番外編 樹上の薔薇

 から咳が部屋に響く。

 質素ながらも精緻な意匠の家具が並び立つこの部屋こそ、少年の自室であった。

 今朝は体調が優れず、朝食も大きな寝台の上で取ったほどだ。それも全て平らげる事はできなかった。

 今日は一日中、部屋から出してもらえないだろうな、と思いつつ分厚い本を開く。何度も見た神話を題材にした本だ。

 元から体が弱かった少年は、よく風邪をひいたり熱を上げたりを繰り返して、外に出してもらえない代わりにたくさんの本を父から贈られた。

 読書は嫌いではなかった。熱中すると時間を忘れるほどに読みふけってしまう。


 ふいに窓の外の木が、がさりと音を立てたような気がした。風によるものではなさそうだが、かといって鳥がとまったにしては大きな物音だ。

 なんとなく気にかかって、読みかけの本を置いて窓際へ近づく。

 両開きの窓を開けて顔をのぞかせようとした時だった。


 印象的な薔薇色の瞳と目が合った。


「……えっ!?」

「うわ」


 驚いた拍子によろめいて尻餅をついてしまう。一瞬息が詰まり、再び咳が出始めた。

 なんとか呼吸を落ち着かせて窓を見上げると、美しい薔薇色はまだそこに居てくれた。


「だ、大丈夫か……?」


 問うのは同じ歳か一つ下ほどに見える子供。白い肌に薄汚れた衣服を纏っている。癖のある短い金髪は手入れもされていないらしく、ぼさぼさとあちこちに跳ねている。

 どう見ても貴族とは縁遠い──孤児や物乞いのいで立ちだ。

 いや、それよりもまず。


「君、どうやって……ここは二階……」


 そう。この部屋は二階にある。もちろん外から登ってこれる階段などはない。

 あるとしたら──


「どう、って……これを登る以外にあるのか?」


 そう言って小さな侵入者は自身の足元を指さす。園庭の、建物に一番近い樹木を。


「木を、登って?どうして……君はこんなところに来たの?一体君は……」

「あー、なんて言うか……遊び?みたいな?」

「遊び……?」


 歯切れの悪い返事に眉をひそめて首を傾げる。それから立ち上がって改めて向かい合い、気が付いた。目の前の子供は驚いた事に少女なのだ。


「どこまでいけるか……自分の力を試してみたかったって言えばいいか?路地裏から貴族街の奥まで──見つからずに入り込めるのか、って」


 木の上で器用にあぐらをかいた少女は身振り手振りで自分の意思を一生懸命に伝えてくる。怪しい人物ではないと説明したいらしい。

 その表情と、くるくるとよく動く瞳に魅入られた。


「別に何か盗もうとかいたずらしようとかって訳じゃないんだ。ただちょっと休憩しようと思って……。だから──っ」


 少女の言葉は、自身のかわいらしい腹の虫に遮られた。


「お腹、すいてる?」

「……!」


 反論をされる前に寝台の横にある小さな円卓に駆け寄る。白い皿に残していた手付かずのパンを取り上げると窓辺に戻った。


「よかったら、これ」

「え……」

「残りものでごめんだけど、このまま捨てられるのももったいないから……」

「いや、だからあたしは物取りって訳じゃ」

「これは僕があげたいんだ。もらってくれる?」


 でも、と渋る少女に身を乗り出してパンを差し出す。


「だったらもらう代わりに外の話を聞かせてよ。僕、体が弱いからなかなか部屋から出れなくて、屋敷の外の事は滅多に知れないんだ」


 困ったように眉を八の字にして「そんなのでいいのか?」と問われ、少年は笑顔と共に頷いた。


「へんなやつ」


 心底妙ちくりんなものを見るような眼差しを向けられたが、ようやくパンを受け取ってもらえて安堵した。

 その時だった。


「ロイル様、具合はどうですか?」


 部屋の外から侍女の声がした。

 焦った少年、ロイルはとっさに窓を閉める。向こう側では少女がひらりと木の下へ降りる姿が見えた。

 背中を向けたその腰に、短剣のような物をくくり付けているのを目の端に捉えながら、開いた扉を振り返る。


「あら、起きてらしたのですね。体調は落ち着きましたか?」

「う、うん。もう平気。ちょっと外の空気を吸いたいから換気しようと思って」


 そうして改めて窓の外を見ると、少女の姿はどこにも見えなくなっていた。

 もう一度会えるかはわからない。少女の気まぐれで顔を見せてくれない限り、屋敷から出られない自分には探す事すら叶わないのだ。

 ただ、あの薔薇色の瞳をもう少し眺めていたかった。


 ロイルは後になってから、少女の名を聞く事も、名乗る事もできなかったな、と落胆したのであった。




 少女との出会いから数日。ロイルは机に向かってペンを走らせていた。家庭教師から出された課題をこなしているのだが、全く身が入らない。

 ふとした瞬間にあの邂逅を思い出してしまう。小鳥か栗鼠のように木の上にちょこんと座る姿。意志の強さを感じるきらきらと光る瞳。

 ぼんやりと広げた用紙を眺めていると、背後から、こつんと小さな音がした。

 まるで窓に小石がぶつけられたような──


「……っ!」


 弾けるように窓辺へ向かうと、以前と同じように窓の外の木に立つ少女がいた。窓を開けて確認しても、薄汚れた格好も薔薇色の瞳も変わりない。


「き、来てくれたんだね……!?」

「約束してたからな。外の事を話すって」

「そのために、わざわざ……?」


 二度と会えないかと思っていた。まさか本当に約束を果たそうとしてくれるとは。案外律儀な少女である。


「気が向いたから。もらいっぱなしもすっきりしないし……」

「ありがとう」


 満面の笑みで頭を下げると、肩をすくめて「へんなやつ」と言われた。


「あ、あのさ、僕、ロイル。ロイル・ドルーウェンっていうんだ。君は?」


 やっと切り出せた。心臓がばくばくしている。


「レウナ」


 少女は短く答えた。誰が付けた名前かはわからないが、ずっとそう呼ばれているらしい。

 それからレウナは身の回りの事を語り始めた。

 普段は路地裏で気ままに生きていて、住処も決まっておらず、残飯を漁ったり稀に食料を分けてくれる人からもらってその日暮らしをしている、と。

 隣国との戦が終わって一年ほど。浮浪児や戦災孤児が当たり前にいる世の中ではあるが、王家の遠縁といわれるドルーウェン家の次男として生まれたロイルには想像もつかなかった。

