Chapter4-PHOENIX GEAR/無敵時間

 ***


 快晴の空の下太陽の光を一身に受け、赤き不死鳥の戦士ーーフェニックスギアは溢れるばかりの創成因子ホビアニウムを纏いフィールド上に佇んでいた。



「フェニックスギアの姿が変化したァーーッ! それにブラッディージョーズから受けた傷がキレイさっぱり無くなっているぞォーーッ!?」



『オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!』



「あれがフェニックスギアの真の力! 肉眼で視認出来るほど純度の高い創成因子ホビアニウムを生み出すなんて……あの太陽光吸収機関ソルブレイザーとかいう固有ユニット絶対普通じゃないわ!」




 観客の誰もが驚きを隠せなかった。

 そして目を離せなかった。

 その雄々しくも神々しい不死鳥の姿から。



「行くぞ!」



『おう!』



 刹那フェニックスギアの姿が消えた。

 それに遅れるようにジェット機のエンジンを吹かしたような轟音とともにブラッディージョーズが大きく後方に吹っ飛ばされた。



「ブ、ブラッディージョーズ!」



 右から左へ、左から右へ。



 四方八方から見えない何かがブラッディージョーズを攻撃し、それに合わせて機体から多量の血を噴き出し続けていた。


 ギアフィールドが赤い血で染まっていく一方で、目にも止まらぬ速度で動くが通る度地面に付着した血が蒸発し、赤い創成因子ホビアニウムがひこうき雲のように空中で煌めいた。



「すごい! すごすぎるぞフェニックスギア! 音すら追いつけない程の超スピードでブラッディージョーズに怒涛の猛反撃だァーーッ!」




「何だ……何が起こっている! さっきまでのフェニックスギアの動きじゃない! あの赤い創成因子ホビアニウムは一体……ッ!?」


 理解出来ない。有り得ない。認めない。

 一条寺ハジメの動揺する感情を感じ取り、見兼ねたまわるは静かに口を開いた。



太陽光吸収機関ソルブレイザーは機体の表面から吸収した太陽の光をフェニックスギアの創成因子ホビアニウムに変換する固有ユニットだ」



「太陽の……光だと?」



 一条寺ハジメは空を見上げた。

 燦々と会場を照りつける太陽の光。

 太古から命ある全てのものを見守り、育んできた聖なる力こそがフェニックスギアの力の源だった。



「これが……フェニックスギアの本当の力だと言うのか」



「そうだ。そして俺の指示を合図に蓄積した創成因子ホビアニウムが解き放たれフェニックスギアは無敵時間ゴールデンタイムを迎える」



『チェストォォォォォォォォ!』



 フェニックスギアは一瞬の間にブラッディージョーズの懐に潜り込み、ソウルギアの埋め込まれた胸部ボディ装甲アーマー目掛けて強烈な拳を叩き込んだ。



「調子に乗りやがって! 更に強力になった第五打で噛み潰してやる!」



 カチッ。

FINISHフィニッシュ OVERオーバー!』



「ブラッディートルビード!」



 再びブラッディージョーズの大顎から無数の歯のミサイルがフェニックスギア目掛けて放たれる。


 しかし、そのミサイルには先程のような追尾能力が失われていた。



「な、何故フェニックスギアを追尾しない!?」



 ミサイルの挙動は今までの永遠に獲物を追い続けるサメの挙動とは異なり、直接的な軌道を描くのみだった。



「ブラッディートルビードは確かに強力な必殺技だがお前は肝心なことを忘れているようだな。既にフェニックスギアは機体を再創成化リアニマライズし血の刻印を打ち消している……つまりもうブラッディートルビードはフェニックスギアを追尾できないのさ!」



『チェストォォォォォォォォ!』



 フェニックスギアは悠々とミサイルの雨を避け、再び渾身の拳をブラッディージョーズに叩きこむ。



「クソッ! 一度血溜まりに潜んで体制を立て直すんだ!」



 大きく弾き飛ばされながらもなんとか血の池の中に姿を隠すブラッディージョーズ。



「逃がしはしない! ギアライフルを構えろ!」



『了解!』



 まわるの指示によりフェニックスギアがいつものように腰のホルスターからギアライフルを抜くとまるで熱が伝わっていくようにギアライフルが赤く染まり、銃身には太陽を模した意匠が施された。



