Part.2
「何で貴方まで行く事になってんですか!連れて行くなんて言ってませんよ?僕は!」
「えぇ?!何で連れて行かないんだよ。連れて行かないだけに連れないってか?」
「考えなきゃならないようなギャグ言わないで下さいよ」
「…スンマセン」
「って、そう言う話じゃ無かったですよね?兎も角、八神さんは留守番ですから!」
二つ並んだキャリーケースの前で、秋山は八神の前に呆れた顔で仁王立ちしていたが、すっかり秋山の実家に行く気になっていた八神は信じられないと言う顔で駄々をこねていた。
「こんな所で俺に一人で年末年始を迎えろって言うのか?そりゃないよ先生!そりゃ鬼というもんだ。ほら、もう荷造りもしてあるんだし、オシャレもしたし、準備はバッチリだ!行こうぜ先生!一人じゃつまらんぞ?」
確かに見れば置いて行くのが可哀想なほど、行く気満々な八神は、二人分の荷物を一手に引き受け、呆気に取られている秋山を置いて、店の裏の勝手口から寒空へとさっさと歩き出してしまっていた。強引に押し切られる形で、こうして男二人での里帰りとなったのだ。
「で、最初は何線だ?」
「車ですよ」
「え?先生は免許持ってんのか。って言うか、車あるのか!」
そう。車はあった。あるにはあったが…。
「何でこんなに遠いんだ?車ってすぐに乗れて便利だからあるんじゃ無いのか?」
八神が文句を垂れるのも頷ける。店を出てからすでに20分も歩いていた。真冬の朝の冷たい空気に耳まで赤くしながら秋山と八神は黙々と歩いていた。
「中心街は駐車場高いんですよ。このくらい外れの方だから僕でも車が持てるんです」
「俺は先生が車に乗ってるの見たことないぞ?少なくとも一年は乗ってないだろう。どのくらい乗ってないんだ?」
「三年です」
「だ、大丈夫なのか?」
「この前エンジンかかりましたから、動きますよ」
「いや、そうじゃ無くて…」
秋山の車はスズキのラパン。水色のボディに白い屋根のツートンカラー。一目瞭然の女の子車だ。内装はと言うと、これまた女子力の高い内装で、とても男が好みそうには思えない。
八神の心配を他所に、秋山の車は一路北へ向けて発進していた。
「これ、先生の趣味なのか」
「違いますよ、お客さんで前のオーナーの趣味です。なんたって25万の代物です。内装なんてどうでも良かったんで」
「それって思い切り事故物件の臭いがするんだがァァァ〜っ!!先生!スピードスピード!」
秋山は意外とスピード狂である事が判明した日の午後には二人は実家のある某県に着いていた。
トンネルを抜けるとそこは雪国だった。
そんな小説の一節を思い起こさせるような一面の銀世界であった。
秋山の実家は、県庁所在地から少し離れた長閑な小さい町だった。
秋山は駅前のビジネスホテルの駐車場へと車を入れた。
「あれ、実家に泊まるんじゃねぇの」
すっかり実家に泊まれると思っていた八神が不思議そうな顔をした。
秋山はそんな八神を他所に、荷物を外に運び出していた。
「実家には叔母夫婦がいるんで…」
濁された言葉に、何やら叔母と甥っ子の関係性が見えて来た八神だった。
部屋は元々秋山が一人で来る予定だったのでセミダブルの部屋になった。フロントでせめてツインにしてくれと泣きつく秋山の願いは、帰省の多いこの時期の、小さなホテルにはキャパオーバーで、この日は他に空きがなかったのだ。
「先生!来て見なよ。フカフカだぜ?このベッドいつもの煎餅布団とは大違いだ」
部屋に入るなりベッドへとダイブする八神とは対照的に、さっきから秋山の表情はすぐれなかった。そんな秋山の手首を掴んで秋山が強引にベッドの上へと引っ張った。
「あっ…!、や、八神さん、」
寝そべる八神の脇へと秋山は不意に転がされた。焦って起きあがろうとする胸に、ズシンと八神の重たい腕がブロックして来る。
「良いじゃねぇか、滅多に無いシチュエーションだぜ?楽しもうぜ?先生」
「どどどう楽しむって言うんですかっ!」
八神相手に今の質問の仕方が悪かった。図に載った八神がころりと秋山の上へと乗ってきた。
「どう?ハハハハハ!どう楽しむと思うんだ?先生は」
八神の声に艶が帯びる。秋山を見つめる眼差しも違う。何処か雄臭さを醸すような八神に秋山は胸の鼓動を早めていた。
「顔が赤いぞ?どうした。言ってみろよ、うん?」
「あ、赤くなんて、あ、ありませんよっ」
こう言うモードにスイッチした時の八神は恐ろしい。その視線や声だけでイキそうになってしまう事が、この一年間秋山には何度もあった。今度こそは、八神に許してしまうのかといつも身を固くする。
そうすると、八神はどんなに盛っていたとしても、ギリギリまで秋山を追い込んだとしても、肝心な所ではちゃんとやめてくれるのだ。
だが今日はホテルと言う雰囲気も手伝っているのか強引に唇を奪いに来た。
「…やがみ、さ、…ん、ふっ、」
八神の口付けは巧妙だった。口の中の性感帯を良く知った上で攻めて来るものだから始末が悪い。まだ若い秋山の身体は自然の摂理には抵抗は出来ない。
身体の中心が熱くなって行くのを秋山は禁じえなかった。八神の手が下肢へと伸びて来る頃にはすっかり息が荒ぶり、このままどうとでもなれば良いと思った瞬間、ぱっと電気が消えたのだ。
「うわぁぁっ!」
秋山が悲鳴を上げていた。
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