 あらかた話が尽きると、レウナは人に見つかる前に退散しようとした。


「待って!あの、これ……!」


 ロイルは机の引き出しに隠していた間食として出された焼き菓子を一つ取り出した。実は、いつレウナが来てもいいように毎日何かしら残していたのだ。


「よかったらもらって。それから、できたらでいいから……また、来てほしいな、って……」


 頬が熱い。何を言ってるんだろう、と思われるのではないか。

 ぐるぐるとした不安は、差し出した焼き菓子が手から抜き取られた事で霧散した。


「仕方ないやつだなぁ……。あたしみたいなのしか話し相手いないのか?」


 図星を突かれて口籠もる。


「仕方ないからまた来てやるよ。気が向いたらな。……って、うまっ」


 焼き菓子に齧り付いたレウナが思わず目を見張る。そのままぱくぱくと平らげてしまう。


「こんなうまいもの初めて食べた。この前のパンもよかったけど。ありがとな」


 じゃ、また、と言うと、レウナはひらりと地面に降りてしまった。

 背中を向けて走り去っていく姿を見て、腰の短剣の事を聞き忘れたな、と気付いた。

 けれど「また」と言ってくれた。義理堅い少女の事だからきっと約束を果たしにくるだろう。

 そう思いながら、ロイルは薔薇色が消えてしまった外の景色をしばし眺めていた。




 結局レウナに短剣の事を尋ねられたのは、あれから二、三度姿を現してくれた後だった。顔を見ると嬉しくなって聞きたい事を忘れてしまうのだ。

 レウナ曰く、その短剣は気付いたら持っていたそうで、出どころもわからないらしい。


赤月あかつきっていうんだ」

「名前があるの?」

「ああ。よくわからないけど、そうなんだ。あとあたし以外には抜けないぞ」

「え?」


 首を傾げるロイルに、レウナは鞘ごと短剣を投げ渡した。

 それほど重いという訳でもない。難なく引き抜けそうに見えるが──確かに鞘にくっついてるかのようにびくともしない。


「それから抜き身の場合は何も切れない」


 一度レウナの手元に戻った短剣は、すんなりとその中身を露わにした。

 名前の通り、月のように湾曲した赤い刃。太陽の光が反射してまばゆい輝きを放っている。

 ロイルはその状態で再び赤月を持つと、間食として出された、切り分けられているりんごを割ってみようと試みた。


「あれ……?」


 しかし、いくら力を入れてもりんごに刃が立たない。おそるおそる刃に触れてみても皮膚が切れたりしなかった。

 再びレウナが赤月を手にし、同じようにりんごに刃を向ける。すると、しゃりっと軽快な音を立てて真っ二つに割れるのだ。

 そんな赤い刃をまじまじと見て、ロイルは若干興奮気味に身を乗り出した。


「これって、神器しんきじゃないかな」

「しんきぃ……?」


 素っ頓狂な声で問うレウナに説明する。

 はるか昔、十二の神々が使っていたと言われる神器。その武器は使い手を選ぶと本に書かれていたが、まさにその特徴通りである。


「実はこの家にも一つ保存されてるらしいんだけど、まだ父さんから許可が降りなくて触った事も、見た事もないんだ……」


 使い手に選ばれなくとも、いつかは実物に触れてみたい、というのがロイルの夢だった。


「でも、どうして君がこれを……どこから、どうやって手に入れたんだろう……!」

