第1話
(陽)
今まで女子から告白されたことしかなかった自分にとって、自分から女の人をこんなにも本気で好きになるなんて思いもしなかっただろう。数ヶ月前までは。
しかもその人は1つ年上。少年団時代の先輩で、とても頼れて、少年団のお姉さん的存在だった。
きっかけは俺がまだ中学3年生の、2月の初め頃の話だ。
高校受験が1月にあり、それも推薦入試だったので試験の日にち自体が早かったのではあるが、2月に入ってすぐに合否が決まったのだ。地元の北別市を離れ、星の里高校への進学で、ソフトテニスがあってこその合格なので、まずは恩師とも言える少年団の監督に報告しようと、練習にお邪魔したのだ。
するとたまたまそこにいたのは、緑野高校へ進学した1つ年上の梅本柚羅ちゃん。柚羅ちゃんは高校進学後、少年団の練習へお手伝いしに行くことが多いらしい。お姉ちゃんみたいな存在で、少年団の女子の中では一番仲良いだろう。
それで久しぶりに話して、そのまま話し込んで、色々な話を聞いた。高校のこと、恋愛のこと。そして俺も部活のこと、恋愛のことと話して。
以降は俺も受験が終わって暇だったので、たまに少年団の練習に行ってて、そのあとに柚羅ちゃんなどみんなでテニスしたり、などしたのだ。それで今はかなり親しくなっている状態だが、俺が春から地元を離れることもあり、告白できずに終わっていた。
高校生なり2ヶ月が経ち6月。県総体の日となる今日。
県総体は、江南市で行われる。
この日は開会式、そして公式練習で終わる1日目。この日の夜、江南市と近くの緑陽市は、見知ったウェアを着ている人で溢れかえっているのであろう。ちなみに俺はメンバーでも何でもないので、明日から応援で会場にいる。今日はずっと学校にいました。
そんな中、江南市のホテルに泊まりをしているという北別緑野高校。そういうことで、俺は柚羅ちゃんに、返したいものがあるという口実で会うことになった。が、本当は、プレゼントを渡そうと思ってて。
いやまあ、返してなかった物があったのは事実ですけどね。
「あ、お久しぶりー!」
と俺は声を掛ける。
「なんか、男前になったね」
「あら、それは嬉しい」
「毎日鍛えてるからかい?」
「そうかもしれない」
会うのはこっちに来る前にテニスした日以来だし、俺もちょっぴり緊張する。でもそれ以降も時々、やり取りはしていたんだけどね。近況報告したりなど。特に、少年団も高校も同じで一つ上の岩本楓先輩が、女テニの東山先輩と付き合ったって言う時は、話が盛り上がったわ。
「そしてはい、これ。ずっと借りてたもの」
「ありがと。こっち持ってきてたんだね。まずそれにびっくりした」
「帰省より大会のほうが、先に会えるかもなって思ってたから」
「陽と最後に会えると思った日、私が熱出して会えなかったもんね」
「ほんとさ。」
借りたものって言っても、アーティストのライブDVDで。本当は親を通じて返すのもアリかと思ったんだけど、会える口実になるかな、と気づかないフリしていたのが本音。おかげで寮で暇な時も見ちゃったよ。
「そういえば、遠征でみんなと楽しんでる時間のはずなのに、呼び出してごめんね」
「いや、でも陽とゆっくり話せる時間できて良かったと思うよ。話したいこといっぱいあった」
「あれ、また何かあったの?」
「聞く??」
柚羅ちゃんの元彼の話で相談に乗っていたことはよくあった。まあ今じゃ、楓先輩の元カノである七海ちゃんの彼氏なんだけど。柚羅ちゃんも楓先輩も可哀想だった、あの話は。
「この前バスターミナルで元彼に会っちゃったんだけど、もう喧嘩したよね。何か言いたいことあんの?って聞かれて、別にお前に言いたいことなんてねーよ!ってな」
「相当怒ってるね」
「そりゃ最悪な別れ方したから当たり前じゃん。」
でも別に、戻る気配も無さそうだし、話を聞いてちょっとホっとした俺もいる。
「そういえば楓先輩から聞いたけど、柚羅ちゃんって年下って恋愛対象に入らないの?」
「いや、何の話してるの」
「そんな話になったの。」
「いや、でも人によるかなーって最近思う。陽みたいな人だったら、全然いける」
「まじ?!逆にどういうところがいけると思った?」
「何だろ。頼れるところとか、話しやすいところとか。まあ昔からの仲ってこともあって、年下って感じがあんまりしない」
「超嬉しい、それは」
つい俺も照れてしまう。好きな人にこう言われるの、素直に嬉しいな。と。
「逆に陽は?年上はアリ?」
「全然あり。むしろ年上のほうが好きというか、絡みやすい気はする。」
「確かに少年団の時からそんな印象あるかも。男女問わず先輩になついてたよね」
「分かる?」
確かに俺は昔からどちらかというと先輩のほうがよくしゃべれる人だ。高校上がってからも、先輩とはすぐ打ち解けた。
