Ep20:「急な試練」
「お袋とリアさん、んでレアさんまで・・・何を言うかと思えば・・・。」
「すまない。勝手な頼みということは分かってはいるが、まぁお前も村を出たいと言っていたし、どうだろうか。」
「・・・」
しばらく無言が続いた。そしてゼキが何かを言おうとしたとき。
ゴゴォン
外から大きな音が響いた。場所はかなり遠いようだ。
「何だ・・・??」
ルアが窓の外を見ながら言った。
すると部屋の扉が急に開きザキが入ってきた。
「ルア様!マク―です。村から約1キロ程度のところに!」
「マクー!?中級モンスターがなぜそのようなところに・・・。発生したのか?」
「わかりません。ですが結界内での発生は考えにくく・・・何者かの手引があったか・・・」
ザキはユーキたちをチラッと見ながら言った。
「ザキ!!失礼にもほどがあるぞ!彼らは手引などしない!理由がないからな。」
かばうルアに対しユーキはありがとうとお礼を言った。
「マク―ってなんだ?中級モンスターの発生って?」
ユーキはルアに質問した。
「すまないが詳しい話はあとだ。村から1キロとはいえ、マクーなどの中級モンスターにとってこの村は"範囲内"だ。」
そう言うとルアは部屋の端に行き棚から薙刀を取り出した。
「すぐに向かう。基本的には転送で対応するが、相手はマク―。討伐も視野に入れて対処する。ついてこい。」
「は。」
ルアはそのまま部屋から出ようとする。
「君たちはここで待っていてくれ。すぐに戻る。」
するとゼキが切り出した。
「待て!ルア。」
「お、おマッ。ルア"様"と!何度・・・」
ザキは慌てたように言った。
「ザキ。良い。何だ?」
「俺がコイツらに強力して村から出て・・・ソーン樹海に行くって話だが・・・」
「な、ど、どういうことですか・・・?ルア様。」
状況をつかめないザキがルアに聞いた。
「後で説明する。・・・でソレがどうした。今は関係ないはずだが・・・?」
「いーや関係大ありだ。今回俺がついていくことのメリットは島を出れることだ。でも・・・島を出る前に死んでしまうなんてことは本末転倒だろう?」
「・・・何が言いたい?」
じろりとゼキを見ながらルアは聞いた。
「・・・わかんだろ。マク―程度のモンスターに苦戦するような輩とは旅は出来ないって言ってんだ。」
ユーキはやっと理解した。マクーを討伐しろと言っているんだ。3人で。
「馬鹿なことを・・・」
「いや!・・いい。」
ショウが遮るように言った。
「つまり。ゼキ・・・くん?」
「ゼキさん!だろうが!!おい。年上にはさんをつけろやこら。」
ショウのこめかみがピクピクと動いた気がした。
「す、すまない。ゼキさん。いや、どうにも見た目がその、年上には見えなくてね・・・あぁ、誉め言葉だよ。」
嫌味たっぷりに聞こえた。
「おぉ。まぁわかればいいんだよ。」
今にも叫びだしそうなくらいショウのこめかみが震えていた。
「つ、つまりだ。ゼキさん。マクーを私たちだけで倒すことができたら、君が旅に同行してくれる・・・ということでいいか?」
「あぁ。いいぜ。男に二言はねぇ。」
「と、いうことだ。ルア。マクーの討伐は私たちに任せてもらおう。」
「そんな・・・。中級とは言えマクーはかなり強敵だぞ。」
ルアは心配そうに聞いてきた。
「大丈夫。私は曲がりなりにも村長だったものだ。それにレンはディズの息子。中級のAランク程度なら軽くいなせるはずだ。」
「あぁ。速攻で倒してやるぜ。」
ルアはなおも心配そうにしていたが、ユーキは内心汗だらだらだった。
念のため、村の討伐隊も同行し、ルアの転送魔法でマクーが居ると思われる場所の近くまで移動した。
「では、ショウ。頼むぞ。」
そういわれるとショウとレンは前に歩き始めた。
ユーキは我関せずと二人を見送っていたが・・・
「何をしているユーキ?行くぞ?」
「お、おう。」
二人で行けよ!お前らが勝手に決めたんだから!とは言えず、、、
前を歩いていく二人に近づき、ユーキは小声で聞いた。
「な、なぁ。俺低級モンスターで死にそうになったんだが・・・今回はお前らでやってくれるんだよな?なぁ?」
するとレンが答えた。
「まぁさすがに今回は俺がやるよ。いいよな?ショウ。」
ショウは横に首を振った。
「いや、今回はユーキも一緒に戦ってもらう。いい機会だ。このままソーン樹海に行くにしても経験がなさすぎる。私たちとの連携も慣れておかなくては。」
冷汗が垂れてきた。
「お、俺死んじゃわないよね?」
「ショウ。確かに慣れることは大切だけどユーキがマクーと戦えるとは思えない。ましてや今回はあっさりにでも倒した方がゼキの心象もいいんじゃない?」
ナイスレン!