「だから知らないってば!」


 珍しく少年らしいきらきらとした瞳で語り始めるロイルに少々辟易しながら、レウナは両手を挙げて降参するしかなかった。




 レウナとの邂逅から数ヶ月が過ぎた。

 時に見張りに見つかり追いかけられ、時に雨の中隠れてやって来た日もあった。

 侍女や執事たちに浮浪児と関わるな、と再三注意されても、ロイルは「レウナは僕の友達だから」の一点張りだった。

 ならば、とレウナを捕まえようとしても、すばしっこい身のこなしの少女を誰も捕らえる事ができないでいた。


 この日も、いつも通り庭の木に登ってきたレウナだったが、うっかり失態を重ねてしまう。

 そしてそれが、二人の運命が大きく変化する転機となるのだった──


「それ、どうしたの!?」


 開口一番ロイルの焦ったような声を聞いて、しまった、と思った。

 慌てて左腕を体の後ろに隠してももう遅い。

 そこには昨日散々叩かれたり蹴られたりした痕が青あざとなって現れていた。

 八つ当たりのようなものだ。あいつだけいい物を食っている。あいつだけ貴族に贔屓されている。などと、不当に思う路地裏仲間たちが不満を発散させるための。

 自分の物は自分で手に入れる。それができないのに文句を言われる覚えはない。

 けれど、何かに当たりたくなる気持ちはわかる。

 だからレウナは受けはしても自分から手を出す事だけはしなかった。


「まあ、あたしでもしくじるって事さ」

「……」


 まだ幼い顔立ちながら、頭脳の発達している少年は、レウナがはぐらかしている事に気づいているだろう。

 だからと言って、もう来なくていい、と宣言されたくはなかった。いい食べ物をもらえるからではない。最初の頃はともかく。

 自分でもよくわからない焦りを感じながら、レウナはいつものように他愛もない話を語り始めようとした。


「そうだ、この間さぁ……」

「レウナ」


 真摯な声に耳を傾けたくなくて、少しだけ視線をそらす。

 その拍子に、目の前に何か黒い物がするすると降りてくるのを捉えた。

 丸くて、横に細い足が何本も蠢いている──


「やぁぁぁぁぁっ!!」

「レウナ!?」


 レウナは頭の横に降ってきたのが「クモ」だとわかると、途端に悲鳴を上げて両腕を滅茶苦茶に振り回した。


「やだ!なんで!とって!!」

「レウナ!危ないよ!落ちちゃう!」


 どうしていいかわからず、ロイルは懸命に手を伸ばす。けれど混乱したレウナには届かない。

 やがて均衡を崩した小さな体は、背中から倒れ込むように落ちていき──


「レウナ!!」


 自身も窓枠から落ちそうなほど身を乗り出しながら目一杯手を伸ばしたが、当然ながら届くはずもなく。ロイルは差し出した右手と瞳を硬く閉じる事しかできなかった。

 そのまま大地に落下すると思われた時、聞き覚えのある声が割って入った。


「なるほど。君がいらずら子猫って事か」


 おそるおそる目を開いて下を確認すると、自分と同じ水色の頭を持つ少年がレウナを受け止めていた。


「兄さん……!」


 現れたのは六歳上の兄フリックだった。普段はシリウス砦で兵士として働いている。いずれ家督を継ぐフリックは、見聞を広げるためも兼ねて普段は兵舎暮らしのため、滅多に会えないのだ。


