第62話 アルスト対ライト

ライトは以前にもドイルから同じような事を言われていた。


『今のお前の行動は『ゴミ』だと罵っている人族たちと同じだけどな。』と。


しかし、それはまだルガタの死を聞く直前の出来事だった。


ふざけるな!と苛立ちドイルに怒声を上げはしたものの、ライトの心が壊れる事は無かった。人族という悪害を掃除する。


『自分は正しくて正義だ。』という思いで心を埋め尽くしていた。


しかし、幾人ものただ逃げ惑う弱き命を奪い続け、自らの誇りを壊し続けたライトに・・・荒んだライトに『お前はこの世界の害悪だ。』と突きつけたのがルガタを殺したアルストだった。



「うわぁああああああああああ!!!!!!!!!!」



幻覚だろう・・・・・だが、ライトの目には確かにアルストの後ろに、これまで殺して来た人族たちが立っている姿が映った。その顔は憎しみに満ち満ちている。



「がぁああ・・・うううううう・・・ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!おあああああああああああああああ!!!!!!(違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!!オレは悪くない!コイツがルガタを殺したからだ。コイツが悪い!!!コイツのせいだ!!!!コイツが諸悪の根源だ!!!!!!!!!!!)」


ライトは白目を剥き、両手で頭を抱えると激しく上下させ発狂した。



****



「うらぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」



血走った眼を剥き出しにしたライトが、怨みを込めて大きく振りかぶった剣を打ち下ろした。



ライトの細長い剣は、その心を映すかのように歪に湾曲していた。


(流石に動きは速いな・・・・。)


そう感じながら足元を固めて剣の軌道が見えていたアルストは


ガイン!!



「くそぉおおおおおおおおおおおお!!!」



その一振りを弾き返した。



「お!?」



剣を弾き返したアルストは、態勢が崩れるその隙に腕のひとつでも斬り落とそうと構えるも、ライトは弾かれた勢いを利用して側転や後転をしながらアルストから距離を取った。


「何だ。激昂したかと思えばまぁまぁ冷静じゃないか。それに今のままではあのスピードに付いていけないな・・・。」


息を吐き、アルストがそう呟いた・・・その呟きの声はライトには届かない。



「ぐぅ・・・・・・・・・・・・・・。」



剣を弾かれたライトは顔を歪めていた。手に残ったしびれる感触は、バスチェナと戦った時のそれと酷似していたからだった。


「うるぁああああああああああああああああああ!!!!」


歯を食いしばりそれを認めたくなかったライトは、飛び上がって発狂すると『炎弾flame bullet』を連続でアルストに投げつける。




ドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



数多の炎の弾がアルストを襲う。


地面に着弾する激しい音と共に夥しいほどの煙が舞い上がった。



「どうだぁああああ!!」



着地してそう吠えたライトが、アルストが居た場所に視線を向けるも風に流され煙が晴れたその場所にはアルスト姿が無かった。


「!?!?!?」


背後に気配を感じたライトが振り返ると「お返しだ。」と口にしたアルストが両手に炎を纏わせていた。



火炎放射Flamethrower



バッ!!!!とアルストがその両手首を合わせるとその両掌から炎が噴き出しライトを襲った。


防壁protective wall


しかしライトは自分の目前に炎の壁を作り上げ、アルストの魔法を簡単に防いだ。


以前よりイメージの通りに魔法を使えるようになってきていたアルストだったが、現時点で魔法はライトより劣っていた。



「はぁあああああああ・・・はははははははははは!!!大した事・・・あ??」



まるでアルストの炎を取り込むように魔法を防ぎ切ったライトは、思っていたより弱かったアルストの魔法に対して歪な笑顔を浮かべたが、それに対してアルストは口内の舌で頬を突き上げ右頬を膨らませながら(へぇええ!!そんな使い方もあるのか!!)とライトの魔法に関心を示していた。


「何だその目は???」


「なかなかやるなと思ってな。」


目を輝かせながら、ライトの魔法を食い入るように見ていたアルストのその目が気に食わなかったライトが苛立ちを示すと、頬を掻きながらアルストは苦笑いを浮かべ正直な感想を述べた。




「っの・・・っざけんなぁああああああああああああ!!!!!!」




が、それが逆にライトを憤怒させた。




細長い剣を一旦引き、体を深く構えたライトが大地を蹴る。


「うらぁああああああああああああ!!」


「ん!!」


ギ!ギ!ギ!ギ!ギ!ギ!ギ!ギギギギギギギギギィン!!!!