「いや、だめだ。ソーン樹海までに中級モンスターは基本的にはいない。今回マクーがここに出たことは私も驚いている。かなり珍しい。ここで経験を積むことは必須と考える。」
そのままショウはつづける。
「確かに今のユーキにはマクーを倒すほどの力はない。だから今回はあくまでサポートに徹してもらう。倒すのは私かレンでやる。」
「なるほどね。オッケー。作戦とか立てる?」
「いや。実戦はいつも急だ。今回は場の適応能力経験も積みたい。」
「待て待て、本当に言ってんのか?俺が死んだら旅にも影響が出るんじゃないのか?」
ショウはゆっくりと微笑んだ。
「大丈夫。絶対に死なせない。私たちをなめるな。中級程度のモンスターに苦戦という文字はない。」
「いや、頼りになるけど・・・」
やはり一抹の不安は消えない。
3人はマクーの痕跡を探しながら森を歩いた。
「そういえば、さっき中級モンスターのAランク・・・とかなんとか言ってたけどどういうことだ?」
思い出したかのようにユーキが聞いた。
「あぁ。言ってなかったね。モンスターには低級、中級、上級、超級とあるがそれぞれにランクがある。Cランク、Bランク、Aランク、Sランクと細分化されている。低級のSランクの一つ上が中級のCランクになる。」
なるほど・・・と声に出すユーキ。
「超級はSランクの上にSSとSSSランクがあるよ。」
「果てしないなぁ。ちなみにタンゴと今回のマクーはどのランクに属するんだ?」
するとショウは少し考えながら答えた。
「んー。個体差があるからな。タンゴは基本的には低級のBランクかな。マクーは中級のBランクって感じかな。」
「大丈夫か・・・俺ほんと・・・。・・・リヴァイアサンはどうなんだ?」
またしてもショウは少し考えるように答えた。
「ンー。前にも少し話したんだけど。リヴァイアサンはモンスターじゃないんだ。それに計り知れない・・というより本当にわからない。戦ったことがないからね。」
「モンスターじゃない?」
「まぁ難しい話はあとにしよう。今はマクーに気を集中して。いつどこから現れるかわからないよ。」
しばらく三人は黙ったまま森を歩きつづけた。
するとどこからともなく声が聞こえてきた。ゼキだ。
「ったく。お前ら魔祖感知もできねぇのか?14時の方向に進めばいるぞ。」
討伐隊やルア、ゼキは気配を消して着いて来ているようだ。
「・・・いちいち癇に障るやつだが、確かに、私もレンも感知能力が薄い。ありがたい助言だ。」
ゼキに言われるまま、14時の方向に3人は進んだ。
本当にいるののだろうか?そんなに強いモンスターが。そう思わせるほど静かな森だった。
「ユーキ!よけろ!!」
レンが急に叫んだかと思うと思い切り突進してきた。
間一髪。何かサッカーボールくらいのものが頭をかすめていった。
それは後ろの木を何本もなぎ倒して森の奥に消えていった。
「ぐっ。あ、ありがとう。」
「気をつけろ。気を張り詰めなきゃ死んじゃうぞ。」
かなり神妙な面持ちで答えるレン。
「今のはなんだ。マクーの攻撃か?」
「今のがマクーだ。奴はゴリゴリの肉弾戦。突進や殴打を繰り出す。中でも突進が厄介で、スピードが桁違いだ。」
-今のがマクー・・・?-
「いや、よく見てたか?俺もあんまり見えた方じゃないけど、これくらいの大きさだったぞ?」
サッカーボールくらいの大きさを手で表しながらユーキが言った。
「何言って・・・あぁ、そうかマクーの特徴を教えてなかったな。」
「マクーは小さなぬいぐるみみたいな大きさだよ。中級って聞いて大きい動物を想像した?」
笑いながらショウが聞いてきた。
「おっしゃる通り・・・。」
その小さなぬいぐるみがあんなに木をなぎ倒して・・・・。
生唾を飲み込むユーキ。
「おい、おい、まじか。大丈夫かよ。マクーごときに苦戦してるような奴らと旅はできねぇなぁ。」
嫌味たっぷりなゼキの声が聞こえてきた。
-いちいちイラつくやつだな。ほんとに!-
「気にするな。ベストを尽くそう。」
ショウが肩を軽く叩きながら言った。体が軽くなっていき、擦り傷がなくなっていく。回復魔法だ。
「ありがとう・・・だけど・・・。」