「父から手紙をもらっていてね。最近出入りするいたずら子猫に手を焼いている、と」

「いたずら……子猫……」


 そのレウナは目をぱちくりさせながらフリックの腕の中にちょこんと収まり、まさに子猫のようになっている。


「よかった……兄さんが来てくれて。ありがとう……レウナを、助けて……くれ……て」


 安堵からか、心臓にかかった負担が今になって襲いかかってくる。

 遠くで名前を呼ばれたような気がした。

 応える事もできないまま、ロイルの意識は遠ざかっていった。




「目が覚めたみたいだな。少しは落ち着いたかい?」


 優しい声音に顔を傾けると、寝台の横に兄が座っていた。


「レウナは……」

「彼女の事を真っ先に心配するんだね。大丈夫、ケガはないよ。……そんなに彼女が大切?」


 単刀直入に問われてロイルの頬に熱が集まる。

 それでも誤魔化す事はせず、正直に頷いた。


「彼女から色々聞いたよ。どんな生活をしてるのか、君とどんな会話をしてたのか、神器の事とか」

「……!」


 眠ってる間に色々知られてしまったらしい。

 上体を起こして口を開くも、何も言葉が出てこなかった。


「それで、考えがあるんだ。これが許可されたら、ロイルもレウナも、いい方向へ進めると思うんだけど……」

「いい、方向……?」


 おうむ返しに問うと、フリックが答えるよりはやく部屋の扉が開けられた。


「準備、終わったけど。これでいいのか?」


 ロイルは突然部屋に入ってきた少女に目を見張った。

 肌は陶器のような白さで、美しい金髪は波打つように幼い顔立ちを引き立ている。腕まくりした少し大きめのシャツからのぞく細い腕には所々包帯が巻かれていた。

 もう十年経てば絶世の美女となるであろう少女は、自身の外見など気にも留めないようにわずかに小首を傾げている。


「こんなにきれいにしてもらったのなんて初めてだから、逆に落ち着かないな……。体は大丈夫なのか?」

「あ……レウナ?」


 眉をひそめてこちらをうかがう少女に、ようやく理解が追いついた。薔薇色の瞳を見るまで誰だかわからなかったのだ。


「他に誰がいるんだよ。本当に大丈夫か?」

「だ、大丈夫だよ!ちょっとびっくりしただけで……!」


 再び顔が熱くなる。レウナを見ると鼓動がはやまり、体が熱を持つ。

 それが病の類いではない事は感じるが、それ以上の事は今のロイルにはわからなかった。

 小柄の少女の体型に合う服はないだろうから、ズボンも含め、ロイルのおさがりを着ているのだろう。それに気付いて余計に全身が熱くなった。


「どうしてそんな格好……」

「なんか、泥だらけのままであんたに会わせるわけにはいかない!って言われて……この様だよ」


 レウナは両腕を広げてみせて、げんなりとため息をついた。ドルーウェン家の洗礼が相当こたえたらしい。


「準備ができたなら行こうか。ロイルも見届けてほしい」


 立ち上がったフリックはロイルに手を差し伸べる。

 状況が把握できないまま手を取ったロイルに、兄はこれから始まる事について説明し始めた。


 レウナをロイルの従者として認めるための試験を行う、との事だった。




 練習用の木刀を手に両者は向かい合う。

 ドルーウェン家に雇われた武術の教師をしている男と、まだ十にも満たない幼い少女だ。