「な、なんだあれは!?」



「ギアライフルがフェニックスギア専用の固有ユニットに創成化アニマライズされているぞォーーーー!! これもフェニックスギアの能力なのかァーーーー!?」



「ま、まさか! 地中に隠れた機体ごと撃ち抜くつもりか!? 不可能だ!」



「今のフェニックスギアに出来ないことは何も無い! これで終幕エンドロールだ!」



 カチッ。

FINISHフィニッシュ OVERオーバー!』



 赤いギアライフルの銃口の先にフェニックスギアの創成因子ホビアニウムが収束し形を成していく。


 やがてそれは綺麗な赤い球体と回転する光の輪を作り出した。


 光の輪が回転すればするほど球体は熱を宿すように赤く輝いていった。



「あ、当てられるものなら当ててみろ!」



『充填完了! 一撃入魂!』



「フェニックスブレイカー!」



 フェニックスギアは地面がめり込むほどパワーで強く蹴り上げ、ギアフィールドの上空へ飛び上がった。



『チェイサァーーーー!!』



 目標の敵に狙いを定めるとギアライフルのトリガーを引いた。



 次の瞬間、生み出された球体から凄まじい光と轟音とともに高密度の赤いレーザー光線が放たれた。



「う、ううう、うわァァァァァァァ!!」



 真っ直ぐに、標的に向かって突き進む赤い光の柱が地面に突き刺さる。



 地中に潜むブラッディージョーズにフェニックスギアの必殺技フェニックスブレイカーが的中しブラッディージョーズは素体ごと砕かれた。



太陽光吸収機関ソルブレイザーの開放によって得られるのはスピードだけじゃない。パワー、ディフェンス、テクニック……ギアソルジャーが持つあらゆる能力を限界まで底上げするのが太陽光吸収機関ソルブレイザーの特殊能力なんだわ。まさに無敵時間ゴールデンタイム……全てを置き去りにする無敵の力……」 



 ギアフィールド内にはブラッディージョーズの中にあった黒く染まったソウルギアだけが残された。


縦に大きな亀裂が入っているがかろうじてまだ動いているようだった。



「ブラッディージョーズ戦闘不能につき勝者は歯車はぐるまわるだァァァァァァァァ!」



『オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!』



「馬鹿な……ボクのブラッディージョーズが粉々に……グッ!? グァァァァァァァ!!」



「首が熱い! 熱い! 誰か助けてェェェェェ!」



「一条寺さァァァァん!」



「これは一体どうしたことでしょうか!? 一条寺選手達が突如首元を抑え始めたぞォ!」



 突如一条寺ハジメとその取り巻きが首を抑え、地面にのたうち回り始めた。


 首元には赤黒い痣が光を放っていた。



「一体どうなってる? あの光る痣は何だ?」



『あの子達の身体の中にあった黒い創成因子ホビアニウムがブラッディージョーズの黒いソウルギアの中に吸い出されていく』



「ソウルギアがか?」



『まるでみたいだ……どんどん生命力を奪っている』



「あ、あああぁぁぁっ! なんだ!? ボクの……ボクの身体がぁぁぁぁっ!」



みるみるうちに生命力を吸われた少年達の身体からは砂のようなものが溢れ落ちていた。



「ふふふ……そろそろ食べ頃かしらね」



「っ!?」



 どこからともなく赤いロングコートを着た女が現れた。



 恐ろしい程のプレッシャーを放っている。



『ッ!? 気をつけろ! この女は人間の形をしているが人間じゃない!』



「人間じゃない……だって?」



『体内構造は人間というよりギアソルジャーそのもの……それに黒い創成因子ホビアニウムの量も濃度も桁違いだ!』



「貴方達には期待していたのだけれど所詮人間は人間。三人分の感情エネルギーを使ってもこの程度。残念ながらようね。しかしここまで美味しそうな魂に育つなんて、この子達の感情を引き出してくれてありがとうボウヤ……それじゃあ頂きます♡」



