第2話 捨てた未来と拾われるスマホ
「お世話に・・・なりました」
俺はトレーナーに深々と頭を下げ、一言二言交わし、最後の別れを告げた。
強くなって君を守る。
何歳の頃かも、どこの誰に言ったか忘れてしまったが、そんなかっこつけた理由で始めた総合格闘技。しかし、一度も倒すことができず、最後の別れを決めた。
ふと、夜空を見上げると、自分のような夢に破れた負のエネルギーを集めたかのようにどんよりとした都会の空は真っ暗だった。
「長野に帰るか・・・あっ・・・」
親に電話するためポケットからスマホを取り出そうすると、全力で戦った自分の右手は握力を予想以上に失っていたようだ。スマホを落としてしまった。
振り返りスマホを拾おうとすると、長い黒髪の女の子がしゃがみ込んで俺のスマホを拾おうとしてくれている。
「はいっ。これ」
「あっありがとうございます」
彼女が立ち上がった瞬間、わずかな街灯の光を鮮やかに反射させて輝く彼女の黒髪がふわっとして、花の香りがする。花には詳しくはない。けれど、よく嗅いだことがあるその花の香りは、自分の傷心した心をすーっと癒してくれるのを感じた。
髪をかき分ける彼女。
彼女は俺を真っすぐその綺麗な瞳で見つめてきた。
「さっきの試合・・・見てたよ」
「えっ」
目に性格が出ると聞いたことがあるが、鋭い目つきにぶっきらぼうな言い方。
10分ぐらい歩いてきたのに、まだ観客と会うなんて。まさか・・・
「・・・すいません。つまらない試合で。でも安心してください。引退するんで。なので、お金を返せとか言われても・・・無いんで」
「はい?」
語尾を強めて彼女は返事を返して来る。
「違うんですか?」
「違います」
「じゃあ・・・?」
試合で疲れた脳をフル回転させて、どうしてついてきたのか悩んでいると、彼女はそんな俺の姿を見てニヤリと笑った。
「私の名前は九条凛。ねぇ、君―――勝ちたくない?」
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