トルマリンの石言葉は「忍耐」3
「秋芽さん良いですかそっとですよそっと、ペーパーナイフで紙を切るくらいの気持ちでやってくださいね」
「ペーパーナイフで紙を切ったことないからわからない!」
唖然
この大親友はペーパーナイフを使ったことが無かった。
そういえばと記憶の中をまさぐっていると母、春菊から日本でペーパーナイフを使う習慣のある家庭は少ないと、否ヨーロッパでもあまり見ないものだ。
だがそこそこの実業家や公式の場で手紙を開く際のオシャレという名目で普及していた。
「じゃあせめてカッターなどを使うくらいのやさしさで!」
「わかったカッターだね!」
「あ、やべ」
忍先生から恐ろしい声が聞こえた。
振り向いた瞬間に
————————スパッ————————
今宵(昼です)、ステンレス製のシンクが斬れた。
理論上モース硬度で言えばステンレスは5鋼のモース硬度は平均6、理論上切れるというものだ。
斬鉄剣も机上の理論、空想上のものとして扱われてきたが鍛冶技術はオーパーツ並みの技術になっているため無いとは言い切れないのもまた事実、どこぞアニメのようにさらっとつまらぬものを切ってしまった秋芽さんはやっちゃたというような顔をしていた。
「秋芽、あとで弁償しておけよ。それまで先生のなけなしの給料で弁償しておくから」
「先生!これ!鋼ですよ!鋼だったらなんでも切れちゃうんですけど!」
「いやあ懇意にしている金物屋に頼んだら鋼しか置いてないって言うから買ったんだがすまないな。秋芽に関しては家庭教諭から針すら持たすなと言われていたことを忘れていた」
「先生ごめんなさい!でも弁償ですか!生徒会の経費から引いても良いですか!」
「さらっと横領するなと言いたいところだがそこは学校と要相談だ。経理に頼んで来い!」
すると秋芽さんの目が私から蒼汰さんに向いた。
私も詳しくは知らないが中学が一緒で何かしらの関りがあったらしく来夢さんのような尊敬交じりの恋のように見えた。
私のように蒼汰さんを自分色に染め上げようとすることはしないが自分のペースに飲み込ませようとはしているように見えるので来夢さんよりも強引だが同じく昔を知っているという点で蒼汰さんとの距離感を知っている節がある。
おそらく現時点での脅威度は限りなく高いだろう。
蒼汰さんはゲーマー型のオタク、ほぼ同棲の生活をしているので蒼汰さんがどのようなやり方をしているのかは従順理解している。
ゲームの配信とは別にオンラインのフレンドと遊んでいるときがあったのでその際多少のボイスチャットなどで対応している。
その時の声は私と話す時よりもすごく言葉が弾んでいたのをよく覚えている。
つまりは趣味のことなら饒舌に語れる半陽キャ型オタク、話題にさえ事欠かなければ自然と会話は弾み認め合うことができる仲に成れるだろう。
私もゲームやアニメ、ライトノベル小説などのオタク文化に触れてはいるが蒼汰さんのレベルには程遠く花言葉についても学んでいるので中々手が回らない。
勉強、経営に加えて好きな人のことを学ぶ。
苦痛ではないがバルタザールのような家族と仕事と自分の趣味と友人関係を両立することが如何に難しくも調整していた有能さに惚れ惚れした。
それだけ事柄が増えれば増えるほど大変になっていきどれか一つが抜け落ちそうになってしまう。
人間欲張っては良い結果にならないと母に習ってはいるがどれもこれも私には必要だし恋愛も友情も充実させたい若者ならではの欲望が渦巻いていた。
私のグループの社員でも家族と仕事の両立が難しいと言った相談があるのも頷けるがそれだけ自分を充実にしたいのなら寝る時間を削っていくしかないように思えた。
特に日本だと良く相談されるのでいっそ本社と同じような勤務体系にしたら改善が見られているので一先ずはそれで良しとしている。
いわゆる家族の時間に仕事を持ち込むという行為だ。
ヨーロッパやアメリカでは夏季や冬季に長い休み、バカンスを取りながら外出先で仕事をして貰っている。
これなら期限までに仕事を終わらせればいいし家で仕事をしているのを私が当たり前だったのもあってある程度は機能していた。
日本の家族からクレーム相談もあったがそれは家で夫に仕事をさせたくない妻たちのお小言だった。
そのクレームに関しては私は職場のように静かでなければ仕事ができない筈が無いと説教しつつ、職場内ではあえて掃除機や炊事の音を流すことにしていた。
また赤ん坊の泣き声なども不定期に流しその際はすぐに席を立つようにと心がけさせた。
そうしてできた社則は家族サービスの改善に大いに役立った。
私も蒼汰さんの前で仕事はするし蒼汰さんも私の前で仕事をする。
だが日本人の考え方で言えば来夢さんのような人は男性にとって都合がいい人だ。
そしてその距離感もわかりつつ自分の色を出す秋芽さんは衝突もあるかもしれないがいい家庭になりそうと言えるだろう。
私は完全に海外の思考だから蒼汰さんにとってどのような未来が見えるかは完全未知数な気もする。
その差が蒼汰さんとのゴールインの運命を変えるように感じた。
「蒼汰君!お願い交渉して!」
「とりあえずみんなに謝ろうね」
「はい!」
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