第5話 ドゥーエとの再会②


「え??」


ドゥーエからの予期せぬ質問に驚いたエストは言葉を失った。


「・・・・・・・・・。」


そして混乱していた。


『女神イヴァをどう思う?』


なぜ急にドゥーエがそんな質問をして来たのか??何かの冗談??・・・では無さそうだ。ドゥーエの目は真剣だ。人に聞かれたくない話・・・という事はドゥーエもイヴァを疑っているという事なのか??いや、もしくは自分を疑っているのか??など様々な思惑がエストの頭を巡っていた。



過去視でイヴァの素性を見て来たエストにとって、その認識はアルストが言うように『諸悪の根源』というものに変わっていた。しかしそれは口が裂けても人族の前では言えない事だった。過去で『イヴァ』を悪く言った者(フレドやアルスト・・・特にフレド)に対する人族の豹変ぶりは異常な者だった。そして、それは今も変わらない事をリュナから教わり知っていた。


「ごめん。驚いたよな??急にこんな質問・・・・だが、すぐ答えれない時点でエストが『女神イヴァ』をどう思っているのか・・・分かったよ。」


「あ!!!そうか・・・。」


『しまった!!』という顔を見せ俯いたエストに、ドゥーエはニヤッ!と笑みを浮かべた・・・・が体を震わせ辛そうにしている。


普通ならば「どう思う?」と聞かれれば「人族の母なる女神には日々感謝しているし、敬愛している。」等と即答するものだ。しかし、エストは答えれなかった・・・つまりそれが答えのようなものになってしまっていた。


「ドゥーエ??・・・どうした??大丈夫??」


『どう答えるべきか??ちゃんと言うべきだろうか??』考えがまとまらないまま顔を上げたエストは、額に汗をびっしりと滲ませ、呼吸は荒く、苦しそうに眉間に皺を寄せているドゥーエに気づいた。


慌てて駆け寄り心配するエストだったが、ドゥーエはエストの肩を強引に掴むと再び同じ質問をぶつけてきた。


「頼む、エスト・・・ちゃんと答えてくれ・・・イヴァをどう思ってるんだ???」


ドゥーエに何かが起こっている・・・『何か』までは分からないが、その起こっている何かの原因は『この話』だという事は分かった。そして、今ドゥーエが『イヴァ様』でも『女神イヴァ』でもなく『イヴァ』と呼び捨てにした事で疑念から確信に変わったエストは口を開いた。


「分かった!ドゥーエ、俺はイヴァを『神』じゃないと思っている。」


「ぐ・・・ぐぅううううううううう!!!!」


エストがそうハッキリと答えた途端、目をカッ!?と開くとドゥーエは仰け反り苦しそうな声を上げた。


「ドゥーエ!」


倒れそうになっているドゥーエの腕を慌ててエストが掴んだ・・・瞬間・・・


バチッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「痛っっ!?!?」


エストの手に電気が走った。


その後グラッ・・と体勢を崩したドゥーエだったが膝に手をつき体勢を保つと、一度大きく深呼吸し呼吸を整え始めた。


「ふぅううううう・・・はぁあああああああああああ・・・うぐ・・・はぁ・・・はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・・・はははは・・・・やっぱ直で言われると効くなぁ・・・。」


「ドゥーエ・・いったい何が?」


再び心配するエストに『大丈夫だ』と手を差し出し、地面に腰を下ろしたドゥーエは呼吸を整えている様子だったため、それを待つことにしたエストはドゥーエの正面に腰を下ろした。




「・・・。」


「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・ありがとうなエスト。正直に話してくれて。」


「もう大丈夫なのか??」


「ああ。もう落ち着いたよ。やっぱりそう思っていたんだな。」


「ドゥーエはいつから?」


「俺もそう思っているって分かってたのか?」


「いや、さっき『女神イヴァ』を呼び捨てにしたから。」


「あ・・・そうか・・・ははは。」


額に手を当て天を仰ぎ苦笑いしたドゥーエだったが「なら話は早いか。」と呟きエストに視線を戻した。


「ドゥーエはどうしてその事に気づけたんだ?それと・・今のはいったい???」


「ああ・・・話せば長くなるが・・・良いか?」


「勿論だよ。」


「そうか、助かる・・・そうだな・・エスト、俺が部隊に入って西門から出ていく時目が合ったのを覚えてるか?」


「うん、覚えてるよ。」


「あの後、俺たちは北西にある蛮族に襲われた村に向かったんだ・・・・・・・。」



****



ドゥーエは自分が囚われた時の話とミューレルに告げられた事実をエストに話した。


話を聞き終えたエストは、鼻から口を覆うように手を当て沈黙していた。話の内容に驚いた事もそうだったが、ミューレルとの出来事を話している最中も時折ブルッ!と体を震わせ苦しそうにしていたドゥーエの回復を待っていた。