怒りのままに徐々に切りつけるスピードを上げていくライトの斬撃を、アルストは下がりながらも難無く捌いていった。魔法に関してはライトが上であったが、剣に関してはアルストの方が遥かに上だった。さらにアルストはライトの最初の一撃を弾いてすぐ『身体強化』のスキルを発動させていた。


数度の魔族との戦いの中で、通常の自分が彼らよりスピードが劣っている事を痛感していたアルストは、集落にいる騎士見習いを鍛えながらも自分の俊敏性を高めていたのだが、それでもライトの動きを目にしてスキル無しではその速さに若干劣ると判断したのはそのためだった。



「ん!!!!!!!」



ライトの連撃を防いだアルストは、またしても大きい円を描きながら歪みがら襲って来る大振りの一撃を弾き返すと、今度はすかさず剣を横に振るった。


「う!!!」


アルストの反撃を仰け反って躱そうとしたライトだったが、その剣はライトの顎にザクッ!と浅い傷を作った。



「チッ!!!」



ポタッ・・ポタッ・・・と地にライトの血が滴り落ちた。



「ふぅぅ・・・・。(何とかなりそうだな。)」



舌打ちし顎の傷を押さえながら後方に跳んで距離を取ったライトに対し、深呼吸したアルストはそう思いながら再び剣を構え・・そして少し微笑みを見せた。



「くそ!!!何もう勝った気でいやがる!!!」



その表情を目にしてアルストの心情を察したライトは憎々し気に怒声を上げた。



(うっ・・・顔に出てたのか??それは気を付けないといけないな・・・。)



ライトの怒声に目を丸くしたアルストは顔をブンブン!と左右に振り、片手で顔を揉み解した。


その後、首を左右に傾げて骨をコキッ!コキッ!と鳴らし、一度軽く跳び上がったアルストは、剣を構えるなり走り出した。


「ん!!!!!!!」


「くっ!!」


アルストの横薙ぎを剣で受けるも、力負けして後退ったライトは目も口もいびつに歪んでいた。


「くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!くそ!」



自分より力強く動きも素早い・・・その事を認めたくない・・・認める事が出来ないライトは狂ったように打ち返すが


「くおおお!!!う!?・・・・・・・うらぁあああああ!ぐ!?」


その剣が軽く弾かれる度、ライトの体に傷が増えていった。




「このぉおお・・ゴミは灰になりやがれぇ!!!!!!」



またしても軽く剣を弾かれ体勢を崩したライトは、何とか踏ん張り渾身の力を込めて左手を突き出した。


『業火!!!!』


ボォアアアアアアアアアア!!


ライトの手から激しく噴き上がった炎がアルストを燃やし尽くさんと襲いかかる・・・が、


「な!?!?!?」


「ぬぅううううう・・・・。」


アルストは自分の目前に火の壁を作り上げた。


「う・・ぅぬぅうううううううう・・・・!?」


しかし、アルストの壁は先程ライトが作ってみせた炎の壁より厚さが薄い・・・・それ故徐々にライトの炎に圧され始める。


ボァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!


大蛇の如くアルストを飲み込もうとする炎に耐えきれなくなった壁が弾けた。


「うあっ!!」


その勢いでアルストは後方に吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと横転するも横転する勢いを利用して立ち上がるとすぐ様剣を構えた。


腕や足に若干火傷の痕があるものの、まともに喰らうより断然良い結果だった。


「ふぅう・・・初めてにしてはまずまずかな。」


「な、何なんだ・・・お前は・・・。」


ライトは自分の渾身の魔法を受けながら、『ふぅ。』と涼しい顔をしているアルストを憎々しげに睨みつけていた。

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