だけど、その先輩に憧れて、低身長でも極めようも思った。



「確かに皆人が中学の時のペアの人とは身長差あるよね」

「うるせ。和己がでかいだけだ」

「でも皆人も男子の中では身長低いほうじゃん」

「何ならクラスの男子で1番チビですけどー。」



紅羽まで身長いじりしてくるからな。付き合う前からずっとだ。そして俺と紅羽も身長差大した変わらないというか、正味5センチくらいだろうか。ま、まあ?これから伸びると信じるよ…。





家に着いて、まずは俺は部屋で着替えた。制服は学ランなんですけど、流石に家の中では着たくない。


…で、その着替えの最中も、紅羽には見られてる訳で。別に、前に何度かお互い裸見せ合いっこ的なのをしてるし何も問題はないんだけど。そういった行為は、結構重ねているほうではあるから。



「でもやっぱり身長は男子のチビでも、男らしい体はしてるよね。」

「そう?…まあ、部活で鍛えられたのかな。中学よりは筋肉落ちたとは思うけど」

「あとは、抱きしめられてる時に思うな。がっちり抱きしめてくれる時好き。」

「こういうこと?」


そのまま、俺は紅羽のことを抱きしめた。



「ダメだ、やっぱり部屋だとスイッチ入る」

「スイッチ入ったんだ。嬉しいよ?」

「このままいい?」

「…そういうところも男らしいよね。好き。」

「男は男らしくなきゃ。」


そうして、キスを沢山した後、ベッドへ移動し、そのまま押し倒した。



チビな野郎でも中身はちゃんと男。大好きだからこそ、彼女とあれこれしたいって思うから。紅羽と出会う前は、こんなこと全然考えていなかったのにね。


というか、紅羽と付き合ってから、自分がれっきとした男になった部分も多い気はする。

こうした深いキスだって、彼女に触りたいと思うことだって、体を交わすことだって。








「幸せだなぁ。皆人にこうして、愛して貰えるのが」

「俺も、幸せだよ。」


2人でいる時間が、もっともっと、続きますように。まだまだ俺たちも、これからですからね。



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