第4話 プロフェッショナル・レスリング

 体を押さえつけられる。

「ワン・・・ツー・・・」


「立て、それが君だろ!!」

 ハッとして、押さえつけていた物を跳ね返す。


 朦朧としていた意識が次第にはっきりしてくる。目の前には最強・最大火力の有名プロレスラー、フェニックス・カイザーがいた。

 観客の残念がる、ため息。


 そして、


「うぉおおおおっ」

 

 まだ、立てるのか、と俺に向けられたであろう感嘆の声。


「よしっ、頑張れ、仁君!!!」


 バンバン床を叩いて、興奮している凛。


「うぐぅ」

 気を抜いているとカイザーのラリアットを喰らって、咄嗟に首に力を入れたが、危うく気管がつぶれるかと思った。


「返せ!!」

 凛の言葉に反応して、自分もラリアットを返す。

「うっ」

 カイザーが俺の不細工なラリアットを苦しんだ。よくよく観察するとかなり息が上がっている様子で、効いているみたいだ。


「はぁあああっ」

 カイザーがラリアットを溜めて、俺の首に決める。

「はぁああい!!」

 会場もそれに合わせて、声を出す。くらくらする頭で数少ない技。俺も溜めを作ってラリアットを放つ。

「はぁあああい!!」

「うがぁ」

 さっきよりも小さかったかもしれないが、俺の攻撃にも合わせて観客席から声を出す人がいてくれた。そして、総合格闘技ではほとんど当てることができなかった攻撃がカイザーに当たり、かなり悶絶してる。


「煽るのよ!!!」

 凛が声を荒げる。


「こっ・・・こいやぁああ!!!!」

「きゃぁあああっ」

 柄にもなく、そして、声を荒げたない俺が声を上げると、女性に観客の声が聞こえる。しかし、これは悲鳴ではなく・・・黄色・・・


「おらぁああ!!」

「うっ」

 余計なことを吹き飛ばすかのように力の注がれたカイザーがラリアットが返ってくる。

「おらぁあ!」

「おらぁあ!」

「おらぁあ―――」


 ラリアットの応酬。自分の攻撃が当たる楽しさ、それで観客が沸く楽しさ、そして、

「おりゃあぁ」

「んぐっ」

「うぇい!!!」

 攻撃を受けて観客が盛り上がる楽しさ。ふらふらになりながらもアドレナリンが痛みよりも快楽を与えてくれる。


「うおおおおおおっ―――りやぁ」

 バンッ

 なん十回目かわからないラリアットで、初めてカイザーがマットに倒れ込む。


「仁君、あれよ、あれっ!!」

 振り向くと、きらきらした目で凛が興奮している。そして、カイザーもまた立ち上がる気配がない。凛の指さした方向は———

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