第128話 乱戦

「えっえええええええええ!」

「狼が現れた……」 

「どういうことニャン?」

「お兄ちゃん、分かる?」

「う〜ん、初めて見るね。あれは魔術なのかな……?」


 見張り台から魔物の群れの様子を見ていたアルフォンスたちは、突然現れた【ガルム】の群れに驚きを隠せずにいた。


「魔術じゃなくて【召喚インヴォカーレ】。詳しいことは後で話すよ」


 そこへララノアが、目の前で起きた現象の説明をする。

 詳しいことは後回しのようだが、どうやらこの村の秘密に関わることのようだ。


 さっきまで見張りをしていたキールは、もうここにはいない。

 ララノアたちにここにいるようにと厳命し、村の入口に向かっていた。

 おそらくは迎撃に赴いたのであろう。


 一方、グルックたちは馬車に戻って、その周囲を守ることにした模様。


「現状維持か……」


 その様子を見たアルフォンスは、気落ちしてひとつため息をつく。


 積極的に村の側についてくれることを期待したのだが、この短時間では決断に至るまでの情報は得られなかったのだろう。



 そうこうしているうちに、魔物の群れが麦畑を踏みつけながら村への侵攻を開始した。


「ああっ!ダメえええ!」


 それを見たララノアが悲しげにそう叫ぶ。

 あれほど誇りにしていた麦畑を踏みにじられたのだ。

 その心境を慮るのは容易であった。



 そしてついに、戦端が開かれた。 


 相手はゴブリンを中心とした魔物たち。

 ゴブリン自体はそこまで強い魔物ではないが、とにかく数が多い。

 ニ百……いや、三百はいるだろうか。


 対して、魔物たちを迎え撃つのは、魔術を巧みに操る村人。

 そして、急に現れた白い狼たち。


 戦力比は三倍以上。

 一見すれば絶望的な戦いにも見える。


 だが、実際に戦いが始まってみれば、数に関しては相手の方に分があったが、質は村の住人や白い狼たちの方が上だと判明する。


 ただ暴れるだけのゴブリンどもと、地の利を生かして戦い抜く村人たち。

 白い狼―――ガルムの群れにあっては、ボスに従って集団として戦いに挑んでいる状況。


 数の不利を覆し、じわりじわりとゴブリンたちを押し返していく。


 どうやら、村の防衛だけは成し遂げられそうだ、と感じて胸を撫で下ろすアルフォンス。


 だが、そこで新たな動きが起きる。


 村の中から突如として、新手の魔物が現れたのだ。


「何だありゃあ!?」

 

 スパーダが驚くのも無理はない。

 これほどの新手が現れるまで、村の人々は何の反応もしていなかったのだから。


 黒く長い毛に被われた巨大な体躯の【トロル】

 赤褐色の毛並みの双頭の犬【オルトロス】

 獅子の身体、鷲の頭と翼を持つ【グリフォン】

 岩石で作られた人工生命体【ゴーレム】


 それは誰が見ても、攻め入ってきたゴブリンたちよりもはるかに格上の魔物たちだった。


 一瞬、相手の援軍かとアルフォンスたちに緊張感が走るも、ララノアの歓声がそれを打ち消す。


「あっ、あれはキール兄ちゃんとこの【クロ助】だ!【ジェミニ】!【アウラ】!【アグリゴラ】までいる!」

「あれは味方なのか?」

「うん、みんな村の仲間!」


 スパーダの質問にララノアが嬉しそうに答える。


 どうやら新手の魔物は味方のようである。


 さっきの村人たちは、新手の魔物に反応しなかったのではなく、味方であるがゆえに反応する必要が無かっただけなのだと知る。


 そして、新手の魔物たちの戦い方もまた


 一方が敵の一団を追い立てると、その先ではもう一方が待ち伏せていてこれを仕留める。

 それはまるで、勢子と狩手が分かれた巻狩りのよう。 


 相手は為すすべもなく、その数を減らしていく。


「うわっ、すげえ」

「ここまで一方的になるなんて……」

「魔物が役割分担してるニャン」 

「かっこいいい!」


 キャロルたち、元奴隷の少年少女たちもその圧倒的な展開に歓喜している。

 やはり、心情的にはララノアのいる村の側

を応援しているのだろう。



 ともかく、これで大勢は決したと思われた。

  

 ただでさえじわりじわりと押していた戦況が、新手の魔物という援軍の加入で一気に殲滅戦へと傾いた。


「ハハハッ、隊長の時間稼ぎに付き合ってくれてありがとうよ!おかげでこっちは、【クロ助】を呼び戻すことが出来たぜ!」


 迎撃に出向いたキールがそんな軽口をたたく。

 

「麦畑を荒らした報いを受けてもらう!」

「この裏切り者が!」

「誇りを忘れた愚者共が!」


 村人たちが口々にローブの者たちを罵倒する。


 そんな姿を見て、アルフォンスはローブの者たちと村人たちに何らかの関係性があるのだろうと予想をつけるのであった。

 



 

 

 

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