 ここの園庭は剣技の修練をするために広くとられている。その真ん中に二人が立ち、少し離れた場所で屋敷内のほぼ全員が観客として集まっていた。


「では、始め!」


 ドルーウェン家当主であるロイルの父の声を合図に、二人は動き始めた。

 男の周りをレウナがすばしっこく動き回り、隙を探る。一方男は視界にレウナが入るよう立ち位置を変え続けた。

 体が弱いために剣術をほとんど学ぶ機会がないロイルには、何をしているのかあまり判断ができなかった。

 そうしているうちにキリがないと諦めたのか、レウナが男に突っ込んでいく。当然ながら男は一太刀でレウナの攻撃を跳ねのけた。

 小さな体が飛ばされる──かと思いきや、鮮やかに空中で一転して着地し、体勢を整えた。すぐさま次の攻撃に移る。

 なんとかして一撃を入れたいレウナは何度も男に挑みにいくが、似たような結果にしかならない。

 何度目かの突撃で、ついに少女の方の力が尽きた。距離を置いて片膝を突く。

 ここまでか──そう思わせて、近づいて来た男の足を払った。わずかに回避され衣服の裾を裂く事しかできなかったが。

 小さな反撃も虚しく、男に武器を絡め取られ、首元に木刀を突き付けられる。


「そこまで」


 再び声がかかると男は木刀を下ろした。それから尻餅をついたレウナに手を差し出す。

 悔しげな顔のレウナはやや逡巡したが、その手を取って立ち上がった。


「ふむ。まだ荒々しいとはいえ、いい動きをしますな。これは将来に期待ができる。さすが神器に選ばれた者です」

「という事は?」


 ドルーウェン家当主が先を促す。


「鍛えればロイル様の護衛──従者として十分働けるでしょう」


 わっ、と喝采が上がった。

 顔を見せるようになって数ヶ月。なんだかんだで屋敷の者たちも気付けばレウナの事を心配していたのだろう。

 これには屋敷の主も苦笑せざるを得なかった。


「レウナ!」


 おそらく初めて歓声を浴びた当のレウナはなんとも言えない顔で頭をかいている。

 そんなレウナに、ロイルは駆け寄り勢い余って抱きしめた。


「ちょっ!?何っ……」

「よかった!レウナ、よかったよ!これでずっと一緒に居られる!」

「ず、ずっと一緒って……」

「……いや?」


 体を離して不安げな表情を浮かべるロイルに、ため息をつきながらレウナは視線をそらす。


「そうじゃなくて。……あたしみたいなのが本当にいいのか?こんな、すごい貴族の屋敷に……ただの孤児が」

「みんなが君の力をただの孤児なんかじゃないと認めた。もし後から誰かが不満を言うなら僕が説得する。君はここに居ていいんだ」


 それからロイルはほんの少し頬を染め、言葉を繋ぐ。


「ここに、居てほしいんだ」

「……ほんと、へんなやつだなぁ」


 呆れたように破顔するレウナにロイルも笑みを返した。


「わかったよ。これからはあんたの側に居る。返しきれない恩だけど、命の限り返し続けるよ」

「ありがとう、レウナ。これからもよろしく」

「そりゃこっちの台詞だ、ロイル」


 二人はどちらからともなく手を繋いだ。

 そして、見守り続けていた観衆たちに拍手で迎え入れられたのであった。




《完》

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