第6話 思考が読めない先輩


 志保先輩は熱烈に俺にラブコールをしてくる。急にパンツを渡されてから告白をされて、付き合うって言ってもないけど毎日俺に会いにくる。志保先輩だって女の子だし可愛いから邪険に扱うことはできないから、こうやってどんどんドツボにハマっている気がするんだけど。


「なぁ、白瀬しらせ。どう思うこの状況?」

「玉の輿に乗れるなら願ってもないんじゃない?」

「いや、これ確実に罠じゃない? なんかの罰ゲームじゃない? 後から黒い服着た強面の人とか来るんじゃないの?」

「アタシには関係ないし」

「いや、俺本気で悩んでるんだけど……」

「ってか、なんでアタシに聞いてくんの?」

「他に聞く人いないからだよ」


 この甘い香り漂う空間は俺の部屋なんかじゃない。年頃の女の子の部屋に俺は上がり込んでいて、シチュエーションだけ見れば美味しい展開かもしれんが、この真面目に切羽詰まった状態ではやましい考えなんか一切湧いてこない。ってかそんな怪訝な表情しなくても良くないですかね、白瀬さん?


 黒井くろい白瀬しらせ

 見た面はつり目のギャル。俺との関係性は幼馴染、ってよりは腐れ縁だな。幼い頃から一緒になんかいないし、交友関係も俺たちじゃなく親同士が仲良かったってだけ。俺は白瀬の連絡先する知らないからな。今日だって白瀬に相談する為に白瀬のお母さんに断りを入れてここへやってきたんだからな。せめてもの救いが、まだ部屋に入れてくれるくらいには評価が下がってないって事だ。


「どうでもいいけど、普通に話せば済む話じゃないの?」

「普通に丁寧に断ってもこの様だよ。会話で説得できる相手じゃない」

「じゃあ無理じゃん。諦めなよ」

「逃げ場ないなんてそんな展開ある?」

「アタシには関係ないし」


 誰にも頼れないから最終手段を使ったが、それでも白瀬は俺と視線すら合わせてもらえず、まともに取り合ってももらえない。俺は力なく立ち上がり、白瀬の部屋を出ていこうとした。


「ただ、不自然だと思うなら何か意味があるんじゃない」

「意味がある?」

「あんたに付きまとう理由があるかもしれないって事。ってかもう用ないんだから早く出てってよ」

「あ、はい……」


 早く帰れと言われ速やかに退散する。相変わらず俺に対して手厳しい白瀬だったが、最後の最後でヒント的なのをくれた。


「理由ねぇ」


 俺の頭で考えたって志保先輩の思考を読むことなんてできない。第一金持ちの令嬢の志保先輩が一般人の、しかも俺に告白をしなきゃいけない理由なんてちっとも思い浮かばないんですけど。


 白瀬のお母さんに挨拶をしてから自宅に戻る。どんなに考えてもどんなに仮説を立てても無理だ。クラスでいじめられてて罰ゲームでって、志保先輩はそんな人ではないと思うし、実は俺の家は金持ち? そんなことはない。なら実は志保先輩の家族と面識があるとか? いや、そんな話も聞いたことがない。いくら考えても俺と志保先輩が繋がる理由が見つからなかった。






 ▼





 いつものようにクラスで昼食を食べると周りからの視線が痛いので、人目の付かない体育館裏のベンチで俺は志保先輩と昼食をとっていた。


「志保先輩、一ついいですか?」

「やっと付き合う気になってくれた?」

「いや、そんな事はないんですけど。志保先輩って俺のどこに惚れたんですか?」

「一目惚れよ」

「俺のどこに一目惚れしたんですか?」

「1人でいたか」

「はい?」

「キミは友達いないでしょ? いるかもしれないけど極端に少ない。いつも1人で居て親近感が湧いたの」

「お、おう……」

「それから告白して話していくにつれて、声が好きになってなんだかんだ言いながら私と接してくれるキミに明確的な好意を抱いた」

「前半部分があまり認めたくないんですが……」


 よく分からない一目惚れの仕方だけど、理屈的には間違ってはいない。いや、間違ってはいるんだけどね。


「前にも言いましたけど、俺と志保先輩じゃ釣り合わないんですよ」

「それがどうかしたの?」

「それがって、志保先輩にとっては重要だと思うんですけど」

「どうして?」

「いや、そりゃあ……」


 金持ちなら金持ち同士ってのがセオリーだと思うし、それこそ医者の息子とか大企業のエリートとか。俺なんか平凡だし将来なんかまだ分からないし。そんな志保先輩と肩を並べるくらいのお金持ちの人達と自分を比べるとやっぱり答えは否定的になってしまう。


「その方が志保先輩も幸せになれると思うんですけど」

「そう、私の幸せを願ってくれるのね。キミは」

「そりゃそうですよ」

「私が望む幸せはキミと一緒になること。それ以外にあり得ないわ」

「いや、だから――」

「誰かに決められて将来で、誰かに決められて道を重ねて歩くのはイヤ。私は私なの。家がどうだとか家系がどうだとか関係ない。私は普通に高校に通って、普通に恋をして、自分の好きな人と将来を過ごしたい」

「志保先輩……」

「私の今の気持ち、それを聞いてもキミはまだキミが思う私の幸せを押し付けるの?」


 持つ者の苦労とでも言った方がよいのだろうか。志保先輩は相変わらずの無表情で語ってくれたけど、その声音には悲しさや苦しさが伴っていたと思う。けど、志保先輩の理屈を言うなら、俺にだって俺が望む人と付き合いたい。志保先輩は可愛いし美人だし勉強だって教えてくれるけど、今の俺の1番の人じゃない。


「俺だって自分が心に決めた人と付き合いたいですよ。それこそ志保先輩の抱く感情と同じように。志保先輩のすべてを理解できるわけじゃないけど、その感情は同じですし理解できます」

「そうね、確かに私もキミに押し付けをしていたわ。ごめんなさい。反省するわ」


 今日の志保先輩は素直に謝罪をしてきた。こう素直に謝られるとなんだか悪いことをした気分になってしまうのは俺だけだろうか? 


「反省のお詫びをあげるわ。キミは何色が好き?」

「好きな色ですか? 水色とかですかね」

「そう。今日は水色じゃないけど、我慢してね」


 そう言いながら志保先輩は座っていたベンチから立ち上がり俺の前に立ち始めた。何をするのかと思った矢先に志保先輩は自らの制服のスカートを捲り上げて、色白い太ももを経ての白いパンツを見せてきた。え……? いいの……? いや、良くないでしょ? ってか志保先輩もなんだか顔を赤らめてるし、恥ずかしいと思うならやらなきゃいいんじゃないですかね? お詫びってよりもご褒美だしありがとうございます。


「ちょ……先輩なにしてんすか……?」

「お詫びをかねて色仕掛けよ」

「いや、ちょっと待って下さい……」

「嫌いなの? パンツ」

「嫌いじゃないですけど……」

「なら、いいじゃない」

「いいんですかね……?」


 いや、良くないだろ! 文句やらお説教やらいろいろと言いたい事はあるけど、さっきの白いパンツのせいで思考が上手くまとまらないんですよ……俺の先輩はやっぱりどこかおかしい人だった。





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《令和コソコソ噂話》


 第6話読了してくださりありがとうございました! 


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