話終えたドゥーエは項垂れながら再び『はぁ・・・はぁ・・・。』と息を整えている。


「はぁ・・はぁ・・・もう大丈夫だ。」


パッと顔を上げそう言うドゥーエに頷いたエストが口を開いた。


「今のも意志の捻じ曲げの影響?」


「ああ。」


「そうなんだ・・・。」


「教えてくれエスト。どうしてお前は『捻じ曲げ』が起こらないんだ?どうやって抵抗しているんだ?」


少し身を乗り出し、熱が籠った声でドゥーエはエストに問い掛けるが、当の本人はキョトンと首を傾げた。


「抵抗???」


あまりの反応の薄さに戸惑うドゥーエだったが話続けた。


「そ、そうだ。お前は『助言』を受けても夢を諦めてないじゃないか。」


「うん・・・え??それが抵抗なの??」


「そうだ。『女神の心あれ』に誓いを立てたものは『選定』に従う・・いや、従わざるを得なくなるはずなんだ。」


「あ!!」


「どうした?何か気づいたのか?」


「俺・・誓いを立ててなかった。」


「は!?!?!?!?!?!?!?」


「俺・・洗礼の時、誓いの前に意識失っちゃって、目覚めたら『家業を継ぎなさい』って言われて終わりだったんだ。」


「え?は???な・・・・は??・・・は????」


「ちょっとドゥーエ落ち着いて。」


小刻みに上下左右に首を動かしながら「は?」を繰り返しているドゥーエの視界を追いながら、エストは手を振り何とか落ち着かせようとするが


「これが落ち着いていられるか!?!?!?は?誓いを立ててない?だから『捻じ曲げ』も起こらないってか!?!?!?何じゃそりゃ!?!?!?こちとら『意思の捻じ曲げ』に抵抗するのに毎回放電して一苦労だってのに・・いや、それはいい!まったくお前は昔からそうだったよな!そういうイベントの毎に熱出したり怪我したり、遠足の時なんかお前来なくてギャン泣きしたカリンにイリーナ大変だったんだぞ!!」


と、捲し立てられた。まったく関係ない事まで持ち出されながら・・・。


「いや・・あの・・そんな昔の事を言われても・・・」


襟元を掴まれ苦笑いを浮かべるエストに気づき、我に返ったドゥーエは顔を赤くすると静かに掴んでいたエストの襟元を整え少し後退した。


「す・・・すまん。動揺して・・。」


「ぶ!!!」


「何だよ!」


「だって、急に捲し立てられてビックリしたから。ククッ・・それにカリンがギャン泣きでイリーナ大変って・・・確かに2人には悪い事したけど・・・今それ言う??ブフッツ!!あはははははは!」


「そうだよな・・・興奮して昔の事まで・・・ブッ!!ははは!」


「「あはははははははははは!!!!」」



しばらく笑い合い場が和んだ事に微笑んだドゥーエは、笑い涙を擦っているエストに視線を向けると座り直し姿勢を正した。


「エスト・・頼みがあるんだ。聞いてくれるか?」


「うん。勿論だよ。」




****




その頃、ラビナ鉱山で一つの事件が起こっていた。


それは発掘を手伝っていたアリエナの騎士数名により、鉱夫たちが惨殺されたというものであった。


原因は長期の発掘作業によるノイローゼ・・・とされたが、その真実が明らかになる事は無かった。鉱夫たちを惨殺した騎士数名は、駆けつけたイヴァリアの騎士によりその場で処刑されたからだ。


「励まし合いながら一緒に頑張ってたというのに・・・どうして・・・。」


悲しみに包まれた採掘場から遺体が運び出されている頃・・・・・・ラビナ鉱山を発った馬車が暗闇に紛れていった。


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