「やっぱ高校も年上とか可愛い人多いしょ?」
「いや、あんまり気にしたことない…」
「でも星の里の女テニ可愛いよねみんな」
「まあ、そうかもしれないけど…。」
なんて色々と話した後、話題が尽きたのか、つい沈黙の時間が続いた。
その沈黙を破ったのは、自分だった。
「あの…そう、今日は、渡したいものと話したいことがあって呼んだんだけどね」
と俺は話をする。
「あれ、まだ今日呼ばれた本題に入ってなかったんだ」
と言われる。まあ多分、借りたもの返すだけだったと思われてたんだろうね。
「ごめん、DVDはただの口実だったの」
「確かに、これくらい夏でも返せるしね」
「うん。でも、今どうしても言いたいことがあるの、俺は」
そこで俺は1度深呼吸をして呼吸を整えた後、柚羅ちゃんの方を見て、
「柚羅ちゃんは沢山俺に構ってくれてて、気づいたら俺は柚羅ちゃんのことが好きになってました。」
と言った。言ったあと、超恥ずかしくなって、つい顔を隠してしまった。
柚羅ちゃんも一瞬驚いていたが、
「そういうことかよー。やること可愛いじゃん。」
と言われ、柚羅ちゃんは俺に抱きついた。
「めちゃくちゃ嬉しい。陽のことは年下とは思えないくらいしっかり者だと思うし、私も信頼できる人だし、何よりも見た目も中身もかっこいいなって、密かに思ってた。」
「…何それ、嬉しい。」
「顔真っ赤」
「うるさい!!」
俺、そんな顔真っ赤になってたのか。でも、緊張が抜けて力が入らない。今までの試合よりも緊張したかもしれない。というか自分から告白っていうのも、初めてだ。
それからずっと話し込んでたが、正式に付き合うことも決め、そして俺たちはずっと手を繋いでいた。お互いどう思っていたか、とか、付き合うには遠距離になってしまうから、どう乗り越えて行こうか。とか。
話し込んでいると、もう時間になったようだ。なので、もう今日はこの辺でバイバイ。
「最後に、キスしてもいい?」
と俺は、聞いてみる。
「いいよ。あそこ行く?」
「行こっか。」
そして人の目が見えないところに移動して、そのまま俺たちはキスをした。…最高に幸せだ、今の俺は。
「そういえば、渡したいものって?」
と柚羅ちゃんに聞かれ、俺も渡し忘れそうになったものを渡す。
「17歳の誕生日おめでとう。」
と、俺はプレゼントを渡した。そう、今日は柚羅ちゃんの誕生日なのだ。
中身は、可愛い文房具を揃えてみた。前に、文房具見るのが好きって言ってたから。
「え、ありがとう!!…実は私もプレゼントあるの。本当は明日渡すつもりだったけど。この前誕生日だったしょ、陽も。いつも話してくれてるお礼にって思って、ちょっとしたお菓子だけど」
と、実は先週誕生日だった、俺まで貰っちゃった。地元の洋菓子屋さんのお菓子たち。ありがとう。
「最高の誕生日プレゼントだわ、」
と俺が言うと
「こっちのセリフ」
と柚羅ちゃんに言われる。本当に、幸せな誕生日プレゼントだ。お互いに。
次の日の大会中、俺は仲間の試合の応援をしたあとに歩いていると、地元の人に話しかけられる。
「なあ陽、ちょっといいか」
と、話しかけてきたのは、北別花野高校の3年生で、中学までの先輩だった、江川咲斗先輩だった。
「な、なんですか」
「そのとぼけた顔、昨日目撃情報いっぱいあるぞ?柚羅と手繋いでたんでしょ?」
と言われる。どうやら北別の色んな人に見られていたらしい。
と、近くにいて話を聞いていたらしい楓先輩と、3年生の溝口亘先輩も入ってくる。亘先輩の地元は違うが、咲斗先輩と小学生時代にペア組んでいたので北別の人とも元から仲良いのだ。
「え、柚羅と手繋いでたって??どういうこと??そこまで進んだの?」
と楓先輩が言う。
「付き合いました。昨日」
と言ったら
「え!?マジで?!それはおめでとう」
と楓先輩に言われ、続けて亘先輩も拍手をしてきた。
「ってか誰に見られてたんですか」
と俺は咲斗先輩に聞く。
「え、北別のソフテニわりと。柚羅が陽に呼ばれたって言うのすぐに広まったらしくて、女子みんなで様子チラ見してたらしいよ。」
と咲斗先輩は答えてくれた。北別地区の特に女子って団結力謎に高いんだよね。まあ分かるわ。
「まあ、遠距離でも頑張れよ、」
と咲斗先輩に言われる。
「なんか、ありがとうございます」
「いや、コイツみたいにならないでね」
と咲斗先輩は楓先輩のことを茶化し、楓先輩も
「いや、俺は今幸せだからいいですー」
と、ついムキになってしまったようだ。
江南市と北別市の距離は本当に遠いけど。でも、俺たちは始まったばかり。頑張ろう、本気の恋を。
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