こういう感じは好きじゃない。自分が足を引っ張ている。チームのメンバーに迷惑をかけたくない・・・。
「来るぞ。」
レンが小さな声で言った。
目の前に立ち込める砂ぼこりに小さな影が浮かぶ。
「まずは自分の役割を確認しよう。レンは戦闘 兼 強化支援。私は戦闘支援 兼 回復。そしてユーキは弱体支援だ。」
ショウは計反で確認した色で役割を分けた。
「なるほど。わかりやすいな。」
弱体支援。デバフ。ゲームなどで弱体効果はイメージはできるが・・・
-どうやって防御力を下げるんだ・・・?-
考えているうちにマクーが姿を現した。この時ユーキは初めて姿を見た。
「え・・・?」
目の前にはぬいぐるみくらいの大きさの、"ぬいぐるみ"だった。
「なんだこれ。ぬいぐるみじゃんか。熊の!」
「くるぞ。集中しー」
レンが言い終わる前にマクーは突進してきた。ものすごい速さだ。
-けど・・・-
今度はマクーを目の前に捉えていたためか、容易によけられた。
「っは!余裕で避けられた!」
簡単によけられたことに喜びを隠せないユーキ。
「俺がお前の目と体に軽く強化をかけたからだよ!!油断するなって言ったろ!」
その真実にがっかりするユーキ。
「・・・けどありがとう。助かる。」
話しながらもユーキはマクーから目を離さなかった。
見える。目がよくなったような感じ。細かい砂ぼこりの一粒一粒まで目を凝らせば見えてくる。
「強化支援か・・・。俺も弱体支援しなきゃ。」
「あくまで今回はユーキの経験を積むってのが目的だから・・・ユーキは弱体かけることと攻撃をよけることに専念して。」
俺たちでサポートするからと言い残しレンは森に消えていった。気がつけばショウも近くにいなかった。
タンゴの時と同じ。多分本気でやばいときは助けてくれるんだろう。でも・・・つまりは本気でやばくなるまでは助けてくれない。
「あー。この世界での生き方というか、進み方というか。肝くくらなきゃ。ほんとに俺自身が強くならなきゃ・・・」
砂ぼこりの中からゆっくりと出てきたマクーを目で見据えながらつぶやくように言った。
またしても物凄いスピードで突進してくるマクー。
-でも。いつレンの強化魔法がなくなるかわからない。早めに弱体をかけないと。-
マクーの突進を問題なくよけるユーキ。
-弱体か。まずはこのスピードをどうにかしないとだな。でもどうやって・・・?闇属性の魔法は色が関係ないとはいえ・・・星の力で。イメージするだけで実現できる力で・・・-
奥からゆっくり歩いてくるマクーに向けユーキは魔法を放つ。
「属性は闇!星の力・・・ジャミング・足!!」
とりあえず名前は適当に考えた。
しかし
「あれ・・・」
そのままマクーは突進してきた。スピードは遅くなったような感じはしない。
「なんでっ・・・だ?」
マクーをよけながらつぶやく。
おかしい。力が手から放たれた感じはあった。
試しに手から水の剣を出してみた。ユーキの手に煌めく水の剣が現れた。
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それを少し遠くから眺めていたゼキ。
「ん?ありゃあ・・・レアさんもどき。えげつないことしやがる。どんな魔祖コントロールしてんだ。どうやって・・・」
驚きを隠せないゼキ。
「あいつを観察してみるか・・・」
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「やっぱり出る。イメージしただけで。」
今度はかなり奥の方まで突進していったのか、いまだ見えてこないマクー。
ユーキは次に火の剣をイメージしながら手に星の力を込めてみた。
すると手から火が・・・出ない!!
「な、なんで・・・?」
「ユーキ!!危ない!!」
ショウの声が聞こえた気がした。
しかし聞こえたと、考えた瞬間には横腹に衝撃を感じていた。
途端に視界がぐるぐるとすごい勢いで回り、背中が木に打ち付けられたのが分かった。
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