 女が右手を3匹の蛇に変化させると3人の赤黒い痣にそれぞれ蛇が噛み付いていった。



「っ!? 身体が蛇にッ!?」



「あぁ……♡  なんて甘美な味……♡」



「何だ君は! どこから入った!? 一体その子達に何をしている!? 早く離れなさい!」



「人間の癖にせっかくの食事を邪魔するなんて……死を持って贖いなさい」


 女は殺気を強めると今度は髪を無数の蛇に変化させ、警備員を襲わせた。



「な、なんだこれは! うわァァァァァァァ!」



『まただ、またあの蛇は人間の感情エネルギーごと魂を食べている』



「なんだが知らないがいきなり出てきて好き勝手してんじゃねぇぞ! 行けフェニックスギア! あいつを止めろ!」



『チェストォォォォォォォ!』



 フェニックスギアは女目掛けて高速で突進した。

 しかし女は口を開け舌を突き出すと今度は舌を蛇に変化させフェニックスギアを迎え撃った。



『クッ!?』



「所詮人間の力を借りなきゃならない貴方じゃその程度。私達に勝てる道理なんてないのよ」



『ッ!?』



 フェニックスギアの一撃は女の舌が変化した蛇に容易く受け止められ、アリーナの壁まで弾き飛ばされた。叩きつけられた衝撃で壁は崩壊し、瓦礫の中に埋まってしまう。




「フェニックスギア! クソ! 力が違いすぎるのか!?」



 女は舌に付着したフェニックスギアの創成因子ホビアニウムを味わうように舌で転がした。



「しかしこの創成因子ホビアニウムの味は最高ね。だから今はまだ食べないでいてあげる」



 女は蛇に変化した身体を元に戻した。


 蛇に襲われていた人間達はやがてピクリとも動かなくなった。


 会場は観客の悲鳴と叫声で混沌とした有様だった。



一条寺いちじょうじ! おい一条寺いちじょうじ!」



 まわるは一条寺ハジメに駆け寄った。


 脈も呼吸も完全に停止している。ついさっきまで生きていたのに今はまるで魂ごと抜き取られたようにその場に横たわっていた。


 まわるは一条寺ハジメを抱き抱えようとした。


 しかし身体はみるみる原型を失っていき最終的に灰となって崩れ落ちてしまった。

 蛇に襲われた他の人間達も同様に灰となって崩れ落ちていった。



「……嘘だろ?」



 人が死んだ。

 自分の目の前で。

 人ならざる女の手によって。



「ご馳走様♡」



「……お前は誰なんだ? 一体なんの理由があって人を殺す?」



「可笑しなこと聞くボウヤね。人間だってお腹が空いたらパンをかじるし、喉が乾いたら蛇口を捻るでしょう? 私達にとってそれがたまたま人間だっただけ」



 満たされたお腹をさすりながら頬を赤く上気させ恍惚とした表情をしている女。

 そこには人を殺したことに対する罪悪感など微塵もない。

 殺戮はただ空腹を満たすための行為に過ぎなかったのだ。



「でも今は気分がいいから答えてあげる。私の名前は蛇凶じゃきょう。神と呼ばれしギアソルジャーに仕え、その復活を望むもの」



「か、神と呼ばれしギアソルジャーだと?」



 蛇凶じゃきょうと名乗る女は左手の薬指に嵌められた指輪を掲げた。指輪には『恐』という字が彫られている。



「立っているのがやっとの癖に一丁前に虚勢なんか張っちゃって可愛い。ねぇボウヤ……私のことが恐い?」



 女はニタァと張り付けたような笑みを浮かべながらサングラスを取った。



「っ!?」



「ふふふ……♡」



 女の眼はアルビノ種の白蛇のような赤く鋭い眼をしていた。


 蛇凶じゃきょうの眼を見た瞬間、根源に眠る恐怖心を浮き彫りにさせられてまわるはその場で跪き、石像になったように動かなくなる。



「貴方ならもっと美味しい魂に育ちそうねぇ……他の連中に横取りされる前に、下ごしらえをしておこうかしら」



女の指が再び蛇に変化し、廻の首元に噛みついた。



「グッ……ァァァァァァァァ!」



まわる!? まわるーーーーッ!!」



体内に直接熱湯を注ぎ込まれるような激痛がまわるを襲った。



「へぇ……私の創成因子ホビアニウムを受けて気絶せず耐え切るなんて……これは本当に当たりかもね……フフフフフ♡」



 指輪から黒い創成因子ホビアニウムが煙のように噴き出され、女の身体を包み込んだ。



「でもまだ全然足りない……もし私の遊び相手になれるまで成長したならまたその時にまた会いましょう、歯車はぐるまのボウヤ」




『逃がすか! チェイサー!』




 瓦礫の中から脱出したフェニックスギアがギアライフルで女を狙い撃つも、赤い弾丸は黒い創成因子ホビアニウムに吸収されてしまう。



まわる! 必殺技トリガーを押せ! 最大火力のフェニックスブレイカーで……まわる? どうした!』



「ハァハァ……ハァハァ……」



 身体が恐怖に支配され、動けなくなる。

 早くいなくなって欲しいとすら思えた。

 まわるは蛇の一睨みで戦意を完膚なきまでへし折られたのだ。



『一体どうしたというんだ!』



 黒い創成因子ホビアニウム蛇凶じゃきょう蛇凶じゃきょうの放つ殺気と共に消えていた。



「……………………ッ」



まわる!? おいしっかりしろまわる!!』




 蛇凶じゃきょうの消滅と共に、まわるは緊張の糸が切れたようにその場で気を失ってしまった。








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