第155話 悔恨
自ら率先して囮となり、見事にその役目を果たしたスパーダであったが、今はこの戦場に来たことを後悔していた。
いつまで持つか分からない結界に、何度も何度も体当たりを繰り返す【大百足】
【ミルメコレオ】と呼ばれる獅子の上半身と、蟻の腹部を持つ異形な魔物は、結界に向けて何度も何度も何度も、尻から液体状のものを飛ばしている。
いわゆる【蟻酸】である。
透明で強い刺激臭を放つそれは、結界の見えない壁に沿って地面に流れ落ちては、土や岩を溶かしている。
女性の上半身と蜘蛛の下半身を持つ【アラクネ】は、結界に殺到する他の魔物たちの様子を、ただ静かに眺めている。
人の姿をした頭部に光る二対四列―――八つの瞳には高い知性が感じられ、見る者には底知れぬ恐怖を抱かせる。
(こんな……、こんなヤツが来るなんて聞いてねえぞ!)
スパーダは表情を凍らせて、すぐ目の前まで迫りくる魔物の群れを見つめていた。
「怖いか?」
すると、すぐ近くからスパーダを気づかう野太い声が聞こえた。
驚いて視線を向けると、そこには身体よりも大きな楯を構え直しているバレットかいた。
「こ、怖くなんてない!」
自分から名乗り出たのに、今さら尻込みしているとは言えないスパーダは、とっさにそう答える。
「ガッハッハ!なかなか言うじゃねえか!から元気でもいい、前を向くヤツこそが乱戦じゃ生き残るんだ。もっとも、こんなヤツら屁でもないがな」
そう不敵に笑うバレットであった。
ここまで囲まれたのに、決して焦る素振りも見られない、むしろ普段よりも落ち着いた様子にも見えるその姿に、スパーダは根拠のない安心感を抱くのであった。
「んじゃ、行ってくるぜ」
そう言ってバレットが歩を進めると同時に、戦場における司令塔のクリフから矢継ぎ早に指示が飛ぶ。
「
「了承!」
「
「承知した」
「おいおい、ということは……」
バレットが指示の意味を理解して、ニヤリと笑う。
「
「当然」
「ならば、あのライオンもどきを頼むッス」
「了承」
そしてクリフはひとつ頷くと、好戦的な笑みを浮かべる。
「蜘蛛はオレが殺るッス」
その宣言を聞いてスパーダも驚いたが、それ以上にディニエルたちダークエルフは驚く。
「ばっ、バカな!」
「確かに時間稼ぎとは言ったが……」
「何だその指揮は!」
「みすみすと死ぬ気かよ……」
当初は、冒険者たち全員で協力して敵方の魔物を削って行くものだとばかり思っていたのだが、ミルメコレオとアラクネにあっては、まさかの
「くっ、早く召喚を!」
「分かっている!」
「【
そんな慌てた様子のダークエルフたちを後目に、クリフは作戦開始の合図を出す。
「
「「「「応!!!!!」」」」
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