最終幕(日記)

第25話 花火

【日記モード】


  おいらの独白。


おいら 思い返すとこの会話が、おいらとあたいの交わした最後の言葉。

  この会話は、本当の会話なのか、夢の中の会話なのか自分でもよく分から

    ない。

   でも日記だけは、交換日記は毎日欠かさずやってきた。

  おいらは、あたいの家の郵便受けに日記を入れて、いつの間にか、おいら

    の家の郵便受けにもあたいからの日記がキチンと毎日帰って来た。


  2人のピンスポット、通常の日記モードに。


おいら でも最近、どうしたんだ?

     学校来てないけど。おいら、もう大分脚も良く

    なって、ちょこっとだけど、サッカーの練習始めたぜ。

    今度おいらのリフティング見せてやるよ。

    クラブの中で100回出来るのおいらだけなんだぜ。


あたい そうなの、良かった。

    あたい、おいらのリフティングしている姿見たい。

   そういえば、あたい、おいらのサッカーしてるとこ見たことない。

    ・・・というか、実はあたい小5の時から、

    おいらがサッカーしているところ見ていたの。

    下校のときもいつもおいらの姿を探すのが楽しみだった。

    クラスメートには絶対に内緒で。

    あたいもあの輪のなかに入って行きたかった。

    不思議だよね。

    なんで、おいらだったんだろうね。

    そんな顔なのに。

    実はね、バスケットボールを見てるより、断然サッカーを見ている方が

    楽しい。

    ボールがあっち行ったり、こっち行ったり、やってるの大変じゃない?

    全然、点数が入らないところが楽しい。

    バスケみたいに、じゃんじゃん点数がはいっちゃうと、点数の有難味が

    薄れるよね。


おいら 日記に嘘を書いたらいけないんだぜ。


あたい ごめんなさい。

    でも、嘘はそれだけです。


おいら (おいらの独白)ある日の日記は、とてもとても長い日記でした。


あたい 昨日はとっても楽しかったの。

  何だか知りたい?

 

  昨日ねえ、地元の花火大会があったの。

    この部屋からは遠かったけど綺麗だったあ。

   全体が見渡せて遮るものがなかった。

    ここ川沿いだから、建物もなにもなかった。

    川面に花火が綺麗に映って。


    このあたりでは打ち上げ本数が一番多い花火大会なんだって。

    10箇所位から一斉に打ち上げられて。

    それがすっごくピッタリ息が合ってて綺麗なの。

   あんなにたくさんの花火が同時に何回も何回も。

    始まる前は場所が遠くの方だからどうなんだろうなあ、って思ってたけど

    全然。


    (小さな声で)ヒュウーーーーーー・・・パアッーーーーンって、

    花火が光るんだけど、

    音がちっとも聞こえてこないの。


    全然聞こえてこなくて、忘れたころに音がするの。

    (大きな声で)ドオーーーーン、パチパチパチ、ドオーーーーーンって。

    ホントに忘れた頃に音がするのよ。


    いつまで経っても音が聞こえないから拍子抜け。

    そのうち、花火がドンドン上がってくると、音と光がバラバラで。

    真っ暗な中で音だけしたり、静寂の中で花火だけが夜空一面に光ったり。

    でも段々その慣れてくると、それが快感になるの。


    初めての体験だった。

    音と光とが別々の世界。

    綺麗だったよお。

    

    それでね今日は大発見があったの。

    いつもは花火を全体で見てたけど、一本の光の筋をよおく見てみたの。

    そしたら光の筋ってものすごく綺麗なの。

    ゆっくり時間が流れてなかなか光が消えないの。

    花火って、こんなに長く光ってるものだったかなあ。

    中心から一筋の光が降りてきて、徐々に徐々に光が弱くなって行って、

    もうすぐ、もうすぐ消える、・・・って時に、最後の力を振り絞ってパッと

    明るくなって、静かに消えていくの。


    綺麗だったあ。

    

   最後は、一斉に花火がドンドンドンドンドンドン上がって、

    空一面に花火が一杯。


    あまりに沢山だから、打ち上げてる人のこと考えちゃった。

    大変なんだろうなって。

    最後の花火が消えると、それからいつまでもいつまでも花火の音が

    聞こえてた。


    ヒューーーーードン、ヒューーーーードン、ヒューーーーードン、

    いつまでも真っ暗な空に花火の音だけがしてた。


    でも最後までその音を聞いていられなかった。

    いつの間にか耳を手で塞いでいた。

    ずっとずっと塞いでいた。


    耳から手を離すと、とっても静かな夜だった。

    


    あたい、来年の花火大会はおいらと一緒に見たいな・・。


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