第23話 業炎
「おおおおおおおおおおおおおお!!!」
【
(ならば......!)
【
右に展開して再度【空間壁】をーーー
「甘いんだよ三下が!」
そう叫ぶと風宮が俺に翳していた左手をエイムを合わせる様に動かし......その手のひらから放たれていたドリルの如き旋風が再度俺を捕捉した!
「しまっーーー」
「消し飛べェ!」
容易に何処までも敵を追尾し、逃げることを絶対に許さない......それが奴の技、【
眼前まで迫った死の旋風を前に俺は......
ギャリギャリギャリギャリィィィィ!!!
「ーーーえ?」
俺の【空間壁】を展開する速度よりも奴の【風の猟犬】の補足速度の方が速い。だからこそ俺はあの瞬間、自分の敗北を覚悟したのだが......何故か【風の猟犬】が俺に届くよりも早く俺の前に【空間壁】が展開されていた。
(この感覚......間違いない)
これはーーー再展開じゃない。さっきまで展開していた【空間壁】を動かしたんだ。無意識で。
(生体の咄嗟の防御反応......か?まあ良い。これなら!)
嬉しい誤算だったが、今ので【
そしてもう一つ、【
着地したその脚でそのまま風宮の方向へ方向転換し、一気に距離を詰める。左腿が痛むが気にするな。走れ!
「チィッ!」
派手な舌打ちと共に【風の猟犬】を放ってくるが......俺は止まらない。奴に接近する程度の時間は余裕で保つ筈。
「終わりだ、風宮!」
「こいてんじゃねえぞ!......【
風宮が周りの風の流れを操り、自身の周囲に他者を拒む強烈な暴風を生み出す。アレも触れればひとたまりもないのであろう。
しかし俺はそれを意に介さない。介す必要もない。左手を前方に出して【空間壁】を維持しつつ、右手で腰後ろに隠す様に付けておいたウェストポーチから用意しておいた物を掴み取り......
「【
瞬間......風が、凪いだ。
「......は?」
風宮の呆気にとられた様な声が目の前で聞こえる。そして俺は右手に掴んだその赤みがかったガラス玉の如きボールを風宮に向けて放り投げ......
「すまんな」
「何を言って......」
【
「ガァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
着火した炎に奴の【
視界の端では審判と治療員が血相を変えて話をしている......決着は近いな。
『し、試合終了!
決着を告げる銅鑼の音が鳴り響く。同時に風宮がその周りを取り巻く炎の渦ごと氷漬けにされた......教員の【
『お待たせいたしました。
「やったッス!兄貴ィィィィィィィ!!!!」
「はは......」
歓声もクソも無い勝ち方をしたが、まさか本当にノーコメントとは......黒岩が馬鹿みたいになっちゃうだろ。馬鹿だけど。
実際に会場中の観客の反応は困惑、疑問......みたいな感じだ。
『小手川選手は退場して下さい』
アナウンスが入ったので、先ほどとは異なる北ゲートから退場する。
「まさか本当に勝つとはね」
「......んだよ、その為に指導してくれてたんじゃ無いのか?」
「してたけど。だからって本当に......」
ゲートを潜ると
「実際お前の指導のおかげさ。ありがとな」
「まあそう言われて悪いかはしないけれど。取り敢えず言っておくわ、一回戦突破おめでとう」
「サンキュー」
「色々聞きたいことはあるけれど......取り敢えず貴方も医務室ね」
「そうだな。普通に歩くだけで結構痛い」
幻坂から肩を貸そうかと提案されたが、幸い歩けないほどじゃ無いので自分で歩くことにする。
医務室へ向かう道すがら、幻坂が口を開いた。
「アレ、どうしたの」
「アレ?」
「あの炎よ。渦を巻かせてたのは風宮の【
「あぁ。あれはこいつだよ」
ウェストポーチから例の玉を取り出す。
「何?この玉......ちょっと赤みがかってるって言うか、赤い紋様みたいな」
「これはだな......」
幻坂に経緯を話した。
これは要するに、丸い氷を作る製氷機に水ではなくガソリンを入れ、それに着火した物だ。ただし燃え始めた瞬間、その『状態』と『形』を固定してあるのだ。
バッティングセンターで黒岩が買ってきたアイスが溶け始めていた際にあいつが言った言葉......
『あーあ。溶けないアイスがあったらいいんスけどね』
この言葉に着想を得て編み出した【
溶けないアイスと言う言葉を聞いた俺は、もしかすれば自分の【
早速家に帰る前に大量のアイスを買って特訓を行い......多くのアイスを犠牲にこの【異能技】を修得した。
その後は同時に思いついていた攻撃方法として、マッチやライターなどに火がついた状態を固定する事でやつに対抗しようとした。しかし、もちろんそれだけでは瞬時に燃える事などないし、第一強すぎる風に吹き消されてしまうだろう。
そこで俺は瞬時に燃え上がらせる方法としてガソリンを使う事を思い付いた。携行しやすい様に丸氷を作る為の製氷機の型にガソリンを注ぎ、そこに着火した瞬間、【
あとはそれを最大限に活かす方法を考えた時......奴の異能である【
火災現場では風が吹き付ける事によって酸素が供給され、逆に燃え広がってしまうケースがあると言う。俺のガソリン玉は火を付けるのではなく、既に付いている火を出現させる物なので、奴の風の勢いが十分であればより大きなダメージになるだろうと予想した。
加えて模擬演習の際、奴は接近されると吹き飛ばすべく必ず周囲に暴風を吹かせる【
しかしそもそもの話、あの【風装:嵐】を使われてしまうと、ガソリン玉を当てることが出来ないと言う問題が発生した。だから俺は早急にもう一つの【
幸い【
即席の付け焼き刃ということで固定できる範囲は非常に小さい。しかし、奴の【
そうして俺はあの瞬間、奴の残った左手の周囲だけを固定する事で暴風を一瞬止ませ、その隙にガソリン玉を投げ込んだ、と言うわけだ。
「まああんな事になるとは予想外だったけどな」
「普通に焼け焦げてたじゃないの。控えめに言ってえげつないわよ、アレ。ちょっと引いたし」
「火だるまになるのは予想してたけどまさかあんな炎の大竜巻になるなんて......」
火災旋風、とは少し違いそうだが、似た様な現象が起こっていた。あれは異能の範疇じゃないから俺の制御が効かなかったのだ。
「まあ勝ちは勝ちよ。どんな手だろうと
「お褒めに預かり光栄です......と、着いたな」
「そうね。後は救護員の先生に頼んどきなさい。先に戻ってるわ」
「ああ。そうしてくれ。ありがとな」
「お大事に」
幻坂はひらひらと手を振って歩いて行った。
その後は救護員の先生に治療を受けつつ、2回戦進出を祝われた。が、同時に
『知ってると思うけれど風宮君、かなりプライドが高いし家も結構良いところだから、無いとは思うけれど報復に......なんて事もあるかもしれないわ。気を付けろ、とまでは言わないけどあまり刺激しないほうがいいわよ』
と忠告された。
......いやまあごもっともだ。実際に
そんなことを思いながら、黒岩たちの待つスタンドへ戻った。
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